ドン・キホーテ(前編) セルバンテス
白紙化された地球を救い、人理を守るとあるゲームに出てきた愛すべき登場人物のルーツを知りたくて、購入。
こういう古典的文学を読んで、当時の時代背景や作者自身の経験・心情・信条に基づいた感想を書ければかっこいいんだけど、ハードルが高いので最初から諦めている。
前編読んでまず思ったことは、ドン・キホーテはかなり頭が良いということ。確かな記憶力を武器に、数々の騎士道物語について広く深い知識を持って、それを理路整然と話す能力もある。捲し立てると言っても差し支えない。オタクだ。
彼が読んだ騎士道物語の中身と、目の前に広がる出来事を重ね合わせて、豊かな語彙力と表現力を駆使して騎士たらんと口上を述べるところはかなりカッコよく思える。騎士道精神に溢れている。
しかも、なぜか、いざという時には敵(とみなした相手)に果敢に立ち向かって勝利することもできる。おじいちゃんなのに……
ドン・キホーテの身を案じてくれる村の知り合いも姪もいる、人望は厚いはずの人。
なのに!
狂っているというただ一点において全てが台無し。「あ、ドン・キホーテにそんなこと(一般に騎士道物語は創作ですよ、みたいなこと)を言ったらまずいですよ!」って心配する場面では、案の定激怒するから、周りがかなり腫れ物扱いする。ここまで突き抜けて「自分は遍歴の騎士だ」と信じているから、嘘から出たまことになれ、とヤケクソに思ってしまう。一応応援する立場として読んでた。
従者のサンチョがまた見事に欲深くて、それ故に信じやすく、ドン・キホーテを支えている。伯爵にしてもらえる筈だという希望だけで、ドン・キホーテについて村出るか?出ないよ、普通。
風刺や皮肉を込めて主従の2人が描かれてるんだろうなとは思うんだけど、それにしたって、サンチョも、もちろんドン・キホーテも、読む前には想像もしてなかったほどにボコボコにされる時があって、痛々しい。どっちも夢見る年寄りなだけなんです。ドン・キホーテも相当痛い目を見させてる側ですが、ほどほどにしてあげてください……。
あと、出てくる女性がみんな美人。そう形容されている。
Aという美女が出てきた後に、Bという美女が出てきたら、『Aに会っていなければ、Bこそが最も美しい女性だと思っただろう』なんて紹介される。
したがって騎士道物語につきものの男女の色恋も描かれる。当事者は泣きがちだし、周りで話を聞いている人たちも泣きがち。
でもドロドロ感はなくて、なぜかさっぱりしてる印象がある。これはセルバンテスさんの表現もさることながら、訳者の方の力でもあるのかなとは推察している。
前後編6冊の大作だから、すごい数の登場人物が出てきて、何年にもわたるドン・キホーテの愉快な冒険が綴られているに違いない、と恐れ慄いて、年末年始の長期休暇に腰を据えて読もうと思った作品。
実際にはそんなに人は出てこないし、「それ誰だっけ?」ってなることは一回もなかった。
多分、ドン・キホーテが村を出てから約20日の話に過ぎなくて、当然出会いもそんなにない(20日の割にはいっぱい出会っているけど)ところに救われた。
そして20日間の話に前編文庫3冊分の文字数が使われているので、まあ濃い。なんせ遍歴の騎士の騎士道物語だから文体も格式ばっているけれど、不思議と、翻訳物につきものの恐れたほどの読みにくさはなかった。意外とテンポよく進んでいく。
このあと、後編3冊で、機知に富んだ我らの郷士がどんな冒険を繰り広げてくれるか、楽しみ。
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