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最近読んだ本③

豆の上で眠る / 湊かなえ

失踪した姉が帰ってきた。その人は、姉じゃないかもしれない。
帰ってきた姉の発言や記憶に相違はないのに、会話の節々に感じる違和感が不安を煽る。狭い町で起きた事件により歪んだ家族の形。決定的な悪者がいない(わけでもないけど)からこそ行き場のないやるせなさが苦しい。愛する家族を疑い続け、やっと辿り着いた真相を前にしても、晴れない心が意味するのは、絶望か、諦めか、疑問か、憎悪か。
本物って何?家族って何?家族の、人間の本質を問われる作品。


麦の海に沈む果実 / 恩田陸

俗世から離れた場所にひっそりと、それでいてどっしりと佇む学園に、季節外れの転校生。ページを捲る度、薄紫色のもの悲しい冷たい風を頬に感じそうな、不思議な世界観に迷い込んでいく。何が現実で何が夢、何が記憶か。そしてその記憶だと思っているものは正しいのか。異様な雰囲気の学校で次々と起こる事件に、他人が、自分が信じられなくなっていく。
魔法やら呪いやら、オカルト感がありそうなのにどこにもないのがさらに異様さを引き立てる。小さく低い声で感嘆したくなる作品。


冷たい校舎の時は止まる / 辻村深月

改めて読み返し。わかっていても泣ける。詳細はこちらで。


光のとこにいてね / 一穂ミチ

生きる世界が全く違う2人の少女が出会った時、希望が生まれた。
週に一回30分、同じ時を共有した2人に芽生えた友情は、抗えない力で唐突に引き裂かれては、様々な巡り合わせでまた交わっていく。出会って別れる度に胸の奥に仕舞い込んだ小さくて大きなそれは、紛れもない愛。性愛か友情かは正直どうでもいい。これが恋愛小説のジャンルに属することは、読み終わってから知ったくらいだ。2人の人生がまた交わるのか離れるのか、どちらにも取れるラストがいじらしいが、どちらだとしても幸せな、光に溢れた未来を願わずにはいられない。どうしようもない状況にも、誰かを思う優しさがあった。これからもそうであってほしい。
苦しく切なくも暖かい読後感の余韻が続く、出会えて良かったと思えた作品だった。


私の命はあなたの命より軽い / 近藤史恵

里帰り出産のため実家に帰ると、家族の様子がどこかおかしい。少しずつ紐解いていくと、実家を出た自分だけが知らなかった、家族に起こった事件の真相があまりにも辛いものだった。
タイトルからして重めなんだろうなと思ってはいたけど、重いだけでなく深い。捨てられる命と祝福される命。タイミングが少しずれただけで生じる命の重さ。その差は一体なんなのか。
家族という色眼鏡は、事の本質を不透明にする。眼鏡がかかっているからよく見えないし、見たくないから眼鏡をかける。家族愛は、替えのきかない血縁関係は、時に呪いになる。威厳ある父も、優しい母も、可愛い妹も、所詮は他人で人間なのだ。ハッピーエンドかと思いきや、さりげなく不穏な影を落とすラスト、今後この家族の行く末はいかに。

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