医師のカルテの書き方 『拒否された』か『同意を得られなかった』か INFJの役割について
いつどこで教わったのかはもう忘れたのだけれど。
治療法を提示して、患者さんがその治療を受けたくないとおっしゃったとき。治療を拒否されたので、と書くのか、同意を得られなかったので、と書くのか。この場合、同意を得られなかったと書くべきだ、と教わったことがある。
そうだ、研修医のときだ。20年以上前。循環器内科の研修のときかそれとも心臓外科の研修のときか。その書き方、いいなと思った。なるほど、信頼関係を構築し切れてないから同意を得られない場合もあるんじゃないかと思って。忙しいのもあって説明が尽くされてない可能性もある。医療側の力及ばず……的な。他責か自責か論。私は麻酔科医だからその後カルテを書く機会はあまりなかったけど、同意を得られなかったと書くようになった。
麻酔科の術前外来をしていた頃、この手術受けた方がいいと思いますか?とか、この手術受けても大丈夫?とか聞かれることが何度かあった。不安で、第三者から聞きたくなるのかな。私の経験からは、外科医の手術の腕は抜群にいいんだけどコミュ力にやや難ありなパターンがほとんどだった。腕はいいのにそっけない人ってMBTIではどのグループなんだろ。
いずれにせよ、受けた方がいいなと思う場合がほとんどだったから、あの腕のいい、忙しい外科の先生の力になれたらいいなと思って、こっそり説明の補足のようなことをするようになった。そういうのは得意だ。私、縁の下の力持ちじゃない?
循環器内科の研修のときに担当した年配の男性の患者さん。心臓外科で手術を受けた方がいいとなって転科されてた。その頃、麻酔科で研修してた私は、気になってナースステーションのカルテ(紙カルテの時代だよ)を読みに行った。どうやら手術をイヤがってる様子。ああ、あの方、耳が遠いし、ちょっぴり頑固だから……。心配になって病室を訪れる。
『手術をお勧めされたんですね』
隣の奥さんが、『そうなんですよ、でもイヤがってて』と困ったようにおっしゃる。
本人は、イヤだの一点張り。『このまま退院したい』
ちょっと待っててくださいね、と言って、コピー用紙をナースステーションから拝借してくる。耳が遠くてきっと説明の半分も聞けてないのは知ってる。良い人だけど、奥さんの言うことには耳を傾けなさそうな方だ。退院したら命の危険があるの、わかってなさそう。
戻って、その方の前で下手なりに図を書く。心臓の簡単な図、その方のどこがどんな風に悪くなってるか。手術でどこをどんな風に切って治療するか。私の絵はけして上手くはないけど、遺伝に関する英語の本を皆で分担して読んだのを、順番に黒板を使って図を書いて説明したとき、わかりやすいと大学時代の一般教養の先生に褒められたことがあるくらいだから、きっと大丈夫。
今は入院して症状も落ち着いているけど、手術せず退院したら、また緊急入院前と同じしんどい思いをするし、命も危ない可能性があることを文字と大きめのゆっくりはっきりした声で説明する。手術は怖いでしょうし手術直後はやっぱりしんどいと思うけど、あの外科の先生は腕は良いと麻酔科でも言われてるし、同じ手術を毎週のように何人も受けていることも申し添えて。最後は、もし私の祖父が同じ状態なら手術をおすすめするということ。孫娘の立場って一番力があると思うの。実際に祖父に禁煙を決意してもらったこともある。アラフィフの今だったら、親なら、配偶者なら、兄弟ならとか自分の子どもなら、になるかな。
『よくわかりました。ありがとう。手術受けます』とおっしゃってくれて、ほっとして、頑張ってくださいね!と病室をあとにした。
手術はすんなり成功して退院されたあと、その方から達筆なお礼のお手紙をいただいた。嬉しいなと思ったんだった。
性格診断でINFJと出たとき、ストレングスファインダーで運命思考(Connectedness)と出たとき、私がもっとも得意なのは、人と人との間で繋がりを補強する縁の下の力持ち的な役割だったよなって改めて思った。全然スーパースターじゃないけど、必要なピースではあるかも。そんな風に思う。