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68番① 心にもあらでうき世に 三条院
心にも あらでうき世に ながらへば 恋しかるべき 夜半の月かな
三条院
歌意 心ならずも、このつらくはかない世に生きながらえていたならば、きっと恋しく思い出されるにちがいない、この夜ふけの月であるよ。
今橋愛記
伏し目がちな歌。
ほんとうは この儚い世を
もう生きておりとうはないのやけれど
もし生きながらえてしまうんやったら
だんだんに見えなくなっている この目で
今、見ている
夜更けの月が 恋しく思いだされることだろうよ。
同じ月を歌ったものでも
嘆けとて 月やはものを 思はする かこち顔なる わが涙かな
86番 西行法師
わたしが涙を流しているのは月、あなたのせいだよ。と
月にその顔を見せるようにして泣く西行の姿はエモい。
対して三条院の歌は
心にも あらでうき世に ながらへば
ここまでが、
月をかくす雲のように垂れこめていて
西行のことを書くとき、
ずっと流していたドビュッシー(月の光)が流れない。
そして
夜半の月かな
この夜更けの月が わたしは うまく浮かばない。