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【本131】『臨床の砦』

著者:夏川草介 出版社:小学館

コロナ禍の2021年1月第三波の信濃山病院を舞台に医師たちの奮闘を描いた小説です。あの日のことがつい先日のような気もしますし、遠い遠い昔のような気もします。この本を読んで、あの異常さ、恐怖、孤独を思い出しました。この本は、私たちが忘れてはならない医療現場の日々を克明に綴った、後世に残すべき小説です。

私も2020年4月、得体の知れないコロナの恐怖と向き合いながら、仕事を止めないため、仲間たちと奮闘した日々を思い出しました。病院とは異なる職種ではありましたが、精神的にも体力的にも限界だった日々。次第に世間が「コロナ慣れ」をし、良い意味でも悪い意味でも街に人が戻り、無防備になっていく日常をみながら、現場との乖離を感じました。

もちろん、私の現場は、主人公の敷島をはじめとする医療従事者の方々が経験した緊迫感や絶望、孤独や恐怖、精神的・体力的な限界とは比べものになりません。ただ、コロナによって本来得られるべき日常を得られなくなった人に、いかに、日常を届けるか、著者が最後あとがきに述べたまさに「生きているうちに、善き人たれ」を理想論でもいいから貫くため何ができるか、私自身が向き合った日々でもありました。

医療従事者の「逃げない」人たちが、あの時いたからこそ、今の社会が、私たちがいます。命が奪われていく異常な世界において、誰が私たちを守り助けるのか、そして、その現場で何が起きているのか、正しく知ることを私たちは決して怠ってはいけないと、あらためて、この小説を読んで思いました。

あの日、命の最前線にいてくださった人々に感謝と敬意を表します。

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