Memories take us back, Dreams take us forward.
皆さんの一番大切な想い出は何でしょう?
2年前、結婚したとき、既にコロナ禍だった。
式を挙げない代わりに写真を撮って、額縁に飾っている。
額にこの言葉を入れてもらった。
フラれかけていた僕は「5分で着くから」とか適当なことを言って、神戸から車をすっ飛ばし鎌倉まで5時間くらいで彼女に会いに行った。数か月ぶりに会って、この映画「タイムマシン」のセリフを引き合いに出して、首の皮一枚が繋がった。他人にとっては痛々しい中二病の滑稽な事かもしれない。
でも、その日のおかげで妻と娘がいてくれる「今」がある。
だから、その日が僕にとってはここ数年で一番大切な想い出かもしれない。
僕は目を瞑ると過去へ戻れる気がする。
ぼやけたすりガラスみたいな残像、あるいは、目の前にあるかのようにくっきりとした残像の記憶を辿ることが僕にとっては過去に戻るということ。
最近「時間は逆戻りするのか」という量子物理学のブルーバックスの本を読んだ。僕には見えないミクロの世界ではエントロピーが増減して時間のベクトルも気まぐれらしい。
2019年にはブラックホールが撮像され100年ぶりにアインシュタインの一般相対性理論で予言されていたブラックホールの存在が実証された。
ブラックホールのことを調べると宇宙の誕生の瞬間が解明できると近似であるとNHKの「神の数式」で知り、童心に返ってニュースを見ていた。
その宇宙の謎を解明するファクター、量子力学の世界での時間について誰にでもわかる形で導入されている。
著者はホーキング博士に3年間師事し、現在、筑波大学計算科学センター研究員として研究に従事されている。
難しいことをやさしくというのはとても骨の折れることだが、本書はそれを実践されており、流石にきちんと文章が論理立てられストリームがしっかりとしながらも、誰にでも理解しやすく、宇宙物理学の概要を説明された良書だった。
熱力学第二法則エントロピーの増大に反する挙動の世界──超ミクロの量子の世界──では時間のベクトルが変わるらしい。
現在の物理学では時間は1次元で扱われているが、時間を2次元にすると波が伝わらなかったり、色々と不安定なことがおこる不連続な世界。我々の3次元が空間と時間の次元が増すと、どんどん世界が不安定になっていくというのも面白い。
本書で触れられているホーキング博士の虚時間宇宙論やロヴェッリ博士のループ量子宇宙論も概要を知りたくさせられる。
読んでいる間、ベルクソンやドゥルーズを思い起こした。ドゥルーズの差異と反復じゃないけれど、欲望──力への意志──が永劫回帰をエンジン機関として人を夢や希望の未来ある前へと進ませる。やや批判的にフランス現代思想を捉えていたけれど、案外ドゥルーズもいいかもしれない。
ヒトの記憶が素粒子なのかどうかわからない。けれど、素粒子だとしたら、「思い出したい」という欲望がある限り──この欲望も素粒子なのかもしれないが──エントロピーの増大に反する挙動を引き起こして、時間のベクトルが目を瞑っている間だけ変わる。
少し話は飛ぶけれど、ミヒャエル・エンデの『はてしない物語』をご存知だろうか?
「記憶」、「想い出」で人は世界との繋がりを再認識しながら、「イマージュ」、「夢」、「希望」で自分を取り巻く世界を作り上げて空虚さを愛に変えて生きていく。
僕はそんなふうに時々、色々と想像し思索する。素粒子の不確定性原理からこの日常の因果関係は確率でしかない。僕が「タイムマシン」のセリフを中二病を発揮して彼女に言ったことも、それで「今」があることも、それらの因果関係は確率でしかない。
──だから今、この「瞬間」を大事にしたい
と宇宙や多次元の量子の世界に夢を馳せながらも、ふと思った。