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薄っぺらいポジティブよりも、究極のネガティブ。「絶望名人カフカの人生論」

将来にむかってあるくことは、ぼくにはできません。
将来にむかってつまづくこと、これはできます。
いちばんうまくできるのは、倒れたままでいることです。

P34より

なんとこの文章、ラブ・レターらしいです・・・

冒頭から引用ですみません。この衝撃的なラブ・レターを書いたのは、20世紀最高の小説家と称されるフランツ・カフカ。しかも驚くことに、このラブレターで女性の心を射止め、婚約に成功。しかしその後、(自分から)婚約を破棄。なんという目茶苦茶なエピソードでしょう。天才小説家はやっぱり違います。

そんな天才であり、変人でもあるカフカが残した言葉を拾い、解説をつけて1冊にまとめたのが「絶望名人カフカの人生論」という本です。この本を、風速4メートルの寒風が壁にぶつかる音を聞きながら読みました。

この本は、20世紀最高の作家と称されるカフカの人となりを教えてくれる興味深い1冊でした。途中、哲学的と感じる部分もありますが、そこまで難しい内容ではありません。いや、むしろ優しくてスイスイ読めます。

この本を読んでカフカに興味が湧きあがったのはもちろんですが、なんというか、私たちが普段漠然と感じる不安や恐怖といったものに、全力で反応したカフカさんが素晴らしい。当然、その報いは受けるのですが、その姿すら神々しいと感じました。

例えば以下の一文があります。

幸福になるための、完璧な方法がひとつだけある。
それは、自己のなかにある確固たるものを信じ、
しかもそれを磨くための努力をしないことである。

P88

この文章を解説ではセルフ・ハンディキャッピングだと指摘しています。これは、「努力をしなければ、失敗したときに傷つかない」という意味です。

つまり、カフカさんは幸福を勝ち取るため、傷つかないために、努力をしないことを推奨しているのです。そんなことを考えるだけでなく、言うだけでなく、行動に移してしまった人。それがカフカさんです。

しかし、小説を書くことに関しては、少々違ったカフカさんをみることができます。以下は著者の解説です。

自分を小説家とみなしていたカフカですが、自分の作品はつねにけなしています。求めるものが高すぎて、なかなか満足できないのです。

P147

カフカは自分で自分を激しく非難しますが、人からの非難は拒絶します。だから、人から非難される前に、先回りしてそれをやってしまうのです。

P111

どうしても自分の小説を認めることができない。しかし、どうしても小説家になりたい。その狭間で揺れ動く粗雑で繊細なカフカの気持ちが、解説から伝わります。

その性格ゆえに、結局、未完のまま発表されなかった小説も多いのがフランツ・カフカの特徴ですが、逆に神経質なほどに完璧な感性を目指してしまったことが、カフカの魅力につながったと本書の著者は述べています。

「考える人」で有名なロダンの彫刻が、未完成であることで、より魅力的であるように。
バベルの塔が崩れたのは、天にまで届かせようとしたことに、そもそも無理があったから。カフカも、もともとの作品の完成が不可能なほど、高みを目指し過ぎているのです。

P149

当然ながら、この本を通じて店主もカフカに魅力を感じました。ただ、店主が若かりし頃、カフカの「変身」を初めて読んだとき、何が面白いのか意味がさっぱりわからず本を投げ出しています。

しかし、今なら読めるはず。そして、古本屋の店主として成長し、更にこの本を読んだ後であれば、カフカがなぜ評価されたのか、その裏を理解できるはず。次に巡り合った時は必ず読み切りたいと思います。

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