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「町の書店を増やしたい」を考える  4-4. 本:誰に読書して欲しいのか(2)

誰に読書して欲しいのか、という話が前回の投稿にまとめきれなかったので、続きです。前回は「CAN but DON'T 読めるけど読まない人たち」の話。
今回は「WANT but CAN'T 読みたいけど読めない人たち」の話です。


*マガジン全体の目次

「町の書店を増やしたい」を考えるマガジンの目次|Bookstorist (note.com)

4-4.本:誰に読書をして欲しいのか

(2)WANT but CAN'T 読みたいけど読めない人たち

グラフを見ると読みたいけど読めない人たち(薄緑グループ+白グループ)は約76%です。
読書離れの理由の約76%が、「(読みたいとしても)読めない」となっているのです。読めるようになったとしても、結局読まない人も当然含まれていると思いますので、数字自体はそこまで大きな意味がないのかもしれません。
けれど、「CAN but DON'T 読めるけど読まない人たち」に本を読んでもらうようにするだけではなく、「WANT but CAN'T 読みたいけど読めない人たち」がどうすれば本を読めるようになるのかを考えていくのはとても重要なことのように感じます。

※c.は各種連絡や事務手続きの他、人とのコミュニケーションや娯楽なども含まれていて、他の娯楽を選んでいるという面で水色グループと近い性質もあります。ですが、時間が十分にあれば読書する可能性があるので、今回は時間がないグループとしてまとめました。

そこで、まずは 忙しくなければ、本を読みたい人  について考えていきます。

  ■仕事や勉強が忙しい!(自分の事情)

ここですぐに頭をよぎるのは最近のヒット作『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』です。こちらの本は日本における労働と読書の関係の歴史を丁寧に辿ったもので、参考文献も多く非常に勉強になりました。良書です。労働に対する社会的背景・時代背景を根拠に人々の心理を浮き彫りにしています。
一番印象に残ったのは、社会の構造や時代背景を受けて、たとえ強制されなくても仕事や勉強を頑張りすぎてしまうので、本を読む時間が取れなくなってしまう。だから、頑張り過ぎないようにしよう!というメッセージでした。確かにその通りだなと思いつつ、この意識の変換は結構大々的に各方面から取り組まなければならないなとも感じました。

   ①政府・企業の働きかけが必須

まず社会状況が大前提としてあるので、競争心を煽られたり、不景気に対する不安が根底にあると、どうしても「頑張らずのんびりやろう」となりづらい人も多いように思います。

まずは国レベルの話としては、不景気を脱することも必須かもしれません。(これは政治・経済の話で難しく長くなりそう)

一段階レベルを下げて、企業レベル。
2007年に政府が「仕事と生活の調和憲章」を定め、各企業でもワーク・ライフ・バランスの試行錯誤を重ねてきていますが、効果はどれほどなのでしょうか…?
2020年の内閣府男女共同参画局によるレポートの進捗状況をみると、13年間でまだまだ道半ばという感じでした。
cf.s2-1.pdf (cao.go.jp)

また、長時間労働に関しては2014年に「過労死等防止対策推進法」が施行され、2015年「日本再興戦略」の改訂版では長時間労働の削減が強調されました。働き方改革関連法は、2019年4月1日から施行ということで、その取り組みはまだ10年しか経っていません。年間総実労働時間の推移をみてみると、コロナの影響もありそうですが、やや減少傾向にはあるようです。
cf.  000981929.pdf (mhlw.go

景気対策もワーク・ライフ・バランスも長時間労働対策も、それぞれ取り組まれてはいるけれど、まだまだ頑張ってもらわないと困る状況のようです。

参考:
関連資料リスト・調査研究 - 「仕事と生活の調和」推進サイト - 内閣府男女共同参画局 (cao.go.jp)

   ②個人の意識改革

ひとりひとりが、頑張り過ぎずに余暇を楽しむような生き方を模索していくということになりそうです。実際、そのようにしたいという願望は多くの人が抱いているように感じます。Hygge(ヒュッゲ)や「頑張らない生き方」といったキーワードは人々の意識にかなり上ってきています。
社会情勢や労働環境、家庭環境によってそんなに簡単にはいかない部分も多いのですが、人々の意識としては既に「ワークライフバランスを上手に取りたい」という方向性になっているような気もします。

