ゴーヤーとミョウガで夏が終わる
母の実家は農家なので、季節の野菜が山程収穫できる。
叔母と従兄が2人で暮らしていて、この2人の食が非常に細いので、食材のほとんどは彼らの口に入ることはない。
大抵の場合、冷凍できるものはジッパー付きの袋に入れて巨大冷凍庫にどんどんどん、と積み重ねられていく。
毎日毎日収穫される野菜がピークを迎えると、私か母のスマホが鳴る。
「野菜が沢山あるから、取りに来て!」
我が家から母の実家までは車で約40分。
すぐに来て、と言われても、車を運転する父や弟の仕事が休みの時じゃないと行けないのだ。
父は夜勤、弟も変則的な時間で働いているから、なかなか難しい。
ようやく休みになって訪れると、大袈裟でも何でもなく、台所のテーブルの上に山のように野菜が乗っている。野菜だけでなく、貰い物などのお菓子やフルーツ、乾物、ジップロックの袋、いらないものが全部集められたのでは? というくらいに様々なものが並んでいる。
「ほかにも何かあったかも。えーと、何か何か」
叔母がそんなことを言いながら家中の戸棚や引き出しを開ける。
……そこまでして何でもかんでもよこさなくてもいいんやで……
ありがたいから全部もらっていくけれどさ。
夏はとにかく野菜が多い。
キュウリもナスも、大きなビニル袋にぎっしり。本数にして50本以上になることもある。
ササゲやインゲン、オクラは100本を超え、モロヘイヤ、大葉も大量。
いっそ店で売れ、というくらいの量。
大きながぼちゃがごろごろ2つ。
甘長唐辛子なんて、売っていても買おうと思ったことがないけれど、それも1袋。
プチトマトは300個以上。
トマトに関しては、冷凍しておいて、と私が言ったから、収穫する端から全部冷凍されていく。これはトマトソースやミートソースになるのでありがたい。
冷凍されたプチトマトは、半解凍くらいでそのまま食べると、甘くてシャーベットみたいでおいしい。アイス代わりに毎日食べている。
私の大好きなミョウガは、100個くらい。
そしてゴーヤー。
冷凍ゴーヤーが30本ほど。
生のゴーヤーも20本ほど。
……叔母よ、ウチは4人家族なのだが、こんなに大量の野菜をどうしろと……?
「あんたなら無駄なく全部使って食べてくれるでしょ!」
とっても過大な評価をありがとう。
食べるけど。
食べるけどね!
そう、私は食べ物を捨てられない人間。
買ったものも、いただいたものも、全部きれいに料理して、全部きれいに食べるのをモットーとしている。
母の実家から帰ると、大きなエコバッグ3~4つ分の野菜(と、それ以外も色々)の荷物になる。
それを並べたら、マンションの狭いキッチンは、私一人が動き回るのすら窮屈なくらいになってしまう。
さて、始めよう。
冷凍ものは、入る限り無理矢理と冷凍庫に詰め込む。もちろん、普段から節約の鬼で特売品を冷凍している私なので、そんなに余裕はない。それでも、なんとか詰め込む。
キュウリとナスはある程度の量を残して漬物に。浅漬けや三五八漬け、塩もみなんかも。
ゆでられるものはゆでて、切ったり刻んだり。
炒めたり焼いた煮たりした野菜だけの食卓になるけれど、これがまた新鮮だからすこぶるおいしい。
私はミョウガとゴーヤーが大好きだ。
ミョウガはそのまま延々かじっていたいと思うくらいに。
お気に入りは、千切りにして冷ややっこに乗せて食べること。豆腐よりミョウガが多いんじゃないの、と毎度家族にツッコまれながら、豆腐をミョウガで食べるというよりも、ミョウガを豆腐で食べている。
ゴーヤーはシンプルに塩炒めして食べるのが好き。
豚肉と炒めるとさらにおいしい。
家族は苦すぎるのが苦手だから、卵を絡めたゴーヤーチャンプルーの方が評判がいい。
生のゴーヤーが残っているうちは、ひたすら炒めて食べる。
天ぷらや、肉詰め、肉みそあんかけなんかにするのもいいし、カレーに放り込んだりもするけれど、シンプルに炒めるのが一番好き。
冷凍されたゴーヤーは、解凍するとしんなりしているから、こちらは炒めるのよりも和え物に使う。
生の場合はスライスして塩もみする、というひと手間があるが、冷凍ならばスライスして水気を絞るだけだ。
おかか和え、ナムル、梅肉和え、大葉和え、ツナ和え、適当に何か混ぜればいいんだよ、混ぜれば。
そんな私がこの夏一番作ったものは、大好きなミョウガと大好きなゴーヤーの和え物だ。
作り方はとってもシンプル。
スライス冷凍ゴーヤーと、千切りのミョウガを混ぜ、めんつゆ少しと醤油で和えるだけ。
大葉があったら大葉の千切りを加えると、大好きが一つ増えて大好き×3になってとってもハッピー。
小鉢に盛って削り節をかけて食べると、お口の中が苦々と幸せになる(苦々と幸せ、って日本語はあるのか?)
オシャレっぽくガラスの小鉢に盛ってみたりするけれど、本当ならボウルいっぱい食べたい。
食べ続けたい。
ゴーヤーはおいしい。
ミョウガはおいしい。
大葉はおいしい。
ついでに削り節も、醤油もおいしい。
これが不味いはずがない!
和えたステンレスのボウルを抱え込んでもきゅもきゅ食べていたら、家族に呆れた目で見られる。
君たちは、その美しく盛られたガラスの小鉢の方を食べればいいじゃない。
私のことは放っておいてください。
残った野菜を見つめながら、さて、あとは何を作ろうかな、と考える。
叔母からの電話が減ってくると、夏の終わりを感じる。
考えている間、まるでスナック菓子みたいに半分に切って水にさらしておいたミョウガをかじる。
おいしい。
そのうち、ゴーヤーを丸かじりし始めるんじゃないだろうかと不安になっている。
ビジュアル的にかわいくないから、それは止めといた方がいいな、私よ。
了
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