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図書館のジレンマ

一生かかっても読み終えられないほどのたくさんの本が並ぶ図書館。子供の頃から大好きな場所です。
ですが、自分が商業作家になると、図書館への見方が少し変わってきました。
図書館に収蔵されている多くの図書の中には、ベストセラー本も多くあります(地元の図書館には僕の本も置いてくれています)。本屋大賞を受賞した本などは、数十冊の本を図書館が購入し市民に貸し出しています。そういった本はとても人気で、何百人という人が予約して貸し出しを待っています。

公立図書館は全国に約3,000館あるそうです。大小様々な図書館があるので、一概には言えませんが、仮にベストセラー本を平均10冊購入したとすると、全国で3万冊購入したことになります。
3万冊と言えば、それだけで結構な冊数にもなりますが、貸し出された冊数だけ書店で買っていただけるとすれば、もっと多くの本が売れた可能性があるわけです。
一回の貸出期間は2週間なので年間25サイクル借りることができ、3万冊 x 25サイクルで、75万冊になります。2年間で150万冊になります。150万冊とは、現在の小説の売り上げとしては達成がとても困難な数字です。
図書館で借りていた人が絶対に買ってくれるとは限りませんが、もしもベストセラーを図書館が仕入れなければ、書店さんや出版社、著者に今よりも収益が入ることになるのは事実です。
以前は、図書館での貸出冊数はそれほど大きな問題になっていなかったと思いますが、本の売り上げが減少した現在では、図書館の存在が目立ってきているのが現状です。
図書館でベストセラーを知って予約したけど待ちきれず、書店で購入してくれる人もいるでしょう(無料だから読みたいという人もいるでしょうが)。
ただ、ネット全盛のご時世、貸し出されて実際の本がない図書館でその本のことを初めて知る人は少ないのではないでしょうか。

もちろん、図書館の役割はベストセラーを買って貸し出すことだけではありません。
図書館は「売れている本」だけを購入しているわけではなく、なかなか手が届かない高価な本や貴重な本も購入して、地域の文化に貢献しています。
あまり売れないけど文化的価値のある本を刊行している出版社にとって、図書館が購入しくれることで得られる収益は大きなものに違いありません。
もしも図書館がなかったら、重要だけど採算性が低い書物は出版されなくなるかもしれません。
公共図書館には、多くの図書を収蔵し、誰にでも無料で貸出し地域の文化的な生活を支える重要な役割があります。

本は買って欲しいけど、図書館も大事。これが図書館のジレンマです(著者にとって)。
じゃあ、どうすれば良いのか難しいところです。ひとつの考えとして、ベストセラーを何十冊も買う資金の少しを、なかなか買えないような高価な本に予算を振り分けた方が良いようには思います。
そうなると、借りる頻度が減って、「税金の無駄遣いじゃないか!」と叱られるのかもしれませんが。

一方で、図書館の司書さんと書店員さんが協力して、本好きの人を増やすための取り組みを行っている地域もあります。
宮崎県の文学賞「宮崎本大賞」は、書店員さんだけではなく司書さんも「好きな本」を投票し、大賞を選んでいます。
出版業界が縮小している中、本好きの人を増やすために、図書館と書店の垣根を越えて協力し、本好きの市場を少しでも広げることが今必要なのかもしれません。

僕の著作です。よろしければ。


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