図書館の女
近くの図書館に資格を取る為の勉強をしに行った時のこと。
それほど自習スペースが広い図書館ではないので4人掛けのテーブルは常に相席状態なのだが、僕が席に着いたのが12時過ぎ。向かいには40半ばくらいのおばさんがいて、隣はおそらく予備校生のお兄ちゃん、斜め向かいには大学生であろうおねぇちゃん。
隣の兄ちゃんは、何やら電卓を使っておそらく物理の問題集に精を出していた。
図書館の自習室などに自ら赴き、文字通り、
“ちゃんと勉強をする”
という行為が苦手な僕としては、隣の兄ちゃんの集中力や勤勉さはとても参考になる。というか、見ていて楽しい。まぁ、「見てないでオマエも勉強しろ。。。」と言われればそれまでなのだが、所謂“デキルやつ”というのは、こういうスタンスなのだな。というのを示してくれる良い例だった。
1時間ほどガッツリ問題集か何かをやり、休憩にイヤホンで音楽を聴く。10分ほど経ったかと思うと、また電卓をたたき始める。煮詰まってきた頃に、日々の勉強のせいで眠気が来たのだろう、その場で頭を伏せて仮眠をとる。15分くらいだろうか。すっくと起きて指の関節をボキボキ鳴らして、また勉強に戻る。
隣にこういういいお手本がいるとこちらもそれにつられて勉強が捗る。
斜め向かいのおねぇちゃんはというと、図書館には来てはみたもののまったく集中できないタイプのようで、参考書を机の上でこねくり回しながら、まったく捗っている様子はない。
その気持ち、痛いほどわかる。
問題は向かいのおばさんで、何をしているかと覗いてみると、なんとナンプレをせっせとやっていた。
「図書館まで来てやることではない」
そう思わざるを得ないが、別に図書館で何をしようが、静かであればとやかく言う筋合いもないのでそっとしておくことにしたが、そのうちこのおばさんも煮詰まったのか、静かに寝息をたてはじめた。
そして、なかなか起きない。
やがて熟睡モードになり、寝息がだんだん荒くなってくる。こうなってくると、こっちとしてはだんだんイライラしてくる。
図書館にわざわざナンプレしに来る必要があるのか。と・・・。
問いたい。小一時間問いたい。
しかも実際ナンプレをしていたのは最初の30分くらいで、あとはひたすら眠りこけていた。
家でやれ。
と思った。さらには歯ぎしりまでしはじめて、その時はさすがに手が出そうになった。
しばらくするとようやく起きて、目を覚ますためにガムを口に入れたのだが、その量が粒ガムを5個くらいほおばっていて、表面の硬い部分を咀嚼する音が館内の静寂を破り、僕の琴線に触れる。ナンプレの間違いに気付いたのか、消しゴムでごしごしと消し始めた・・・。が、その最中に眠りに落ちそうになったときにはさすがに
「オマエは高木ブーか!!」
と突っ込んでやろうかと思った。
オバサンはその後すぐに帰り支度を始め、全ての荷物をバッグに詰め終わりそれを大事そうに前に抱っこする形で抱えた。その瞬間、また眠りに落ちた。
「オマエは何しに来たんだ・・・」
と、同じテーブルにいた僕を含めた三人が思ったと思う。
結局オバサンは僕が帰るときまで目を覚まさなかった。
このまま目を覚まさないんじゃないかと少し怖くなった。