告白〜二十億光年のの記憶解凍|#短篇小説
この短篇小説は、以下のnoteの続篇となっております。
🩵これまでのお話🩵
↓ ↓ ↓
告白
沙良は俊彦と連れ立って、駅の改札から再び出た。
(―――こんなふうに、切符を無駄にするなんて、初めてだな)
沙良はちょっと悪いことをしているような感覚になった。
週末の夜。駅の中も外も、人で混雑していた。酔いが回ったような声高ながなり声も聞こえてくる。
「―――知ってる店へ行こうか」
俊彦が沙良の背中を押しながら、進む方向へエスコートした。
照明が暗めに落とされた、一枚板を使ったカウンターバーに入った。所々にグリーンの照明が置かれていた。
「ごめんな。引きとめて」
「・・・ううん。いいよ・・・」
沙良は落ちないために、スツールにしっかり座り直した。
「いらっしゃいませ。お飲み物は何かお決まりですか?」
40代くらいのバーテンダーが、メニューを手に持ちながら、落ち着いた職業的な声で尋ねた。
「うん。ウイスキーを、ロックで。沙良は?」
バーテンダーがメニューを差し出そうとするのを笑顔で断って、
「・・・じゃあ、スプモーニを」
と注文した。
俊彦は沙良の顔、及び様子を、じっと眺めていた。
「・・・沙良がさ、離婚したって聞いたんだ。それなら俺も同じだ、と思ってね。
こんな話は、あまり話したくない?」
沙良はちらと俊彦を見て、目を逸らすように落とした。
「そうね。・・・話したい訳じゃないけど、俊くんなら、構わないわ」
「うん・・・そうか」
俊彦はポケットから煙草を取り出し、火を点けようとした。
「―――あ、煙草を吸っても?」
沙良は俊彦に微笑みかけた。
「いいよ。大丈夫。
・・・子どもが小さい頃は、受けつけなかったんだけどね」
「・・・・・」
俊彦は、沙良の顔を見たまま、咥え煙草をして火を点け、一服吸って煙を吐き出した。
「そうか・・・」
「ウイスキーのロックと、スプモーニです」
バーテンダーがカウンター越しに、注文したグラスをふたりの目の前に置き、すべらせた。
俊彦は、ちょっとグラスを持ち上げて見せ、沙良も照れながら同じようにすると、口をつけて飲んだ。
「・・・俊くんの話ってなあに?
お互いの近況を、もっと詳しく話すことかな?」
「うん。まあ、そうだね。
どちらかと言うと、俺の話をまず聞いて欲しかったんだ」
「俊くんの話?」
「―――そう」
俊彦は沙良と目を合わさず、ロックグラスを少し傾けながら、ウイスキーの量を確かめるように凝視していた。
「うちは、母親と元奥さんがうまくいかなくてさ」
カラン――――カラン。
ロック氷が、グラフの中で音を立てる。
「最初は2人で暮らしてたんだよ。だけど母親の脚が悪くなって、家をリフォームすることになって。
そしたらいっそのこと、二世帯住宅まで全体を改修しようってなってさ。
うちは姉貴も嫁いだから、結構部屋も空いてるしね」
「うん・・・」
沙良は俊彦の顔をずっと見ていた。
「何とか、元奥さんを説得して、同居することにしたんだけど・・・
よくある話で、嫁姑が合わなくてさ」
「そうなんだ・・・」
「共働きだから、週末くらいしか殆んど顔を合わせないんだけど、世代のギャップって言うのかな?話がまったく合わないんだ」
沙良はスプモーニをひとくち飲んだ。俊彦の家は、母親ひとりだった。父親は大学のとき亡くなったと聞いている。
「うちの母親は暇だから、共同で使っているキッチンとか、色んな場所を徹底的に掃除するんだよ。そうしたら元奥さんが、『嫌味だ』と言って気に入らなかったりね。
例えば、TVを観ていて子どもが出てきたら、子ども好きなもんで、『可愛いわねぇ』って喜ぶんだよ。
それを聞いたあと、部屋に戻って、『孫を催促してるんだ』って泣きだしたりさ」
「うーん・・・」
何となく、想像出来るような気がした。俊彦は間に入って、途方に暮れていたのだろう。
「終いには元奥さんが、『私は実家に帰る、私を取るかお義母さんを取るか結論を出して』って迫ってきてね。
・・・5キロ痩せたよ」
「大変だったね・・・」
「まったくね。
どっちを選ぶかなんて、どっちも大事なんだからさ」
俊彦は不味そうに煙草をふかして、まだ途中なのに灰皿にひねり潰した。
「・・・そのうち、おふくろにガンが見つかって、その看護や介護で手一杯になって、でも元奥さんから一切連絡が来なくなってて。
これはダメだなって結局、離婚することにした。
・・・あっけないもんだったよ、最後は」
「・・・・・」
今度は沙良が黙る番だった。軽々しい返事は出来ない。
俊彦は氷を鳴らしながらグラスを空けた。一瞬、腕時計に目を走らせる。
「・・・ま、そんなところかな。
つまんない話だよ。
―――で、沙良はどうだった?」
俊彦は肘をカウンターに突いて、沙良のほうへ身体を向けた。
【Continue】
▶Que Song
I'M A MESS/MY FIRST STORY
お読み頂き有難うございました!!
スキ、フォロー、コメント、シェアなどが励みになります。
また、次の記事でお会いしましょう!
🌟Iam a little noter.🌟
🤍