きみの顔が好きだった〜絶対彼女論

大森靖子（おおもりせいこ）

もはやあんまりよく知らないけど、メンヘラ系アイドルグループMETAMUSE（旧ZOC）共犯者。

そして、かつて僕が人知れずかなり熱を入れて応援していたシンガーソングライター。

初めて彼女を知ったきっかけは「絶対彼女」のMV。

お団子みたいな鼻をした決してカワイイとはいいがたい女の子が、時にひとりでギターをかき鳴らしながら、時にアイドルみたいな振り付けを一所懸命練習しながら、

「絶対、女の子がいいな！」

と叫んでいる姿を見た瞬間、今さらながら気づいたのだけど、たしかに僕は彼女にイッツフォーリンラブしていたのだと思う。

で、早速、ググってみたら、相当、異端な経歴の持ち主だということが判明して、さらに彼女への興味が増した。

愛媛から上京してムサビ（武蔵野美術大学）に入学した彼女は周りの個性的という名の没個性な、そして知性ではなくセンスでマウントを取る、ある意味、東大王以上にタチが悪い周りのアートエリートたちに全く馴染めずに（このくだりは半分、僕の妄想と偏見です（笑））、独学でギターを覚えて、あの前野健太や三輪二郎を輩出した高円寺・無力無善寺というその名のとおり超アングラなライブハウスでシンガーソングライターデビューする。

この煮凝りみたいなこじらせ男性フォークシンガーたちの巣窟で当時、20代前半の彼女の割と、いやかなりエキセントリックなパフォーマンスは相当、インパクトがあったみたいで、話題が話題を呼び、いつしかこの小さな、日によっては観客が数名しか来ない箱から飛び出して、彼女主演のドキュメンタリー映画が撮られたり、YouTubeに複数のMVがあげられるようになっていった。僕が彼女の存在を知ったのはまさにこの頃で、その後、ほどなくして彼女はなんとあのavexでメジャーデビューを果たす。

そして、この頃から彼女はずっと憧れていた女性アイドルに急接近して、ついには、共犯者という形で、自らアイドルグループをプロデュースするまでに至る。

そして、僕が彼女への関心を急速に失ってしまったのもこの時期だった。

その理由は明確で、要するに、好きだった彼女の顔が明らかに変わってしまったからだ。

あの僕が大好きだったおだんご鼻は、いつの間にか、きれいに区画整理されて、それこそ没個性なnoseになっていた。

別に整形に反対というわけではない。

アイドルとの活動が増えていくに連れて、彼女に対してネットなどで「○ス」等と心無い罵声を浴びせる身も心もブサイクなキモオタ男子が出てきたのも知ってたから、なおさら彼女を責める気にはなれない。

でも、頭では分かっていても、僕の心は急速に冷え切っていった。

身も蓋もないけど、やっぱり外見って大事だよね。

そんなわけで当時、あれほど好きだった彼女の曲を聴かなくなってからもう４年くらい経つけど、今日深夜３時に目が覚めて、なんとなく聴きたくなってあの頃の曲のMVをいくつか流した。

久しぶりだけど、やっぱりいいな、と思った。

そして、このMVを見ていたら、ごくごく自然に眼から辛い水が溢れ出した。

そう、あのとき彼女は決して自分のためだけではなくて、見たこともない、会ったこともない、でも、自分と同じような、いろいろと気づかずに済めば楽だったことを気づいてしまった迷える女の子たちのためにひとりで歌って、いや、戦ってたんだよね。

そして、僕自身もその姿にとても励まされたことを今、思い出した。ひとりカラオケで裏声バリバリで彼女の歌を熱唱していた恥ずかしい過去も（笑）

そう、何てことはない、僕もまたあのとき彼女がたくさん救った「絶対彼女」たちの一人だったのだ。