見出し画像

1200冊以上読んできた僕が、転職する時に手に取った本|びす

大学生の頃から、「読書メーター」というアプリに読んだ本を記録し続けています。小説を中心に気ままに読み散らかしてきて、気付けば1200冊を超えていました。

本は、心の支えであり、起爆剤だと思っています。転職を決意した当時も、「多少なりとも自分の考え方を変える必要があるだろう」と思って、職務経歴書を書いたり、選考を受けたりしながら、さまざまな本を読んでいました。

そんな自分が転職してから、1年近くがたちました。当時の記憶は少しずつ薄れつつあります。振り返りも兼ねて、特に印象に残った3冊をここに紹介しようと思います。


▽転職を決意させた「タタール人の砂漠」

傑作だと思いました。この本を読んで、僕は「転職をしよう」と決断したくらいです。

戦場での華やかな活躍を期していた主人公は、辺境のとりでに配属されます。

こんな寂れた土地では、戦果など期待すべくもない。最初こそ「すぐに出て行ってやる!」と思うものの、だんだん居心地が良くなっていく。立ち去るタイミングは何度もあったのに、「今出て行ったら負けた気がするから」といった理由で、なぜかとどまる。

そうして何十年も辺境で過ごし、いざ戦いが起きた時には、すっかり老人になっていて…というお話です。割と長い小説なのですが、いちいち、「もうちょっと頑張ろう」「きっと良いことがある」と自分を納得させる過程が非常にリアルでした。

読みながら、主人公に対して「なにやってんだ!早く、もっと良い仕事場を探せ!」と思うのです。思うのですが、その気持ちはそのまま、自分の心に跳ね返ってくるんですよね。

当時、読み終えた直後に書いた感想がありました。せっかくなので引用します。

勤勉と無為は似ている。自分がする仕事の意義を誰かに任せて、ただ忠実に……。(中略)
 若い主人公が、環境に慣れていく様子がおそろしい。異動を望むのは、自らダメな奴だと認めることではないのか?――見栄を張るうちに数か月が数年になる。出世をし、居心地は良くなっていく。
 30歳で「まだ若い」と思っている自分の心根を見透かされた気がした。勤勉に仕掛けられた甘美な罠だ。

当時の感想

まさしく人生を変えた小説でした。

▽不安を払拭した「嫌われる勇気」

有名な自己啓発本です。普段読書とは縁のない人でも、比較的読みやすいと思います。

これは僕の感覚ですが、小説はゆっくりかみ砕いて、解釈して、やがて自分に少し変化をもたらしてくれる。いわば、遅効性の読書です。一方、自己啓発本はダイレクトに自分の知りたい考え方を取り入れられる。良くも悪くも、手っ取り早い。

そう考えると、当時は精神的に若干参っていたのかもしれませんね…。家の本棚に置いてあるのを見た知人から「なに、嫌われたいの?」と言われてしまったのですが、別にそういうわけじゃありません。

この本を読んで良かったポイントは、会社を辞める時に抱えている、「自分がどう見られているか」という不安をかなり払拭できたことでした。

「他人がどう思うか」は、自分がコントロールできない(してはいけない)領域であること。自分は、誰かの期待を満たすために生きているわけではない。周囲の期待に応え続けて「さあ見返りをください」という生き方をしている限り、決して自由には生きられない。

「嫌われる勇気を持とう」とまではいかなくても、「礼儀を尽くして責任を全うして会社を辞めれば、あとは誰にどう思われても関係ないな」というところまで考えが整理できました。

人生のターニングポイントにいて、「今すぐ」心の支えが必要な人には、価値のある本だと思います。「そんなこと、言われなくても分かってるよ」という人もいるかもしれませんが、それはそれで幸せなこと。真っすぐわが道を突き進んでいくのが良いと思います。

▽脱藩のシーンにしびれた「竜馬がゆく」

司馬遼太郎さんのファンなんです。大学時代に司馬さんの小説はほとんど読みました。

特に夢中になったのは、土方歳三が主人公の「燃えよ剣」。司馬作品にのめり込むきっかけになった小説で、社会人になってからも5回くらい読み直しました。己の実力一本で身を立て、五稜郭での最期まで「喧嘩屋」として人生を全うした姿がものすごく格好良かった。

戊辰戦争の際、新政府軍に対して毅然きぜんと立ち向かった河井継之助(長岡藩)を取り上げた「峠」も好きでした。力を尽くして戦い、自らの存在を世に問い、爪痕を残し、潔く死ぬ。学生時代は、そんな「滅びの美学」みたいなものにひかれていたのだと思います。

対して、ここで挙げた「竜馬がゆく」。坂本竜馬を中心に、伊藤博文や大久保利通、西郷隆盛などの偉人が生き生きと動きまわる様子に胸が躍りましたが、学生時代に一度読んだきりでした。

転職活動をしていた時に、その「竜馬がゆく」を再読したいと思った大きな理由は、坂本竜馬の脱藩シーンを読みたかったからです。

時流をつぶさに観察してきた竜馬は、「日本のために」と、重罪であることを承知の上で、土佐藩に見切りをつけて脱藩します。現代の「会社を辞める」よりも、ずっと大きな決断だったはずです。それを追いかけたくて、読み進めました。

大長編の中盤に、その箇所がありました。誰にも知られず、竜馬はこっそり藩を抜けるのですが、その時に先祖の墓参りをする描写があります。不義理を働いているという意識もあったでしょうが、作中の竜馬は「どうか自分に大仕事をさせてほしい」と願をかけました。

深夜の住宅街で取材相手を待ちながら、僕はこの場面に目を通しました。読み終えて顔を上げると、遠くにオフィス街があって、きらきら光っていました。

「転職するからには、世の中を変えるような仕事に身を投じたい」。そんな火が、心にともったのを覚えています。

▽終わりに

強く影響を受けた本はほかにもたくさんありますが、「転職活動期間」に限って言えば、僕は上に挙げた3冊に助けられました。そう、文字通り、「助けられたな」と思っています。

人生の決断について、相談するのはとても難しいと思います。一人ひとり、考えも境遇も違う。でも、本は、自分が知りたいことを、こちらのペースに合わせて教えてくれる。期待外れなこともありますが、それでもアドバイスを取り入れるかどうかや、解釈はこちらに委ねてくれる。

この記録が、役に立てたら幸いです。そしてオススメの本があれば、ぜひ教えてください。「読書の秋」が、皆さんの内面にとっても実り多いものになるとうれしいです。


普段執筆している転職体験談も、読み物としての面白さを追求しています。