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短編小説 案内しない亀


友達に裏切られ親とケンカした日の夜。
遺書みたいな手紙を入れたウイスキーの瓶を持って、
全てを投げ出したくなって家を飛び出した。


たどり着いた海の砂浜に、大きな亀が休んでいる。
「竜宮城に連れて行ってなんてことは言わない。
ただ、もし良ければ楽になれる場所を教えて欲しい」

と亀に言ってみた。
でも亀は動かない。

生きているのか急に不安になって声をかけた。

「生きてる?」
亀は少し頭を動かして、こちらを見た。
ボーっとしてるだけだと思い、ちょっと安心した。


いつまで経っても亀はどこにも案内しない。
ふと、持っていたボトルメールをどうしようかなと思いつつ
時間を忘れて私と亀は共に夜を過ごした。


水平線にオレンジの線が顔を出してきた明け方。
うたた寝をしている間に、気づいたら亀はいなかった。
あの亀はなんだったのだろうか。
でも、私に何も問いたださない無口な亀に感謝した。
気をもむことがないあの亀は、
私にとって心が楽なれる場所に案内してくれた。


持っていたボトルメールを流さないまま
私は帰路についた。

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