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短編小説 幸せを運ぶ写真


インスタグラムで見つけた夜明け前の海の写真。

一度でいいから行ってみたくて、
親に「連れて行って」とおねだりをした。

しかし結局その願いは叶わなかった。

夜明け前の海の写真は
見知らぬ異世界の絵のように見えた。



その写真にまつわる海について知りたくて、

意を決してその写真のアカウントにDMを送った。


すると、


「この海は私の生まれ故郷なんです。
今は都内に住んでいますが、今度の日曜日にそちらへ帰る予定があるので、一緒に行きませんか?」


と言ってきてくれた。



そしてそのアカウントの怜奈と日曜日に落ち合った。


「初めまして」

その声はどこか聞き覚えのある声だった。
でも、怜奈さんの顔からは面影が見つからない。

「は、初めまして」と私も言った。

「もしかして」そう言いながら怜奈さんは私の顔をうかがった。


「あなたは、あの保育園にいた澪ちゃん?」

「え?」

「あの、覚えてませんか?
私が他の園児にからかれていた時助けてくれたのを」

「まさか、玲花ちゃん?」

彼女は「覚えててくれた」と言って泣き出してしまった。

「えっ、あっ。あの泣かないで」

と私は焦ったが玲花は「大丈夫」と言って笑った。

「ひとつ聞いていい?」

「何?」

「『生まれ故郷』って言ってたけど、
私たちがいた保育園はあの海の近くではないよ」

「私はあの海の近くの病院で生まれてから
母は体調がすぐれなくて
澪ちゃんのいる県の伯父の家に引き取られたの」

「そうだったんだ」

「うん。先日、産んでくれた母が病で亡くなったの。
それで思い出に夜明け前に見たあの海を撮った。
夜明け前には理由があって」


彼女は理由についてこう述べた。


「亡き母が私の父にプロポーズされたのが夜明け前のあの海だったから」

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