「静かな退職」(その度合いなどにより賛否両論ありそうですが)という言葉も最近出てきましたが、自主的に頑張り過ぎないことを実現できている人も増えてきているのかもしれません。

   ③書店数を増やす&忙しくなければ読みたい人をターゲットにした書店を出す

さて、それでは上述したような、仕事や勉強など自分自身の事情で忙しくて本を読みたいのに読めていない人は、近所に本屋や図書館があったら本を読むのでしょうか?

そもそも読みたい気持ちがあるのだから、気軽に立ち寄れるところに書店があれば立ち寄り、読みたい本に出会い、何とか読書時間を作ってくれるかもしれません。
そう思うと一駅に一店舗など、コンビニのように店舗数が多い方が接触機会が増えて、読書への可能性が高まるような気がしてきました。
これは、「町の書店を増やしたい」という時に、多くの人が想定しているシーンのようにも思います。

2024年3月時点でローソンは、地域の書店とコラボレーションした“書店併設型店舗”を30店舗、日本出版販売と立ち上げた「LAWSONマチの本屋さん」を11店舗、オープンしています。
ローソンnews|富山県に書店併設「LAWSONマチの本屋さん」4/26初出店 – 流通スーパーニュース (shoninsha.co.jp)


また、店内を探す時間もない人に向けて、コーヒーショップのテイクアウト窓口のように厳選された商品だけクイック&GOで買えるようなサービスもいいかもしれません。それが、個人個人に合った選書サービスと結びついていればさらに良いかもしれません。
リアル書店の強みは、実際の本の触り心地を確かめたり、実際に触ったり中身をパラパラ読めるところが魅力でもあるので、試し読みコーナーを併設してもいいかもしれません。

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  ■介護や育児で忙しい!(家族など自分以外の事情)

ここまで見てきたのは、「勉強や仕事が忙しくて」という自分自身の事情が理由となるケースです。この調査にどの程度カウントされているのかは謎ですが、事実として取りこぼしたくないのは、自分自身だけの事情ではなく、家族などの介護や育児で忙しい人たちのことです。

   ①育児中の人

育児中の人は日本にどの程度いるのでしょうか。
2022年の「国民生活基礎調査」(厚生労働省)によると、18歳未満の子どもがいる世帯は991.7万世帯でした。
その内訳に思いを巡らすと、親世代の内訳としては、片親、共働き、専業主婦家庭の他、育児を祖父母や親せきが担っている世帯などがあるかと思います。育児の負担を、パートナーや親族や外部サービスと上手に分担できているかどうかで忙しさは大分変ってきます。また、子どもと一言で言っても、年齢や障害や持病の有無によっても、育児の大変さは変わってきます。
いったん単純化して「主たる養育者が各世帯に一人いて、その一人は忙しい」と仮定しても約991.7万人は育児による忙しさを感じているかもしれません。(あくまで参考値です)

専業主婦だとしても、幼少期は子どもが家にいる時間が長いので、その保育や送迎は、非当事者の想像以上に大変です。子どもが家にいない時間も子ども関係の用事が多かったり、はたまた親参加の行事が多かったりと、忙しいものです。
予期せぬ体調不良も頻繁に起こります。ただ忙しいだけではなく、予定通りにならないことの方が多く、とにかく自分の都合だけで動くことがかなり難しい状況です。
やっと生まれた隙間時間に、腰を据えて読書というのはなかなかハードルが高いと感じる人が多いのではないでしょうか。

   ②家族の介護をしている人

高齢者や、障害や病気を持つ家族の介護をしている人もたくさんいます。

高齢者の介護を想定した「介護保険制度」において、
2023年1月末の要介護(要支援)認定者数は、約693.2万人(要支援1~2、要介護1~5の合計)でした。
要介護者等から見た主な介護者の続柄を見ると、同居の家族や親族が54.4%。別居の家族が13.6%で、事業者が12.1%、あとは不詳。
実際の介護状況は多種多様で複雑だと思うので、あくまで参考値としてですが、
少なくても、693.2万人×(54.4%+13.6%)≒約471万人 が 高齢家族の介護に携わっていると考えられます。

