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好きな人がいなくなって、世界の彩度が落ちた

物心ついた頃から今日まで、好きな人がいなかったことがないんじゃないかと思うくらい、
常に恋愛をして生きてきた、
そんな恋愛脳な私だった。

だけど最近なんだか好きな人ができない。
無理して作るものでもないんだけど、
好きな人がいないって、
こんなにも世界の彩度が落ちるんだなあと初めて知った。

失恋すると、世界から色が消える気がする。
全部グレーがかって見える。

だけど、
恋をしていないと、世界はありのままの色だ。
全部正直な色に見える。

この瞬間を味わいたくなくて、
あまりにも平凡で退屈な日常と向き合いたくなくて、
私は世界をずっと鮮やかに見ていたくて、
長く長く恋愛で走り続けてきたのかもしれない。

*

あいつへの返信を考える休憩時間は、
何よりも楽しかった。
あいつが作る音楽は、
この世で一番美しいものに思えた。
心の底から、崇拝していたんだと思う。

それなのに、「子供ができた」と聞いてから、
ピンク色のフィルターが途端に消えた。

あいつの作る音楽を聴いても、
もう何も感じない。
嫌いになったんじゃない、
たぶん私は元から彼の音楽なんて好きじゃなかったのだ。

育った音楽の畑も違えば、作りたい音楽の方向性も違って、今好きな音楽も全く違う。
だからハマるわけないんだ、彼の音楽に私が。

私が好きだったのは彼であって、彼の音楽ではなかった。

*

あの人からの返信を待つ時間はこの上なく苦しかった。
今日もまた連絡は来なかった、明日はきっと…
そんなことを思いながら過ぎていく1週間は、
とてもとても、長く感じられた。

それなのに、「また付き合いとは思えない」と言われてから、
赤色のフィルターが途端に消えた。

あの人の作る音楽を聴いても、
もう何も感じない。
嫌いになったんじゃない、
たぶん私は元から彼の音楽なんて好きじゃなかったのだ。

育った音楽の畑も違えば、作りたい音楽の方向性も違って、今好きな音楽も全く違う。
だからハマるわけないんだ、彼の音楽に私が。

私が好きだったのは彼であって、彼の音楽ではなかった。

*

あいつは嬉しいドキドキを教えてくれた。
年に一度や二度しか会えないはずなのに、
そんなことはどうでも良かった。
彼との繋がりが、この世界を鮮やかにしてくれた。
それはいつも薄ピンクできらきらしていて、
道端の空き缶さえ愛らしく見えた。
なんだって素敵に思えた。
なのに、それなのに、
今はもう何もかも普通だ。
ドキドキなんてしない。

*

あの人は苦しいドキドキを教えてくれた。
2週間に1〜2回は会えるのに、
私は不満だらけだった。
彼との繋がりが、この世界を鮮やかにしてくれた。
それはいつも赤黒くドロドロしていて、
新宿のネオンでさえ鬱陶しく感じられた。
なんだって憎らしく思えた。
なのに、それなのに、
今はもう何もかも普通だ。
ドキドキなんてしない。

*

とにかく平凡で退屈だ。
仕事のミスさえも、ただそれだけで受け流してしまう。
「だけど頑張ろう」でも「だから頑張ろう」でもなく、
ただ、ミスをしたという事実だけが他人事のように流れていく。
時の合間を風のようにするりと吹き抜けていく。

*

耳に入ってくる新しい音楽、
目に映り込んでくる見慣れた景色、
飽きずに口に運ぶいつもの味、
何もかもが、そのままの性質で自分の体に入ってくる。

まるで目標を失った夢老い人みたい。
まるで教祖をなくした信者みたい。

すがるものがなくなって、
私の魂は鮮度を失った。
感動も、衝動も、慟哭も、哄笑も、
何にもなくなった。

*

あれ、私あれから何人の男の人と出かけたっけ。

いつもだったら、すぐに興味が湧いて、
人として好きになるのは当然、
異性としても意識しちゃって、
こっちからガンガンムーブかけて、
恋に落ちるのは当たり前、
落とすのなんて朝飯前。

あれ、あれ?
なんでまだ、誰のことにも夢中になってないんだろう。
こんなことなかったのにな。
どうしちゃったんだろう、私。
人を好きになる方法を忘れちゃったのかな。
考えるより先に体が動いてたけど、
心が動かないんだから体も動かない。

だってそうだよね、
世界がありのままの色をしてるんだもん。
きらきらなんてないし、
きらきらしてない世界から見える人たちは
きらきらしてない。

失恋したことが悲しいんじゃない。
ただ、好きだった人がいなくなったことで、
世界がこんなにも平凡で退屈なものだって気づいちゃったことが、
たまらなく苦しいの。

それだけのことだよ。

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