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ミステリ評論家・新保博久先生の「コントラクト・ブリッジへの招待」というコラムが面白いという話
当方のnoteでは、ブリッジが登場する文学作品を調査して紹介する記事をいくつか書いています。(これまでに書いた記事は「コントラクトブリッジやホイストが登場する文学作品のまとめ」という記事をご覧ください。)
その調査の中で、ミステリ評論家の新保博久先生がブリッジに明るいとの情報を得たので、新保先生が過去に執筆したコラム「コントラクト・ブリッジへの招待」を読んでみることにしましたー。今回の記事執筆にあたっては『推理百貨店 別館』を参照しています。
初出:『ミステリマガジン』1983年12月号(早川書房)
「ゲームの娯しみ ブリッジ入門 」として発表
書籍への収録:『推理百貨店 別館』1989(冬樹社)
「コントラクト・ブリッジへの招待」として改稿し収録
(ちなみに、『推理百貨店 別館』は絶版となっており、Amazonでは新品はおろか中古品の出品もありませんでした…。なので、公共図書館で『推理百貨店 別館』を探すか『ミステリマガジン』1983年12月号の所蔵を探してみることをオススメします。)
新保先生といえば、読書家やミステリ愛好家の皆さんには説明するまでもない有名書評家ではありますが、ミステリ作品の書評の他、ミステリ小説の巻末に収録される「作品解説」などを多数書かれているので、知らないうちに新保先生の文章を目にしたことがある方もいるかもしれません。
では、このコラムの内容を見ていきましょうー。
コントラクトブリッジは「海外ミステリ読者にとって必須の教養」
このコラムは元々『ミステリマガジン』という雑誌に発表された文章であるということもあり、冒頭では、なぜ『ミステリマガジン』で「ブリッジ」をテーマにしたかが述べられていますが、新保先生曰く「海外ミステリ読者にとって必須の教養」だということです。
ミステリに限らず欧米の文学作品にはしばしば「ブリッジ」が登場するので、ブリッジがどんなゲームであるかを知っていて読むか、知らずに読むかでは、作品の理解度が大きく変わってきます。
かく言う当方もブリッジを勉強し始めたきっかけは海外文学でしたし、ブリッジを知った上で海外文学作品を読むと、今まで以上に読書が面白くなりましたので、欧米の文学作品を楽しんでおられる方には是非ブリッジを遊んでみてほしいです。
さらに言えば、ブリッジは推理力を駆使するゲームの複雑さも相まって、ミステリ作品との相性がとても良いということもあるので、「海外ミステリ読者にとって必須の教養」というのは「さもありなん」と思います。
そして、ブリッジがどんなゲームであるかについても新保先生が説明をされていますが、紙幅の制限の中、要点をかいつまんで簡潔に、かつ魅力的にゲームの流れを説明されているところは流石と思いました。
シャーロック・ホームズとブリッジの妄想
続いて、文学作品に見るブリッジのゲームの例として、「Sherlock Holmes, Bridge Detective」シリーズを取り上げています。こちらの作品はフランク・トーマスというアメリカの俳優だった方が書いたシャーロック・ホームズの「パロディ」(二次創作?)作品です。この方は俳優業や戦争の経験を経て、晩年は小説や脚本などを書く傍らブリッジの活動にも取り組んでいたのだとか。
以下は日本のAmazonで出品が確認できたもののリンクです。
原作の小説でもブリッジの記述があるので、ブリッジファンであれば「ホームズがブリッジをしたらどんなゲームをするだろうか」と想像してしまいますが、それを小説にした方がいたとは驚きました。
そして、この作品に登場するブリッジのゲームについて新保先生が解説をされていますが、大変丁寧なものとなっています。
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『ひらいたトランプ』ブリッジ考察の決定版?!
いまやコントラクトブリッジが登場する文学作品の中で最も有名だろうと思われるアガサ・クリスティーの『ひらいたトランプ』。ブリッジを紹介する文章では必ずと言っていいほどこの作品が引き合いに出されますが、新保先生による「考察」は掘り下げが深くてブリッジプレイヤーもニッコリな解説となっています。
新保先生の考察がすごいのは、小説に書かれたゲームに関する些細な記述から、殺人事件が起こったときに行われていたのはどんなゲームであったのか、どんなビッドがされたのかといったことを事細かに推理しているところです。
さらに、小説内のゲーム分析にとどまらず、これを書いたクリスティーのブリッジの腕前やクリスティーが使っていた「ビッド・システム」まで明らかにしようと考えを巡らせているところには脱帽です。
クリスティーに対する新保先生のブリッジ的な評価は少々辛口なのですが、大衆文学である本作において、ブリッジに熟知した読者ばかりを想定してクリスティーも執筆していないでしょうから、個人的には大目に見てあげてほしいなと思いましたけどね…
ブリッジが登場する海外ミステリがもっと読みたくなる!
上記の作品以外にも「ブリッジ」の記述がある海外ミステリ作品のタイトルがいくつも紹介されており、さながら「ブリッジが登場するミステリ作品のブックリスト」にもなっています。このコラムで紹介されている作品は当方も一通り目を通してみようと思っています。
(ちなみに、既に当方もnoteを書いたことがあるロアルド・ダールの短編「My Lady Love, My Dove」も紹介されています。)
というわけで、今回はミステリ評論家の新保博久先生が書いたブリッジコラムのご紹介でした。新保先生のブリッジに対する造詣が溢れ出ているコラムとなっておりますので、ミステリファンの方にもブリッジファンの方にも読んでみてもらいたいなーと思いました。閲覧するのが少々大変なのが恐縮ですが、機会があれば是非ーではー。
(当方が書いたブリッジが登場する文学作品の紹介記事は以下よりどうぞ)
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