オマル・ハイヤーム『ルバーイヤート』に見る、詩の国ペルシャの無常観
オマル・ハイヤーム『ルバーイヤート』といえば、高校の世界史で名前を聞き知った程度でした。
本屋さんでこちらを衝動買いしましたが、重訳だったため、初めて読むには不安を感じ、あらためて探してみることにしました。結果、思いがけない良書に巡り会いました。
この記事では、その「良書」、下記の書籍に基づいてご紹介していきます。
とはいえ、きっかけともなり、繊細で美しい世界観を届けてくれた詩集版も、ご参考までにリンクを載せておきますね。(記事の最後です。)
詩そのものを味わうなら岡田恵美子版、イラストを愛でるならロナルド・バルフォア版、といったところでしょうか。
🌷 オマル・ハイヤームについて
オマル・ハイヤーム(1048-1131)は、ペルシャ・現在のイラン北東部の都市ニーシャプールに生まれました。若くしてサマルカンドに赴き大法官の庇護を受けたり、ブハラの地方王朝に仕えるなどしたあと、生まれ故郷で静穏な生活を送り、他界しました。
現代で言うところの科学者で、高次方程式に関する論文、天文表の作成に携わりました。そして、数多くの四行詩を記し、それによって後世に名を残しています。
「詩の国」と呼びたいほど詩が愛好され、詩の朗読会で聴衆が熱狂するというイランでは、10世紀頃より長大で情熱的な叙事詩もたくさん生まれました。そんな中でも、唯物論に基づいた簡潔な(日本の短歌をふたつくっつけたような)四行詩をものしたというのは、サイエンティストらしいな、と私などは思います。
🌷 岡田恵美子版について
本書は、私たちにはややなじみの薄いイラン人の心性も交えて、(ゾロアスター教の世界観の上にイスラム教が乗っかっている)オマル・ハイヤームの詩的宇宙を端的に伝えてくれる、大変な良書です。
簡潔な言葉で記された100の詩篇(抜粋)を順にたどっていくうちに、日本の《諸行無常》とも異なる儚さの感覚が伝わってきます。
また、各章のはじめに載せられた、岡田恵美子さんの実体験に基づくイラン随想は秀逸。ルバーイヤートという思索の庵を土台として支える大地や風土を感じ取りながら、終章までゆったりと、貴重な旅をしたかのようでした。
国土の1/4が砂漠というお国柄ゆえか、砂漠に癒しと神を感じるというイラン人。
彼らの無常観は、砂塵を散らす風のように、良い意味でどこかドライです。
運命を定める「神」と、それをずらし歪めて、人間の生殺与奪をはたらくのは「天輪」。
バラは「神」、枝で囀る鶯は神を求める「求道者」。
チューリップとは美人の形容。
人間が死ぬと肉体が土となり、砂となることから、彼らにとって、たとえば陶器のカップは、伝説の王ジャムシードの寵姫が形を変えて目の前に現れたもの──。
シェヘラザードを生んだペルシャに伝わる不思議な人生観。虚無に陥らないぎりぎりの無常観。死後に裁かれず、"無"になることを救いとする、むしろポジティブな諦観。
ストレスが溜まったので、日本の詩人の墓に詣でたい──ハイクでもいい、と、ペルシャ文学研究者である岡田さんにコンタクトを取ってきたイラン人の出稼ぎ労働者たち。鏡餅を見て「あれは宇宙か?」「日本の天地創造か? それとも混沌か?」と問いかける哲学者。
その、奇想天外ともいえる異文化体験を、ぜひお楽しみください(◔‿◔)
🌷 「ルバーイヤート」からの抜粋
🌷 【参考】フィッツジェラルド訳もひとつ
So when at last the Angel of the drink
Of Darkness finds you by the river-brink,
And, proffering his Cup, invites your Soul
Forth to your Lips to quaff it - do not shrink.
(42ページ)
(英語を訳すと、フランス語とは別の意味で緊張します…💓)
なお、フィッツジェラルド訳がヨーロッパにおいて果たした役割については、このように位置づけられています。
🌷 ペルシャ語による朗読(YouTube)
🌷 書籍ご紹介
(※)なお、記事に書いた本筋とは異なる「余談」をコメント欄に書きましたので、もしまだ「お腹いっぱい」でなければ、デザートにどうぞ(^^)