【ひといき小説其の二】2☓歳の誕生日
「優太君2☓歳のお誕生日、おめでとー!!」
会社が終わって直ぐのエレベーターで、上司から電話がかかった。
「渡すもの渡し忘れてたから、一瞬だけ顔出せる?」
「はい、わかりました。では失礼しまーす・・・チッまじかよ」
でも帰りの電車ん中で言われるよりマシか。
萎えそうな自分をなんとか立ち直らせ、社内に戻る。エレベーターのボタンを再度n階に設定して、ガラス越しから夜景を見た。
(そういや、まだ残業の人はいたはずだけどな・・・?)
疑問を感じつつ、真っ暗になった社内に電気を灯す。
「「ハッピーバースデーゆうちゃん!!」」
柱の裏に隠れていた社員のみんながワッ!と脅かしながらクラッカーを鳴らす。目を丸くする俺に同期のAは肩をぱんと叩いた。
「おめでと!」
「なっなんすか!?これ・・・」
電話をしてくれた上司のBも『誕生日だろ?』と苦笑いした。
「あ、そか!俺、今日誕生日なんすね」
「忘れてた?」
「えぇ、はい。すっかり」
アハハハハとみんなの笑い声が社内に響いた。
あ、そっか俺誕生日なんだ。しかもみんなに祝ってもらって。自分で自分の誕生日忘れちってて。馬鹿だな、なんつってヘコヘコしながら、じゃあみんなで飲みにでも行こうかっつって、都会の喧騒に混ざっていく___。
______。
そういう世界もあったのかもしれない。
俺、優太。今日で2☓歳の誕生日。
だがなんてことはない。浮浪者のようにふらつきながら、ゲーセンのベンチで腰掛けてる"自称"フリーター。
大学2年までは順調だった、と思う。
「でも、どうしてこうなったんだっけ」
優太はエナジードリンクを飲みながら、昼下がりの街並みをガラス越しから一望した。あの頃は良かった。あの頃は俺だって普通だったんだ。
今は誕生日を祝ってくれる友さえいない。
「どうしてこうなっちゃったんだろなぁ」
優太はピコピコ鳴り渡る一角で、ゆくはずだった未来を描いた。