語彙の現状  鬼りんご


語彙の現状 ー  情事叙述篇  ー



黄色く古ぼけた海を おまへの口紅が笑ふ
寂しくねぢれた鏡を わたしの心臓が語る
電話も踊らない白昼まひる 一瞬の青が恋を抉り
愛しく疲れた輪郭を ふたつの体温が洗ふ

鮮かに水没した傷を おまへの指がねたむ
清潔に腐乱した蝶を わたしの息がねらふ
枕さへ奏でぬ室内に 一連の診察はゆがみ
剥がれて散る追憶を ふたつの声がけがす

おまへの蛇に爛れる この目眩めく予報
わたしの刑に弾ける この嫋やかな怒涛
一億の烟霞に舞つて 死にきれない浮上
ふたつの時へ崩れる その花やかな鼓動

忍び込む砂に冷えて おまへの化粧の不服
吹き募る街を聴いて わたしの名刺が疼く
歌ひやんだ鍵と眉に 一巻の実験が絶たれ
許さない雨を痺れて ふたつの故障が続く



(「こどもだま詩宣言」対応  原文縦書き)
※作者の情事を叙述したものではなく、作者の事情で叙述されたものです。事情はタイトルに表明してあります。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?