老年学
日頃、業務に従事している中で同僚との話し合いから若い世代より人が生まれてから死ぬまでどのような経過をたどることを知っておいた方が自分自身が高齢者になった時に有意義であるとの結論となっています。そのため今回は老年学について以前から書かせて頂いている自律神経および今回は生活環境に着目して書いていきたいと思います。
令和3年厚生労働省の「簡易生命表」をみると日本の男性で80歳に到達できたのは約64%(女性は約82%)となっています。
長い人生を登山に例えられていることがあり、わかりやすかったため今回紹介したいと思います。人生を登山に例えると50歳は5合目、60歳は6合目、70歳が7合目になります。6合目の後半から上がり坂は段々険しくなり、8合目直前の75歳から79歳までは最も危険な難所となります。
年齢階級別死亡率の年次推移統計をみると75歳という年齢から死亡率が急上昇し、その急傾斜が79歳まで続きます。
皆様が自分自身またはグループでの活動を通して健康寿命延伸(健康で過ごせる期間を長くすること)に取り組んで頂いているとは思います。
人生100年時代、健康寿命を延ばすだけではおそらく足りず「歳には敵わないなぁ」という時期が誰にも生じてきます。「歳には敵わないなぁ」と感じるようになった時に幸せに暮らしてゆく為には歳には敵わないと感じる時期またはその前に体調を崩さない生活環境を整える必要があります。
以前の記事で入浴のことも書かせて頂きましたがそこでは触れられていなかった脱衣所および浴室などの部屋の温度などについてが今回の主テーマとなります。
日本以外の先進国は健康政策に住環境の条件が組み入れられ、健康維持に適切な暖房基準が示されています。「冬季室温18度以上」、これがWHO(世界保健機関)が健康的な住まいのために強く勧告している世界的な物差しです。下の図を見て頂ければわかりますが寒い北海道は居間室温が20度であるのに対して1番低い香川県は13度しかなく比較すると7度も差があります。18度の基準に達しているのは寒い地域では北海道と新潟、関東では千葉と神奈川だけで殆どの県で18度に達していません。
その理由として下の表があります。この図は室温が18度以下の環境であっても寒いと感じていない人が多いということを表した図となっています。居間で3割、寝室で6割、脱衣所で1割の居住者が寒さを感じていない。寒さを感じていない人の平均室温は居間17.7度、寝室13.1度、脱衣所14.5度であり良い環境とは言えない状況です。また高齢や肥満等の循環器疾患のハイリスク者ほど寒さを感じていない状況となっています。
つまり寒さの自覚・自己申告はあてにはなりません。自覚がなければ問題意識もなく対策を考えることにも繋がりませんね。
自律神経としても温度ではありませんが年間の気圧変化との関係があります。春は気圧が低くなりリンパ球が増え(副交感神経優位の状態)アレルギー症状が出やすくなります。また秋は気圧が高くなり顆粒球が増え(交感神経優位)緊張状態の病気(脳疾患、心疾患など)が起こりやすくなります。表としてまとめると以下のようになります。
下記の表は介護が必要となった主な原因について要介護別にみた表です。要支援者では「関節・疾患」と「高齢による衰弱」の2つが上位を占めています。要介護者では「認知症」の割合が最も多く、次いで「脳血管疾患(脳卒中)」が上位を占めていることが分かります。
上記の中で環境が影響するものとして認知症、脳血管疾患、転倒があります。まず認知症として冬季に居間の温度が15度以上ある家と10度前後しかない家では1度違うと脳年齢が約2歳、2度差があると約4歳若いことがわかっています。5度暖かいと脳年齢が10歳若くなることも言われています。この差の理由としては暖かい家ならこまめに動いて家事も積極的にこなす、ちょっと体操をしたり、趣味のものを広げたりするためです。日々がアクティブになる結果、暖かい家に住んでいた人々は2年後も脳に何の変化も見られなかった一方、居間が15度以下の家の人の脳神経には老化が見られていた結果もあります。
次に脳血管疾患についてはその原因と成り得る血圧、糖尿病、高脂血症について記載したいと思います。
血圧では40~70歳男性の60%、女性は40%が高血圧者。それが75歳以上になると男女ともに70%以上になるのが現在の日本です。室温が20度から10度下がると平均約10mmHgも血圧が上がることが判明しています。これだけ急上昇すると脳卒中のリスクが25%も高くなると言われています。実際に断熱改修を行なった実証実験の結果では起床時の最高血圧が改修前の血圧より3.1mmHg低下。高血圧で通院している人の血圧低下量はさらに大きく、7.7mmHgも低下していたとのことです。
厚生労働省は40~80歳代の最高血圧が平均4mmHg低下すると脳卒中や冠動脈疾患による年間死亡者数が約15000人減ると推計しています。
糖尿病は14度以上あるかないかで差があり、たとえ居間が14度以上あっても脱衣所や廊下が寒いと1.64倍糖尿病の人が多いことが判明しています。
脂質異常症も居間は18度あっても脱衣所や廊下が寒いと1.46倍多くなります。断熱性の高い暖かい家に住む人より寒い家に住む人は総コレステロール値が高いリスクが2.6倍、LDLコレステロール値が1.6倍あり、心電図の異常所見も1.9倍多く見られています。健診値が高めなのは歳のせいだと思っていると室内の寒さがその悪化を加速するリスクになり、心臓発作や脳卒中の後遺症と人生を送ることになる心配が「ない」とは言えない状況です。
ここで住まいの温度環境チェックをご紹介させて頂きますので皆様も確認してみて下さい。
「住まいの温度環境チェック」
▢寝室で冷暖房がきかずに暑さや寒さを感じることがある
▢居間や食堂で冷暖房がきかず暑さや寒さを感じることがある
▢冬にトイレが寒いと感じることがある
▢冬、部屋を出たときに廊下が寒いと感じることがある
▢居間・寝室・廊下にすぐに見える温度計を設置していない
このチェック表は☑の数が多いほど寒さでじわじわと健康が蝕まれるリスクが大きいと言われています。前半で室温が18度以下の環境であっても寒いと感じていない人が多いという内容を書かせて頂きましたがいきなり住んでいる自宅に断熱改修を行なうことはお金がかかります。まずは自覚することからスタートしてみてはいかがでしょうか?
また私自身介護保険施設に努めている身として日本は要介護状態になってから住宅改修対策が取られています。(具体的には住宅改修に対しての一定の補助金が出ます。)しかしそれでは遅すぎます。入院、入所してから要介護申請、住宅改修という流れでは時間がかかってしまいカラダの状況と受け入れる自宅の環境に時間的にズレが生じてしまい住み慣れた家に帰れない方を数多く見て来ました。元気なうち、動けるうちに早めに行動して備えをし1人でも多くの方が不本意な老後を回避して頂ければと考えています。