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「変えるべき」は環境か、それとも
プロレスは人生の縮図です。
リング上で起こる出来事には、生きる中で味わう諸々が反映されています。勝利、挫折、旅立ち、裏切り……そしてスランプ。
何をやっても空回り。頑張っているけど結果が出ない。誰もが体験する「出口の見えないトンネル」にSANADA選手も入ってしまったようです。
彼の師匠である武藤敬司選手も、95年の同じ時期にスランプに陥りました。札幌大会でスコット・ノートンに完敗して「リングに上がるのが怖い」と長期欠場。その後はお寺で写経したり座禅を組んだりしていました。
この座禅が本当にきつかったみたいです。そして「どうせつらい思いをするならプロレスで」と悟ったとか。復帰後は5月の福岡ドーム大会で橋本真也選手を破り、IWGPヘビー級王座を獲得しました。
私の好きな試合のひとつです。いつもは飄々としている武藤選手がガムシャラに闘っていました。ドラゴンスープレックスを強引に仕掛け、歯を何本も折ってしまったほど。
苦境を乗り越えて王者になる流れは、新日本プロレスが武藤選手を売り出すために考えたプランかもしれない。ただ当時の彼が行き詰まっていたのも事実です。悩める天才がプロレスをできる喜びを噛み締め、近くて遠い栄光を掴むために泥臭く闘う姿には真実味がありました。
SANADA選手が団体もしくは所属するユニットを離れるのではと考える人が多いようです。私でいうなら他の書店へ移るようなものでしょうか。それもひとつのやり方。一歩踏み出す勇気が必要な局面は間違いなく存在します。しかし状況によっては、いちばん安易な選択かもしれない。
スマートなレスリングをかなぐり捨てた必死のSANADA選手、いや真田聖也を見たい。もちろんタイチ選手のユニットへ移ってもいい。でもいまはロスインゴ所属のままで殻を破る方が、かつて師匠が成し遂げたような劇的なカムバックになる予感がしています。
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