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【本129】『ことり』
著者:小川洋子 出版社:朝日文庫
たとえて言うなら、東山魁夷の大きな絵画を眺めているような物語でした。寒色系で描かれ、凛とした雰囲気が漂う一方で、どこか寂しさを秘めた冷たく澄んだ空気感。その絵の前に立つと、まるで小鳥のさえずりや木々の揺れる音、川のせせらぎが静かに聞こえてくるかのようです。
主人公の小父さんには、ボーボー語しか話さないお兄さんがいます。この言葉を理解できるのは、小父さんだけ。二人はお互いを支え合いながら、ひっそりと暮らしています。
周囲の人から見れば、二人の生活は単調で孤独に映るかもしれません。しかし、彼らの傍には常に小鳥がいて、さえずりや、小さな動き、心の微細な変化を丁寧に感じながら生きています。
喧騒や雑踏、欲望に溢れた世界だけではなく、人々の目にはあまりふれない、静かな暮らしも存在します。そこには、私たちが普段は気づかない音や、小さな命の鼓動、繊細な感情を見つめる眼があります。
小鳥と小父さん。
この静かで愛に満ちた物語を、私も深く感じ取りたいと思います。