辻村深月さんの『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。』を読んだ感想・娘と母の永遠の悲しいすれ違い
『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。』
『すべての娘は、自分の母親に等しく傷つけられている』
この小説を読んで一番印象に残った言葉だ。
あなたは友達のお母さんの方が自分の母よりもいいな、と思ったことはないだろうか?
『あの子のお母さんが私のお母さんだったら良かったのに』と思ったことは?
先日、私は高校時代の友人とたまたま母親のことが話題になった時に驚いたことがあった。
私の母は昔からしつけや
しきたりにとても厳しい人だと彼女に話した時に
『きっちりしたお母さんで
うらやましい』と言われたからだ。
彼女の母は子供の頃から彼女のお兄さんのことを溺愛していて
娘のことは良く言えば放任主義だけれど
実際はほったらかしだった。
そのために彼女は大人になってから色々と知らなくて困ったことが多かったらしい。
私にすれば過干渉気味の私の母よりも
放任主義の友人の母の方がうらやましいと思うのに
彼女は「厳しくてもいいから、もっとちゃんと育てて欲しかった」と不満を漏らしたのだ。
友人と私は母親に対してお互いに求めていたことと
与えられたことが違ったのだろうか?
難しい・・・
この小説に出てくるみずほの母のように
コーラやスナック菓子のようなジャンキーな食べ物は
たとえ友達の家でも
絶対に食べてはいけないと
厳しく禁止する母親
一生懸命に頑張って結果が良かったテストの点数を見ても
一度も褒めてくれたことがなくて
「あなたならもっとできるでしょ」という母親
チエミの母のように
食べたいお菓子や飲み物を自由に与えてくれるゆるい母親
女の子は地元で進学して
就職して結婚するのが一番幸せだから
勉強なんてそこそこでいいと成績に甘い母親
みずほの母とチエミの母
どちらの母親が悪でどちらの母親が善なのか・・・
難しい・・・
みずほは、細かいことにはこだわらず いつも優しくて
おおらかなチエミの母が好きだった。
チエミは、いつもきちんとしているみずほの母が整えているようなちゃんとした家庭に憧れていた。
当たり前だが母親だって未熟な一人の人間だ。
子育てという人生ではじめての経験に戸惑いながらも
試行錯誤を繰り返して
その時に自分がベストか
少なくともベターだと思うことを子供に教えたり促したりしている・・・と母親の立場で私は思う。
自分の悩みや葛藤を子供にみせることもできず
無意識に孤独になっている母親も少なくないのではないだろうか?
けれども、そのような母から受ける様々な影響は
受け取る側の娘にとってはどうなのだろうか?
そこでこの言葉の意味を考える。
『すべての娘は、自分の母親に等しく傷つけられている』
決して特別な母と娘の場合だけではなくて
程度の差はあれども
「傷つけている母」と
「傷つけられている娘」の存在は案外身近にあるのかもしれない。
私自身もそうであるように・・・
なぜかそのことに気づいた時に
娘であり、娘の母親である私はほっとしたような
救われたような気がした。
それは母に傷つけられたと思っていた娘は私一人ではなく
それと同時に、娘を傷つけたと思っている母親も私一人ではないのかもしれないと思えたからだ。
小説の結末は私にとっては
やりきれないほど辛かった。
母親を殺めてしまい行方不明になったチエミを探して
会いにきてくれた幼なじみのみずほに向かってチエミが
『お母さんに会いたい!』と叫ぶラストシーン
お母さんに褒めてもらいたかった
お母さんに認めてもらいたかった
お母さんに信じてもらいたかった
そこには憎しみではなくて
母にありのままの自分を愛して欲しいと焦がれる娘の姿があった。
最初は、ひとつのボタンのかけ違いだった娘と母親の関係
そのことに何か違和感を感じながらも時を重ねていくうちに
気がついたらボタンがすべて引きちぎられて
着れなくなったボロボロの洋服になってしまったとしたら
その時の呆然とした感情はどこにぶつければいいんだろう。
どこかで一度ボタンをすべてはずしてみることができていれば
そして最初からゆっくりと
時間をかけてまたひとつずつボタンをかけていけたら
こんな悲しい結末は起こらなかったのでは?
個人的なことになるけれども
決して良好な関係ばかりではなかった私と母(80代)
そして私と二人の娘たちの
特に長女と私
いま私たちのボタンはどのくらい合わさっているのだろう?
その答え合わせはこれからも続くだろう。
私の中でも永遠のテーマかもしれない、娘と母親の関係
それを描いた辻村深月さんの小説『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。』
この物語は娘の立場からのストーリではあったが、母親の感情表現があえて描かれていなかったのは、みずきやチエミの母親たちもかつては同じように娘の立場だったからなのかもと勝手にそのように解釈してしまいました。
タイトルの『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。』
その意味がわかった時、私は母親の切ない気持ちに鳥肌が立ちました。
母の娘に対する愛はとても複雑です。
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