初めての土砂降りワンオペ子連れ旅!

 子連れ旅行、それは「決死の覚悟で挑む戦いである」といったようなことを以前も書いたことがある。
 しかし、もしそれが、長距離移動の上、一人で子どもを連れて行くことになったらどうだろうか?さらに出がけに土砂降りだったら?大雨によりめちゃくちゃになったダイヤに翻弄された人々で溢れる駅の中、身動きが取れなくなったら…!
 というあまり想像もしたくない旅を先日実際にしてきた。
 その日は私とひなちゃんの二人で新幹線に乗り、東京へ行くことになっていた。私一人でひなちゃんと新幹線に乗るというのは初めてのことで割と前からどきどきしていた。
 東京旅行の目的は次の日に開催される夫の友達の結婚式に家族で参加するという非常にめでたいものであった。夫はその日幸か不幸か知らないが、一日東京での仕事が入っており、朝から出かけ、私たちは午後から夫を追いかける形で東京に向かうこととなっていた。
 念入りに荷物を準備し、ひなちゃんと一時半に家を出ると外は土砂降りとなっていた。
「午前中全然雨降ってなかったじゃん。なんで今?」
と思いながら数メートル道を歩いて
(ああ、これは無理だ。安全に歩けない。)
と判断せざるをえないほどの激しい雨が降っていた。傘の非力さをまざまざと見せつけられた。水圧水量共にフルパワーなシャワーをかけられているようで、どんどん服がぬれていき、道路はどこを歩いても深い水たまりの様になっており靴が水没していくのを感じた。
「ひなちゃん、危ないから一回戻ろうか。」
と声をかけながらすごすごと玄関に逃げ帰るとこんどはひなちゃんが
「パパ、会いたいー!かんかんかん(新幹線の意味)!」
と泣きながら、ひなちゃんの知っている言葉を総動員し猛抗議をしてきた。
私のせいではないのに。一言で言うならとばっちりだ。
「パパに会いに行こうね。新幹線に乗っていくよ。」
と朝から何度も伝えていたため期待が裏切られたような気すらしたのだろう。
「ちゃんと東京に行くよ。パパに会いに行くからね。」
と言ってみたがそんなのはひなちゃんに通じない。
 それならばと気を取り直し、タクシーで駅まで行くことにした。
 ところが幾つもタクシー会社に電話をしても一台もタクシーは手配できなかった。この雨で多くのタクシーが一瞬にして出払ってしまったのだろう。私は天にもタクシーにも見放され、ふてくされながらただただ家で、洗車中の車内ですか?と言いたくなるような雨音を聞くことしかできなかった。
 三〇分くらいたっただろうか?雨の音が微妙に和らぎ、ぎりぎり歩いて駅まで行けそうな降り方になったことを感じ取り再びひなちゃんを抱っこ紐に入れ、大きなリュックを背負い、左手に傘、右手に白杖を携え家を飛び出した。
 白杖を振る右手と傘からはみ出たリュックをびちゃびちゃにしつつどうにか電車に乗り、新大阪に付くことができた。運よくひなちゃんはそこで寝てくれ、
(お?これはゆっくり新幹線に乗れる道が開けたのでは?)
とあほみたいな甘い期待をしてしまった。
 新幹線の乗り換え改札に付くと、改札前は多くの人で混雑していた。
 大雨で、九州新幹線は止り、山陽新幹線や東海道新幹線は大幅に遅れていたのだ。
 私ももはやこれまでかと立ち尽くしていると、
「どうされました?新幹線乗られますか?」
と神のささやきのような声がした。そのマダムらしき声の主に、
「東京まで行きたくて、でも新幹線もう出ちゃったかもしれなくて。駅員さん近くにいませんか?」
と動揺しながらたどたどしく答えると、
「ちょっとお待ちくださいね。」
と言い残し、駅員を探しに行ってくださった。少しゴールが見えてきたような気がした。
 数分後には、その救いの神と思しき方が、駅員さんを連れて戻ってきてくれた。
 駅員さんもたくさんのお客さんへの対応がある中、私の切符を確かめ、どうにか新幹線に乗れるよう手配を進めてくださり、当初よりは四〇分遅れたが、どうにか新幹線に乗ることができた。
 ひなちゃんもこの日はなかなかに優秀で名古屋までは寝続けてくれた。
 起きてからはラムネやおにぎりせんべいを少しずつあげたり、アンパンマンの自由帳に色鉛筆でお絵描きをしていてもらったり、絵本を読んだりと様々なアイテムを活用しひなちゃんの暇つぶしに興じた。
 いよいよリュックの中の持ち駒がつきかけるぞというタイミングで新幹線は品川駅に到着した。
 駅の改札から出て夫に会うとひなちゃんは
「パパー、パパー、パパー!!!」
と叫び、抱っこ紐の中で足をばたばた動かしていた。
 私は、
(うわー、どうにか着いた。よかったー。)
と思うばかりで、久しぶりの東京に思いをはせる余裕も無かった。
「ひなちゃん、初めての東京やね♪」
とはしゃぐ、なんだかやたら元気な夫と、予約していてくれたビジネスホテルまで電車を乗り継ぎ移動した。
 私は、ワンオペ子連れ旅×土砂降り×交通機関の遅延なんて、厳しい要素を抽出して煮詰めたようなどろっとした何かをどうにか飲み下したという妙な達成感と副作用のごとくどっと押し寄せる疲れに襲われながらこの日を終えた。

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