路傍の石
路傍の石
著者 山本有三
おすすめ度★★★★★
座右の書
俺の中ではこの本と「木に学べ」西岡常一(著)は、どの自己啓発書よりも勝る名作。
今の時代、貧困からくる理不尽な我慢、忍耐、苦労を強いられる子どもは珍しいんじゃないだろうか?
それどころか、そうした概念が時として批判されたりもする。
子どもに我慢させるな、無理強いするな、効率よくどうたらこうたら、などなど。
けれど、こうした、我慢、忍耐、苦労を乗り越えようと努力した者にしか辿り着けない場所、景色=考え方や視点、強さ、優しさや許容量といったものもある。
俺にとっては、そうした事を幼い少年吾一を通して考えさせられ、俺をいつも励まし勇気づけてくれる作品だ。
路傍の石との出会い
小学生の頃から祖父、父や兄のように大工になるのが夢だった。両親は高校にだけは行っておけと言っていた。運良く地元の高校へ入学したが大工になるのに遠回りになるだけだとかその時は思い、数週間後、親父と殴り合いの喧嘩になったが、高校を辞め、勝手に家を出て関西の叔父の工務店で住み込みの見習いをさせてもらった。
叔父も今の時代は高校だけは卒業しろと言った。住み込みの見習いは、転入と卒業が条件だった。定時制の高校の建築学科に夜通う羽目になった。
親父は俺の名前が一本一本に彫られた桐の箱に入った鑿のセットを送りつけてきた。そこには、手紙も入っていて、ただ「良く研ぐように」とだけ書かれていた。
朝5時起き、毎日何かしらで怒られて、時には鉋の土台が飛んできたり、ケツ蹴られたり、夕方5時に上がったら学校。毎日、今日こそ辞めて関東帰ってやると思いながら、ふてぶてしくやっていた。集中もしていなかった。鑿を送ってきた親父の思いなど考えもしなかった。1ヶ月かそこら経ったある日、仕事中、俺の不注意から、エアで釘が腕貫通。血がダラダラ流れている。床材を汚した事が叔父にバレたら鉋で殴られるだけじゃ済まないだろうなと思い、頭の中が真っ白になっていた。案の定怒られた。不注意になっていた事、しんどいからもう辞めて地元に戻るつもりでいる事など病院の中で正直に話した。叔父はただ黙っていた。数日後、俺に一冊の薄い本を渡してきた。
それが路傍の石だった。
だから、俺にとって、とても思い入れがある本だ。
当時読んだ時はそれなりに感動した。吾一の貧乏さ加減が、俺の実家の平成とは程遠い貧乏さ加減と似ていたり、毎日どやされる理不尽さと吾一の理不尽まみれな日常と被ったりしたからだ。それでも、鑿を送ってきた親父の思いや、この本を俺に渡した叔父の思いなどあまり深く考えていなかったと思う。
あらすじ
主人公の幼くも賢い少年、吾一。
吾一は貧しい家庭(注1)に生まれ、経済的な事情から、丁稚奉公へ。
そこからも更に、様々な壁に行手を阻まれる。
少年吾一は、路傍の石のように人生ことごとく蹴られてばかりだ。
自身ではどうしようも出来ないような壁に阻まれながらも、1人の少年が必死に生き抜こうともがく様が描かれている。
残念な事に、山本有三が執筆していた当時、戦争の幕開けにより、この本は未完となる。
艱難汝を玉にす
吾一のその後が読みたかった。
よく、名言として、次野先生(注2)の以下の吾一への言葉が取り上げられる。
「たったひとりしかいない自分を、たった一度しかない人生を、ほんとうに生かさなかったら、人間、生まれてきたかいがないじゃないか。」
勿論この次野先生の言葉も響く。
けれど、黒田(注3)が吾一へ向けた言葉の方が読んだ当時心に突き刺さった。
「人間はな、人生という砥石で、ごしごしこすられなくちゃ、
光るようにはならないんだ。
『艱難(かんなん)、汝を玉にす。』へこたれちゃだめだ。くよくよするんじゃないぞ。」
吾一はこの、艱難汝を玉にす、という言葉を支えにする。
艱難汝を玉にす
とは、
人間は苦労を乗り越えていくことで玉が磨かれるように人格が練磨され、立派な人間になるという意味。
あれから10年以上経つ。
艱難汝を玉にす
少しは成長した気もする。
いや、へこたれそうで、くよくよしているから、この黒田の吾一へ向けられた言葉を思い出し、ぐっときて、へこたれるなと、自分自身に言い聞かせている。それでも、俺には笑顔でいる義務がある。家族がいる。何も出来なかった俺に道具を買い与えてくれた叔父、勝手に家を飛び出しておきながら、彼女との遠距離を辞める為に都合よく地元に戻った俺を黙って迎え入れてくれた親父。
今は、鑿セットを送りつけてきた際「良く研ぐように」と書いた親父の気持ちも何となく理解できる。
苦楽の経験とそこで関わった人々への感謝や驕る事なく謙虚でいる事、辛い時こそ笑顔を大事にする事、簡単にへこたれちゃいけない。
そうした事を年月が経てば経つほど、吾一が俺に訴えかけて背中を押してくれる。
どんな自己啓発書よりも勝る。
—
追記
2021/02/11
以前インスタに載せたものからの推敲。
今日で娘が産まれて丁度2ヶ月。
親として、我が子が力強く生き抜けるよう、葛藤力をつけてあげたい。
注1:父親は働かず、家計は母親の内職で賄っていた
注2:次野先生は吾一の小学校の担任教師
注3:黒田は吾一の近所の書店主人で吾一の才能を見抜き、彼の中学進学の学費援助を申し出る人物
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