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取材ライターとして幸せを感じるとき

取材ライターになって27年。これまで本当にたくさんの人の話を聞き、その生き様を垣間見させていただいた。
いつも取材が終わるたびに思うのだ。
私はなんてラッキーなんだ!
私はなんてラッキーな仕事をしているんだ!
もし取材ライターじゃなかったら、こんなに多くの人の考えを、生き方を、想いを、「聞くこと」すらできなかったはずだ。それなのに、私はさらにそれを「書くこと」までできる!
ああ、幸せな人生だなぁと、いつもいつも噛みしめて、そうやって生きてきた。大げさでなく。

そのうえ、私は企業のトップ(会長や社長)に取材する機会が多かった。酒蔵の社長(蔵元)だけで考えても、100人以上は取材しているわけで。これもまたありがたいことで、普通に生きていたら「社長」と呼ばれる人の話を聞くチャンスなんてそんなにないはずだ。

やはり企業や組織のトップの話というのは面白い。残念ながら世の中のすべての「社長さん」=「素晴らしい人」ではないと思うが、私が書かせてもらってきた媒体が、国や自治体の事業の成功事例だったり、業界で注目されている伸びている企業の社長だったりしたから、会うと「素晴らしいなぁ」と思う方がほとんどだった。
ホームページや会社案内、社内報、人を採用するリクルートページを作る仕事などもいろいろしてきたが、それにしても、やはりそういう仕事を依頼できるのは「余裕」のある企業や店舗だから、業績が良い。業績が良いということは、人を大切にする「いい会社」であることが多く、そういう会社の社長さんは決まって「いい社長さん」だった。

今週は、食品関係の企業(その業界では日本一のシェアを誇る)の社長さんのインタビュー取材があった。クライアントの営業さんとカメラマンさんと3人で本社に伺った。

私が「素晴らしい」と思うタイプの社長さんは、まず「偉そうにしない」。こちらの立場が低かったり、年齢が若かったりすればするほど、「自分を下げて」気さくにふるまってくれる。こちらをリラックスさせようとしてくれるのか、軽い話題をふって自分から先に「良いムード」を作ってくれる。
今回もそうだった。私の名刺を見て、名前や住所から話題を広げてくれて、一気に場が和やかになった。
「場があたたまる」というやつだ。

この社長さんは取材や講演慣れしているので、お話も面白く、インタビューは盛り上がった。ただ、しゃべりたいことがたくさんあるタイプの社長さんだったので、1つの質問に対する答えがとにかく長い。
今回は先にインタビューシートが欲しいということだったので、先に大まかな質問内容を10個くらい箇条書きにしたものをお渡ししていたのだが、そのシートの質問2つ目くらいで、すでに40分くらい経っていた。
インタビュー時間は90分、撮影も入れて2時間の予定だったので、途中で「これは調整が必要だな」と気がついた。でも、話は面白いし、何より気分よく話されているので、それを切るようなことはしたくない。
すぐに頭の中で記事の構成を組み立て、必要な情報の優先順位をつけ、残り時間を考えながら情報を拾っていくやり方に切り替えた。もちろん心の中だけで、だ。

それでなんとか時間以内に終わりそうだったのだが、最後にどうしてもしておきたい質問があったので、「もう時間だと思うんですけど、最後に1つだけいいですか?」と横にいた秘書さんに聞いた。「1つだけなら」ということで質問させてもらったら、その質問が社長のおしゃべりに火をつけてしまい、私の予定ではあと5分程度で終わるところ、なんと20分くらいかかってしまった。

少しオーバーしてしまったなぁと思いながらも、最後の質問はしてよかったなと思った。
それは社長さんが急性白血病になり、克服したという話だった。私がした質問は「大病を克服されたと聞いていますが、その後で仕事に対する考え方や生き方などの変化がありましたら、お聞かせください」というものだったのだが、病気になったところから話が始まり、どうやって克服したかということや入院中の過ごし方、お医者さんとの細かなやりとりまで、それだけで一つの物語ができそうなくらい詳しく話してくれた。

時間はオーバーしたが、聞かせてもらえたことは本当によかったと思う。「自分はまだ死んではいけない。やるべきことがある!」という強い思いが人を立ち上がらせること、元気にさせることがよくわかったからだ。
この社長さんがそうだった。「5年後の生存率30%」と聞いた時、「30%あるなら大丈夫だ!勝てる!」と思ったという。それから、きつい抗がん剤にも耐え、入院中も仕事をやめず、吐きながらでもとにかく「食べた」というのだ。医者に「こんな人見たことがない」と言われながら、見事に克服して退院した。普通はげっそりと痩せてしまうらしいが、社長は入院した時より10キロも太って退院したというのだから驚く。
だからこの方はこんなにも生命力のオーラが強いんだな、と思った。

それから十数年経つが、今も再発はないそうだ。よかった。
こういう話を聞くと勇気をもらえるし、私ももっと頑張らなくては!強い気持ちを持たなくては!という気持ちになる。

この他の事業の話もすべて素晴らしかった。企業理念と信念が感じられた。
こんなふうに世の中のために貢献している会社があるのだと感動し、その原動力となる社長の想いに触れられたことが嬉しくて、とても幸せな気持ちで本社を出た。

すると、さらに幸せなことが待っていた。
今回、初めて同行していただいた営業さんだったのだが、駅まで歩く途中で「すごいですね」と言うのだ。何のことかと思ったら、私のことだった。「質問2つ目くらいで40分経ってたじゃないですか。だから、正直これは最後まで聞けないんじゃないかって不安に思ってたんですけど、時間内に見事に回収されていったので、すごいなぁと思いました!すごくいいインタビューだったと社長も思われてると思いますよ!」
そう言われて、単純にうれしかった。
褒められるっていいなぁ(笑)
傍から見ていてもいいインタビューになったと思ってもらえたのだと思うと安心もした。

しかし、この2時間に及ぶインタビューをどうやって2000文字程度の文章にまとめればよいものかと悩んでいる。
今回は、久しぶりに商業誌(書店で売られる雑誌)の仕事だ。私は業界や行政の刊行物、企業の広告や社内報などが多く、商業誌の仕事はこれまでほとんどしてこなかった。ごくたまにビジネス系の雑誌や新聞はあったけれど。
「商業誌は儲からない」と思っているので、どちらかといえば地味でも自分のやってきた仕事で十分満足していた。
ただ、親は私が書いたものが売られていると喜ぶのだ。なので、親孝行のためにも時々は商業誌の仕事もあったらいいなと思っている。

今回もWEBの仕事だと思って受けたら、WEBにも掲載はあるが、ちゃんとビジネス系の雑誌になって書店で売られるとのこと。4月頃に発売されるようだ。これは久しぶりの親孝行だな。

今月はレギュラー案件以外に、これを含めた単発の取材案件が2本あった。
毎日のように取材に出ていた頃を思えばものすごく少ないが、今の自分にはこれくらいがちょうどいい。
正直に言えば、年が明けてからも体調の良くない日は多い。痛み止め薬も、夏頃と比べれば、飲む量が2倍に増えた。
それでも、仕事は「少し」あったほうがいい。それが生きる力になるのを感じるから。
取材から帰って、インタビューの内容や営業さんに褒められた話をうれしそうに話す私を見て、夫がニコニコ笑って言った。「かおりは取材行くと元気になるなぁ」と。
だから、無理をせず、できる範囲のことを真摯にやっていこう。まずはこれをいい記事に仕上げることからだ。

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