シザーを介した仄かな恋|#ツナグ物語
前髪にシザーを入れられ、貴方と顔が近付くときは、いつも息を詰めて緊張した。
背中側にいるなら、何処までも話が合って笑ってばかりなのに。
貴方ほど、アートにしろ音楽にしろ、共通の話題で盛り上がる人は、後にも先にも、恐らくいないだろう。
スタイリストとして、一切妥協を許さない姿勢。普段は冗談ばかりでも、仕事のために、全てを吸収しようとする姿勢が好きだった。夢や、クリエイションの糧になる様々な事柄、技術の進歩などを、私に熱く語ってくれた。
あるとき、いつもの笑顔で言われた。
「あのさ、今度良かったら、カットモデルになってくれない?店の外でやるんだけど・・・」
―――勿論、と私は頷いた。彼の何らかの役に立てるのなら、異論は何も無かった。
そのときちゃんと話を聞いたか、当日知ったのか、よく覚えていない。指定された日時、指定された街のスポットに出向くと、何と雑誌の撮影だった。衣装も用意されていたが、結局私は私服そのままでの撮影となった。
撮影のために再びシザーを入れて、念入りにヘアスタイルが整えられた。
私はとても光栄で嬉しかった。こんなに仕事を究めたがる人に、お店の紹介の一環で【使ってくれる】なんて・・・
その日、他の店も含め、10人くらいカットモデルがいた。背が高いわけでも然程綺麗でもない自分が混じっていると、
「・・・私で良いのかな?」
と頼りない気分にはなった。その気分を残しつつ、順番にカメラマンの前に出て撮影は進み、無事に自分の番も終わった。
彼とは沢山話をしたけれども、不思議と、お互いの彼氏/彼女の話はしなかった。
―――何と言えば良いのだろう?
ときめきの魔法が解ける、みたいな。この感覚は上手く表現出来ない。
高校時代の、同じ店に通っていた友人から、
「多〇田さん、自分のお店で今もやってるらしいよ」
と聞いた。私はまた、喜びを感じて、心でひとりごちた。
(そうなんだ。あんなにお店を持ちたいって言ってたものね。良かったね・・・
また切りに行こうかな?
久し振りに会えば、今なら、どんな話が出来るのかな・・・)
【了】
Xに投稿したものと同じエピソードです。
生きかたを繋ぐ140文字の想い様、拙作ですがご査収よろしくお願いいたします。
・・・はい、これは実話ですね😊
以前にnoteで書きました。関西人らしい、お茶目なところもある人です。
↓ ↓ ↓
ちなみに、雑誌掲載されたのはこちら。
▶Que Song
シンデレラガール/King&Prince
🤍