見出し画像

この町出身だけど訪問税払わなきゃダメ?|Report

沖縄県竹富町が導入を検討している「訪問税」¥2000が高いか否か、巷で議論がかまびすしい。観光地の魅力の維持やオーバーツーリズム対策などの期待を背負っている。町民はもちろん対象外だが、郷友会や出身者など実家に帰郷する・介護のために来訪する人をどう扱うかについては、まだ結論が出ていないようである。

「郷友会」はウィキでは、「故郷を同じくする者同士が親睦、協力等を目的に結成される民間の任意団体。故郷の範囲は、県単位、旧藩・郡単位、市町村単位、大字・集落単位、島単位などの例がある」とされている。

「沖縄における郷友会の形成過程と今日的展開」(山城千秋,2007年,熊本大学教育学部紀要 人文科学)という論文がある。この機会に郷友会について一緒に勉強してみないかい?

この論文は、郷友会と故郷の共同性は、都市と農村を結ぶ関係構築のひとつのあり方を示すものだという視点から、郷友会の教育的機能に着目している。沖縄県内の郷友会の形成過程、今日の展開状況や課題などを論文から学びたい。以下が要点である。

組織性を備えた郷友会のほとんどは、終戦後から1960年代頃に結成されている。その背景には離島を含め農村部から那覇や米軍基地周辺の中部への大量の人口移動がある。また、集落を米軍基地に接収された人々が移転先で郷友会をつくる事例もある。

郷友会の結成時期は、それぞれの出身地から労働力が大量に流出し、那覇や近隣地域、基地の街の人口が急増する時期とほぼ一致している。

那覇で居住地を構える場合にも地縁・血縁による相互扶助の関係が作用しており、先に移動した親族や同郷者を頼りに出てくるため、各集落出身者による居住地が形成される。

国頭・大宜味は建設土木、宮古・八重山・久米島は警察官など、職業構成についてもある程度出身地によって特徴がみられたが、核家族化による世帯の分離や居住地の分散化、産業構造の変化、情報化の進展、公共機関による職業斡旋によって、同郷者による職業斡旋や紹介という郷友会のひとつの役割は消えていった。

内的機能として、都市に故郷の人間関係を再生させる親睦や相互扶助を行い、外的機能として、故郷に対する積極的な支援、社会貢献を行うことが各郷友会の会則にみられる。

郷友会の目的について、1980年代と現在(2006年)とを比較すると、1980年代は「会員同士の親睦」に主眼が置かれていたが、現在では「故郷との交流」に主眼が移りつつあり、故郷での生活体験を持たない2,3世の子どもたちに対して、郷友会行事を介して交流の場をつくり、1世の伝統を伝えようとする意図が読みとれる。

会誌及び記念誌発行の事業は、現住地が異なる会員にとっての重要な連絡網・故郷を知る情報源となっている。

なくなった郷友会の消滅理由は、「会長の高齢化、若者の非協力」「リーダーとしてなり手がいない」「役員のなり手がいない」「高齢化と予算不足」「親村との関係が薄くなった」などである。

交通網の発達により個人が頻繁に故郷に帰ることができるようになり、郷友会が果たしていた「擬似共同体」の役割が失われたと考えられる。

郷友会組織は、会員に対する活動や事業を行う内的機能は、都市生活への同化を進めながら、一方では故郷に対する主体性と帰属意識を育んできた。外的機能である故郷との相互扶助関係は、特に過疎化と高齢化に苦しむ人々の精神的支えとなり、地域づくりに対しても、支援を惜しまない関係を構築してきた。

結成当時(1960年代)の郷友会の役割は、故郷の人間的絆や文化、生活習慣を基本に、都市生活への安定的定着を果たす会員相互の対内的役割を果たしてきた。これに対し、今日過疎に苦しんでいる集落の内発的発展には、郷友会の対外的役割が新たな課題として提起されている。

その他の知見も援用しながらまとめよう。

  • 沖縄県内において、組織性を備えた郷友会のほとんどは終戦後から1960年代頃に結成され、故郷の文化や生活習慣、連帯感を基本に、都市生活への定着を果たす会員相互の対内的役割を果たしてきた。

  • 郷里と離出者とを結びつける社会的機能、職業斡旋や会員のビジネスを促進させる経済的機能、人材育成や文化活動をとおした相互扶助機能、集会などの親睦機能の4つは郷友会の主要な機能といえる。

  • 同郷者間のメディアとして情報誌を発行してきた例もあり、各地の同郷団体や住民相互の情報交換の場としての機能を果たしていた。

  • どの同郷集団も、構成員の高齢化、若者の非加入、それらに伴う活動規模の縮小という問題に直面している。

  • 郷友会の必要性が低下した理由の一つとして、交通網の発達により個人が頻繁に故郷に帰ることができるようになった点がある。

  • 故郷での生活文化体験を持たない世代に対し、交流イベントやカルチャースクールを行うことで、故郷の文化や社会関係を伝えようとしている。

さて表題への私のアンサーだけど、自分が暮らす生活空間にまで頻繁に観光客が入り込むのは嫌なので、オーバーツーリズム対策としての訪問税(法定外普通税らしい)はおおいに賛成する。郷友会や出身者の免除もしくは割引については、心情的には賛成だけど、徴収の仕組みが複雑になるので、運営側から懸念が出されているんだろうと予想する。

だけど、それこそ役立たずのマイナンバーカードが面目躍如する場面だと思うんだけどな・・・

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?