たぶん運命の3冊
長く勤めた会社をなぜ辞めたかという話は、
巷でよく聞くような理由ばかりで恥ずかしい。
小さな会社にありがちな日々のいろいろや、
次々に降ってくるいろいろにしんどくなった。
たぶん私が不器用すぎた。
編集という仕事は好きだった。
長く勤めるなかでそれなりの充実感も達成感もあった。
辞めると決めたときは当然、次の就職先を探すつもりだった。
会社という枠が変わっても、これからもこの分野の、
この仕事を続けて定年を迎えると思っていた。
会社員という選択肢以外は頭に浮かばなかった。
退職の準備に入ったころ、
この3冊に出会った。
1冊め たぶん私の人生を変えた1冊だと思う。
ちくま文庫「あしたから出版社」
夏葉社の島田潤一郎さんの本。
この頃の私は、ひとり出版社ってなに……という状態だった。
帯には、
「就職は
あきらめた。
本をつくる
ことに決めた。」
とある。
この本の優しげでガツガツ感のない文体のおかげか、
なんとなくはじめは自分にもこういうことができるのでは、
と思わされてしまった。
そうか、こういう手もあるんだと知ってしまった。
いやいやなんて甘いんだろう。
この方の持つセンスと人間力はかなり稀有なものなのに。
2冊め 友人には「すごい人ばっかりで、そうですかって思った」といわれた本。
猿江商會「小さな出版社のつくり方」
永江 朗さんの本。
出版社に勤めていても知らないことばかり、
自分の担当業務以外、何にも知らないってことに気づいた。
勉強したい、人の話を聞きたい、という気持ちにさせてくれた本。
結局やたら前向きな気持ちになってしまった。
そして3冊め 出会ったというより慌てて探して読んだ本。
苦楽堂「まっ直ぐに本を売る ラディカルな出版「直取引」の方法」
石橋毅史さんの本。
2冊めの「小さな出版社のつくり方」で取り上げられていた、
トランスビュー方式、取引代行について。
取次のことも、返品のことも、
社長や営業の愚痴の中でしか知らなかった。
あれはこういうことだったんだ、でもこういう方法があるんだ、
こんなふうに考える人たちがいるんだ……
ほぼ同時期に読んだこの3冊のおかげで、
ひとり出版社への気持ちに火がついたり、
消えかけたり、燻ったりした。
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