棚の本:暇なんかないわ 大切なことを考えるのに忙しくて
『ゲド戦記』などを書いたル=グウィンのエッセイです。
今回の一番の驚きは、『ゲド戦記』を書いたのが女性だったということ。
同書は、弟のお気に入りでしたが、これまで長い間、作者はトールキン※みたいな男性作家だと思っていました。
(こどもバイアス事典に同じような思い込みの例がありました。)。
ル=グウィン特集
本書を手に取ったのは、海外のエッセイってどんな感じなのだろう、という単純な興味からでした。
読了した今は、いつかル=グウィン特集の棚をやってみたいと思っています。それほど気に入ってしまいました。
本書に納められているのは81歳頃に始めたブログで書かれた随筆群です。「人生の終わり近くにいる、とてつもなく賢いひと」(訳者あとがき)が持つ、清々しい知性に満ちています。時代も国も年齢も違いますが、清少納言のような落ち着いた目線で物事が捉えられ、読む者に届けられます。
ファンタジーの物理法則と数学的秩序、ホメロス、文学賞といった幅広いテーマの合間に、飼い猫パード※に関する作品が散りばめられており、愛らしい特別な魅力を放っています。
一方で、「怒り」に関する記述も所々見られます。どれも驚くほど客観的で落ち着いた分析的記述ですが、注目したいのは、広い視野を持ち知的であること、年齢を重ねること、作家として数々の栄誉を得たことなどは、どれも作家の怒りを帳消しにはしなかったという点です。これにはある種の安堵を感じます(あなたもそうなんですね!という風な)。
怒りを原動力にする必要はないけれど、完全に手放す必要もまたないということでしょうか。
ル=グウィンのエッセイとしては、昨年末に『私と言葉たち』が刊行されています。
こちらも近々、読んでみたいと思います。
※『ロードオブザリング』の原作である『指輪物語』の著者。当初、トルーキンと書いていたことを告白します。同じような誤解はいくつかあり、カート・ヴォネガットは、その訃報に接するまで、カート・ヴォガネットだと信じていました。トールキンの場合は少々やっかいで、トールキンだと知っても、しばらくすると脳内でトルーキンに戻ります。
※パードは、タキシードを着て時々タイムスリップする室内猫。
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