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2018年8月の記事一覧
本日の三題噺 「車が友達に突っ込んだ」「握って」「肉じゃがが辛い」
中学に入学する前から仲のよかった友達がいた。部活はその子と一緒に家庭科部を選んだ。
私は縫い物があまり好きじゃない。友達も同じだ。
でも、活動の基本は縫い物ばかり。いつしか慣れてうまくもなった。
文化祭で大きなテディベアに挑戦したりもした。部活動の時間だけでは足らず家に持ち帰り、寝る間も惜しんで仕上げる程に熱中した。友達も私と同じだった。朝の通学路で完成品を見せ合い、お互いの目元を見て笑う。
そん
再掲 三題噺「揺り籠 喋る鳥 大工」
本日、家の中には小気味のいいリズミカルな音が響いていた。板に釘を打ち付ける金槌の音だ。
かつて大工だった父の久方ぶりの仕事は鳥籠作りだ。
泣き出すんじゃないかと心配していた生まれたばかりの赤ん坊は、ゆらゆらと揺り籠に揺られながら機嫌がいい。
「オハヨ オハヨ」
揺り籠の縁を行ったり来たりしながら、中で揺られている赤子をあやしてくれているのが、先日迷い込んできた九官鳥だった。
赤子かキャッキャと声を
再掲 三題噺「手紙 石 投げる」
拝啓、寒い日が続きますね──
そんなありきたりな文頭でペンを走らせた手紙。
お世辞にもうまいと言えない文章と、つたない内容。
毎日、書こうとすればするほど、思いつく言葉が減っていく気がする。
電子メールが主流になったご時勢、手紙なんてアナログな交流は不便極まりないものだ。
一度相手の手に渡ると、読み返すことができないのだから。
出したメールを読み返したことなんてなかったけど。
そんなことを考える
再掲三題噺「カラス 砂糖 足」
一羽のカラスが地面に降り立った。
複数の白いものを見つけたからだ。それは一帯に広がるように散らばっている。
その真ん中に佇むように地面に足をつけ、白く転がる欠片の一つを、嘴で啄ばむ。
白く、四角い、甘いものを、カラスは拾った。甘いそれを砂糖という。
黒い翼を見せ付けるように大きく羽ばたかせて、高く高く声を上げる。
仲間を呼びたかった。
会いたい仲間を呼ぼうと思った。
呼びたいのは、会いたいのは、先
再掲 三題噺「文字 蝶 転ぶ」
転びました。
今日はもう何度目でしょう。
僕は花畑で遊んでいます。
蝶を追いかけて、遊んでいます。
綺麗な蝶を探しては、追いかけて走り回る。
そして、途方に暮れては、転ぶ。
ぐしゃり、と僕は握り潰しました。
目の前に広げた花畑という名の原稿用紙を。
文字という、言葉という蝶を、握り潰しました。
何度も同じ場所でつまづき、転んでしまう。
そんな自分に嫌気が差して、握り潰しました。
もう書けないでしょ
再掲 三題噺「薬 炭 下女」
ぱち、と暖炉の中で音がして、目を覚ます。
ちょうど部屋の扉が開いて下女が入ってくるところだった。
「お目覚めでしたか」
抑揚の無い声で彼女はそう言って、盆に乗せたスープと薬をベッドの脇の小さなテーブルに並べる。どうぞと促されるままにスープ皿と匙を手に取り口に運ぶ。
味はいつも通り。
おいしい、と感想と共に皿を返す。
入れ替わりに薬の小瓶と、水の入ったグラスを差し出される。
薬は錠剤で、溶けるのが早
再掲 三題噺「工場 刺 小さな」
トン、トン、トン
小刻みにリズムを取りながら、
トン、トン、トン
穴を空けて行く。
太い針のような刺を上から真っ直ぐに落としながら、
トン、トン、トン
と流れてくる生地に穴を空けて行く。
来る日も来る日も、時間の限り毎日その機械は動く。
ベルトコンベアから流れて来る生地に穴を空けるためだけに。
刺すために。
生地に空いた小さな穴には小さな理由がある。
そんなことを知る人も、こんな風に動き
再掲:三題噺 「髪飾り トンボ 王子」
御伽噺を読みました。
その物語には「王子様」と「お姫様」が出てきました。
私にはドレスもガラスの靴もありません。「お姫様」そんな言葉も似合いません。
魔法使いも魔女も現れることはないでしょう。
共通しているところがあるとすれば鼠がいることぐらいではないでしょうか。
一面に広がる田んぼと畑に囲まれて、ああ南瓜も林檎もたくさんあります。
馬車にもならないし、毒林檎にもならない。
夜は真っ暗で、パーティ