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告白〜二十億光年のの記憶解凍|#短篇小説


 この短篇小説は、以下のnoteの続篇となっております。


🩵これまでのお話🩵

 ↓ ↓ ↓






《登場人物》




沙良・・・シングルマザー。一人娘が   いる。



斎藤俊彦・・・沙良の高校時代の同級生で元彼氏。



―――



《前回のハイライト》

・・・私も、何を想像してる?



―――お互いが、シングルだから。

―――お互いが、以前付き合っていたから。



また、関係が復活するなんて、何も決まっていない。



期待するのはこわい。もう傷つきたくないから・・・)



堅くなって俯向いていると、突然俊彦が声をかけた。



「―――電車、もう30分でもずらさない?」



意外過ぎて、俯向いた顔を上げた。
俊彦は、至って真面目な様子だった。



「駅前の喫茶店でも良いから・・・。

沙良と、少し話がしたいんだ」

「何とか」〜二十億光年の記憶解凍






告白




万有引力とは


ひき合う孤独の力である

 

宇宙はひずんでいる

それ故みんなはもとめ合う

 

宇宙はどんどん膨らんでゆく

それ故みんなは不安である

二十億光年の孤独〜谷川俊太郎



 沙良は俊彦と連れ立って、駅の改札から再び出た。


(―――こんなふうに、切符を無駄にするなんて、初めてだな)


 沙良はちょっと悪いことをしているような感覚になった。


 週末の夜。駅の中も外も、人で混雑していた。酔いが回ったような声高ながなり声も聞こえてくる。


「―――知ってる店へ行こうか」


 俊彦が沙良の背中を押しながら、進む方向へエスコートした。




 照明が暗めに落とされた、一枚板を使ったカウンターバーに入った。所々にグリーンの照明が置かれていた。




「ごめんな。引きとめて」


「・・・ううん。いいよ・・・」


  沙良は落ちないために、スツールにしっかり座り直した。


「いらっしゃいませ。お飲み物は何かお決まりですか?」


 40代くらいのバーテンダーが、メニューを手に持ちながら、落ち着いた職業的な声で尋ねた。


「うん。ウイスキーを、ロックで。沙良は?」


 バーテンダーがメニューを差し出そうとするのを笑顔で断って、


「・・・じゃあ、スプモーニを」


 と注文した。


 俊彦は沙良の顔、及び様子を、じっと眺めていた。


「・・・沙良がさ、離婚したって聞いたんだ。それなら俺も同じだ、と思ってね。

こんな話は、あまり話したくない?」


 沙良はちらと俊彦を見て、目を逸らすように落とした。


「そうね。・・・話したい訳じゃないけど、俊くんなら、構わないわ」


「うん・・・そうか」


 俊彦はポケットから煙草を取り出し、火をけようとした。


「―――あ、煙草を吸っても?」


 沙良は俊彦に微笑みかけた。


「いいよ。大丈夫。

 ・・・子どもが小さい頃は、受けつけなかったんだけどね」


「・・・・・」


 俊彦は、沙良の顔を見たまま、くわえ煙草をして火を点け、一服吸って煙を吐き出した。


「そうか・・・」


「ウイスキーのロックと、スプモーニです」


 バーテンダーがカウンター越しに、注文したグラスをふたりの目の前に置き、すべらせた。


 俊彦は、ちょっとグラスを持ち上げて見せ、沙良も照れながら同じようにすると、口をつけて飲んだ。


「・・・俊くんの話ってなあに?

 お互いの近況を、もっと詳しく話すことかな?」


「うん。まあ、そうだね。

 どちらかと言うと、俺の話をまず聞いて欲しかったんだ」


「俊くんの話?」


「―――そう」


 俊彦は沙良と目を合わさず、ロックグラスを少し傾けながら、ウイスキーの量を確かめるように凝視していた。


「うちは、母親と元奥さんがうまくいかなくてさ」


 カラン――――カラン。


 ロック氷が、グラフの中で音を立てる。


「最初は2人で暮らしてたんだよ。だけど母親の脚が悪くなって、家をリフォームすることになって。


 そしたらいっそのこと、二世帯住宅まで全体を改修しようってなってさ。
うちは姉貴も嫁いだから、結構部屋も空いてるしね」


「うん・・・」


 沙良は俊彦の顔をずっと見ていた。


「何とか、元奥さんを説得して、同居することにしたんだけど・・・

 よくある話で、嫁姑が合わなくてさ」


「そうなんだ・・・」


「共働きだから、週末くらいしかほとんど顔を合わせないんだけど、世代のギャップって言うのかな?話がまったく合わないんだ」


 沙良はスプモーニをひとくち飲んだ。俊彦の家は、母親ひとりだった。父親は大学のとき亡くなったと聞いている。


「うちの母親は暇だから、共同で使っているキッチンとか、色んな場所を徹底的に掃除するんだよ。そうしたら元奥さんが、『嫌味だ』と言って気に入らなかったりね。

 例えば、TVを観ていて子どもが出てきたら、子ども好きなもんで、『可愛いわねぇ』って喜ぶんだよ。

 それを聞いたあと、部屋に戻って、『孫を催促してるんだ』って泣きだしたりさ」


「うーん・・・」


 何となく、想像出来るような気がした。俊彦は間に入って、途方に暮れていたのだろう。


しまいには元奥さんが、『私は実家に帰る、私を取るかお義母さんを取るか結論を出して』って迫ってきてね。

・・・5キロ痩せたよ」


「大変だったね・・・」


「まったくね。

 どっちを選ぶかなんて、どっちも大事なんだからさ」


 俊彦は不味そうに煙草をふかして、まだ途中なのに灰皿にひねり潰した。


「・・・そのうち、おふくろにガンが見つかって、その看護や介護で手一杯になって、でも元奥さんから一切連絡が来なくなってて。


 これはダメだなって結局、離婚することにした。

・・・あっけないもんだったよ、最後は」


「・・・・・」


 今度は沙良が黙る番だった。軽々しい返事は出来ない。


 俊彦は氷を鳴らしながらグラスを空けた。一瞬、腕時計に目を走らせる。


「・・・ま、そんなところかな。

 つまんない話だよ。


―――で、沙良はどうだった?」


 俊彦は肘をカウンターに突いて、沙良のほうへ身体を向けた。



【Continue】



▶Que Song

I'M A MESS/MY FIRST STORY




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