人の欲にはキリがない話
人の欲にはキリがありません。人と言っているけど、自分自身のことなんですが。
小説を書いて暮らすのが長年の夢でした。やりたいことを人に訊かれると、「晴耕雨読」 と答えていました。
色々あって5年前にその夢は叶いました(その顛末は、こちら)。スケジュールがほとんどなく、自由に本を読み小説を書く暮らし。
夢を叶えたはずなのに、新しい欲がむくむくと湧いてきました。
小説を書くと、書いただけでは飽き足らず、今度は誰かに読んでもらいたくなりました。小説は他人が読んで完結できるものだと思っているので、多くの人に読んでほしい欲がどんどん膨らんでいきました。
書いた小説をAmazon Kindleにアップすると、少しずつ人に読まれるようになってきました。
その後、幸い「ふたりの余命」がヒットして、さらに多くの人に読んでもらえるようになりました。
新作を書けば、毎日誰かが必ず読んでくれる。夢のような生活です。
これで夢が叶ったと思っていたら、また別の夢が浮かんできました。それは小説の賞を受賞することです。新人賞にずっと応募し続けていましたが、落選続きでした。
Kindleで感想をもらえると嬉しいのですが、正当に評価してもらいたい気持ちが高まってきました。
その夢を叶えるために、さまざまな小説新人賞に応募するようになりました。以前から応募していましたが、賞の性格を調べて、1作品ごとにこだわりました。
その結果、みやざき文学賞、ポプラ社小説新人賞奨励賞を受賞できました。
出版業界で有名なポプラ社の賞をいただけて、表彰式で編集者の方に評価をしてもらえるなんて夢のようでした。
小説の賞をいただく長年の夢が実現したはずなのに、また新しい欲が。
それは書店に並ぶ自分の本を見たいという欲です。
Amazonでは僕の電子書籍が何十冊も販売しています。それはそれで嬉しいのですが、昔から本屋さんが好きだった僕は、僕が書いた小説の本が店頭に並ぶ光景が見てみたくなりました。
そんなとき、「ふたりの余命」を読んだ編集者の方から書籍化のお誘いをいただきました。数ヶ月後、「ふたりの余命 余命一年の君と余命二年の僕」として宝島社より刊行されました。
発売日に、僕の本が店頭に並びました。また、新たな夢が実現した瞬間です。
これで、満足すればいいものも、また新たな欲が首をもたげてきました。
それは、単行本を出版したい欲です。
「ふたりの余命 余命一年の君と余命二年の僕」は文庫本です。文庫本もお手軽で良いのですが、より大きくて美しい装丁の本が見たくなりました。
商業デビューして初めて知ったことですが、直木賞など多くの文学賞の対象は単行本です。
単行本を出版するのが新しい夢になりました。
新たな夢を叶えるために、奨励賞受賞作を改稿して、編集者の方と共に単行本化を目指しました。
その結果、7月18日に「夏のピルグリム」が刊行されることになりました。初めての単行本形式の本です。
また、夢が叶います。
小説を書いて暮らしたいという当初の夢から考えると、贅沢すぎる話です。バチが当たりそうです。
だけど、刊行を直前に控えて、また新たな夢が出てきました。
それは、多くの人に自著を手に取ってもらうことです。「ふたりの余命 余命一年の君と余命二年の僕」もたくさんの人に読んでもらいましたが、さらに多くの人に喜んでもらいたい気持ちはずっとありました。
ドラマなどで「重版出来」という言葉を聞いたことがあるかもしれません。初版の発行部数を上回って本が売れて、新たに本を刷ることです。
重版出来が次の夢になりました。
重版がかかっても、多分また新たな欲が湧くかもしれません。例えば、文学賞を受賞したいとか。
谷という漢字は、欠けた谷と書きますが、どんなに土をかけても欲望の谷は埋まりません。
自分が欲深いと思う一方で、自分の中に自然と生まれる欲を肯定してあげたい気持ちもあります。新たなものを求める気持ちが、人も社会も先へ進ませると思えるからです。
でも、欲がなくても、それはそれで落ち着いた暮らしができそうで悪くはないです。それこそ真の晴耕雨読ですね。
晴耕雨読のような暮らしは、欲深い僕にはちょっと早かったようです。
著者初の単行本形式の小説「夏のピルグリム」がポプラ社より発売中です。「ポプラ社小説新人賞」奨励賞受賞作です。よろしかったら書店で手に取ってみてください。善い物語です!
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