また、令和5年版障害者白書によると、身体障害者436万人、知的障害者109万4千人、精神障害者614万8千人となっています。
そのうち、身体障害における施設入所者の割合は1.7%、精神障害における入院患者の割合は4.7%、知的障害者における施設入所者の割合は12.1%です。
こちらもあくまで参考値としてですが、
少なくても、436万人×98.3%+109.4万人×95.3%+614.8万人×87.9%
約1075万人が障害を持つ家族の介護に携わっていると考えられます。

cf. 2 健康・福祉|令和5年版高齢社会白書(全体版) - 内閣府 (cao.go.jp)
介護保険事業状況報告(暫定)(令和5年1月分)|厚生労働省 (mhlw.go.jp)
参考資料 障害者の状況|令和5年版障害者白書(全体版) - 内閣府 (cao.go.jp)

もちろん介護の大変さの程度は、お世話の対象の人それぞれの状況、そして主な介護者以外の人の助けがどの程度あるかに大きく左右されます。1人で背負うしかない人もいれば、家族や親せきの力を借りられる人もいます。

さらに、こういった社会的サービスに辿りつけず、数字としても把握できていないし、今本当に困っている人たちもたくさんいらっしゃることと思います。

家族の介護をしている人たちは、自分の都合だけで動くことはなかなか難しいと思います。時間や気持ち、お金を恒常的に自分以外の家族のために充てなくてはならず、時に意図せず突発的な対応を求められます。
こういった人たちも、やっと生まれた隙間時間に、腰を据えて読書というのはなかなかハードルが高いと感じる人が多いのではないでしょうか。


   ③国の社会福祉と経済面の基盤

子育て支援や介護支援の各種サービスについて、周知徹底と利用しやすさが大事です。たどりつけない人達へのアプローチを考えるとともに、ますますの充実が求められます。
当事者だけでなく、その人たちを介護する人たちの物理的・心理的負担もケアできるような手厚い社会制度が望まれます。
一方で、増税や日本経済低迷による、金銭面での負担もあります。

政治家や宮内庁などの国税を源泉としているにも関わらず、不透明で疑惑がつきまとう会計については明らかにして、悪しきは正していくこと。
外国への支援金やその他様々な国費をどのように分配するのか、癒着に惑わされずに適切な判断をしてほしい。
真っ当な政治家を教育すること、国民が選挙に行くことも重要になってきます。

こうした、国としての基盤をしっかりとすることが、国民の生活にゆとりにつながり、「読書がしたくても忙しいからできない」という人達が読書をする機会が増える一因となるのではないでしょうか。


   ④育児・介護で忙しい人をターゲットにした書店を出す

やっと生まれた隙間時間に、腰を据えて読書というのはなかなかハードルが高いとはいえ、むしろ、隙間時間に何とか本を読むことで何らかの解決や気分転換を図りたい人もいるかと思います。

アイディアとしては、隙間時間に読みやすい本ばかりを集めた書店があっても面白いかもしれません。(ショートショートや大人向け絵本・写真集、漫画など)

しかしながら、もしふらりと一人で自由時間を取ることすら難しい人が、抱っこ紐・ベビーカー・車椅子などを押しながら入りやすい書店はどの程度あるでしょうか?1階またはエレベータがある、扉の幅は十分に広くて、自動で開閉するでしょうか?
ショッピングセンターの上の階であっても少しハードルに感じるかもしれません。
理想を言えばきりがありませんが、読書をしてほしい人を限定するのではなく、広く色んな人に読書に親しんでもらいたいのであれば、本来はバリアフリーを強く意識した出店が望ましいと思います。
企業や経営者の努力だけでは、出店にかかる土地代や権利関係の問題で簡単にはできないところでもあります。政府が支援できるとすれば、こういった面もあるかと思います。

次回予告

4-4. 本:誰に読書をして欲しいのか(3)WANT but CAN'T 読みたいけど読めない人たち の続き!

5.書店:求められる役割について考える

 


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