「那須川天心 vs 武尊」を見て思い出したこと
ABEMAで見ました。
選手コールを受けて振り向いた時の武尊選手の目が忘れられません。それまでは穏やかで優しい眼差しを浮かべていたのが急転直下。
ただ「黒」しかなかった。
大天使ルシフェルが魔王サタンへフォールダウンする過程が凝縮されたかのように感じました。
真っ先に連想したのは、コーマック・マッカーシー「ブラッド・メリディアン」に登場する、ダンスが巧みで全身に毛のないホールデン判事です。
決して「虚無」じゃないんですよ。むしろ意志は力強く、シンプルで明確。だからこそ余計に背筋が寒くなる。
あくまでも私の印象ですが、パンチの正確さで天心選手が上回っていた気がします。ガードの隙間を一瞬で狙い撃ちし、反撃は紙一重で避ける。モハメド・アリが口にしていた「蝶のように舞い、蜂のように刺す」とはまさにこれかと。
尤も、3ラウンドに入ってからの武尊選手は動きが別物だったのも事実です。スロースターターなのか、それとも何かが吹っ切れたのか。
もし判定がドローで延長ラウンドに入っていたら。あるいは最初から3分5ラウンドのルールだったら。でもそういう「たられば」はこの一戦に限っては無粋。第三者が軽々しく妄想することを許さぬ絶対的な「勝者の掟」が君臨していました。
格闘技の試合でここまで興奮したのは、2000年5月に今回と同じ東京ドームでおこなわれた「ヒクソン・グレイシー vs 船木誠勝」以来です。プロレスファンの私は船木選手の勝ちを信じていました。
しかし結果はチョークで絞め落とされて敗北。船木選手は試合後に引退を表明しました。
武尊選手が今後どういうキャリアを歩むのかはわかりません。でも彼の闘う姿をまた見たいです。負けて終わりではなく、そこから這い上がる生き様を。2007年に復帰し、いまもなおプロレスリング・ノアで緊張感に満ちた輝きを放つ船木選手のように。
一生忘れません。激闘をありがとうございました。