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映画「SHE SAID その名を暴け」

ニューヨーク・タイムズ紙の女性記者2人が、ハリウッドの大物プロデューサーの性的暴行を追求し、記事を公開するまでを綴った回顧録"She Said"が原作。Megan Twohey とJody Kantor はこの調査報道でピューリッツァー賞を受賞。

ウォーターゲイト事件の真相を追求して、ニクソン大統領を辞任に追い込んだ、ワシントン・ポストのニ人の記者を描いた、1976年制作「大統領の陰謀」"All the President's Men" が思い起こされる。

アメリカの新聞が、政界や業界の大物の悪に切り込んで、権力によるさまざまな妨害を受けながら、証拠や証言を根気良く集めて追い詰めてゆく(実話に基づく)物語は、胸のすく思いがする。

過去に何度も性的暴行で訴追されながら、うやむやにされ、噂だけが囁かれていた、ハーヴェイ・ワインスタイン。

「グッド・ウィル・ハンティング」、「英国王のスピーチ」、「恋に落ちたシェイクスピア」など、多くの話題作を手がけ、"神"とも呼ばれた大物プロデューサーである。政界やメディアに強大な影響力を持っていた。

被害に遭った可能性のある一人一人にコンタクトを取るが、ほぼ全員から、話すことも会うことも拒否される。「あなたに起きたことは変えられないけれど、これから起きることをあなたの証言で防ぐことは出来る」誠意を持って説得を続ける。

やがて、証言に応じる被害者が少しずつ出てきた。ミラマックス社の元スタッフで、ロンドン在住のローラは、乳癌の手術を前に、実名での証言を決意する。

映画で自身を演じることを申し出、証言する女優もいる。

カメラはテンポ良く、淡々と、記者たちの調査、被害者の葛藤を追って行く。ワインスタイン側の関係者とコンタクトを取り、粘り強い説得を重ね、ついに確実な証拠となる資料の提供を受けることも出来た。

これだけ夥しい数の女優や自社のスタッフに、癒し難いトラウマを与え、前途有望なキャリアを潰したモンスターは、画面上ではほんのわずかしか姿を見せない。

映画の視座は終始、被害者の側にあり、彼女たちに寄り添い、隠蔽された悪を暴こうとする記者や編集局の動きにフォーカスする。

問題はひとりワインスタインの犯行だけでなく、加害者を擁護する強大なシステムがあることが次第に明らかになる。

新聞社が調査を始めたことを知ったワインスタイン側は、あらゆる妨害、脅しをかけてくる。

終盤、NYタイムズにワインスタインが乗り込んできた場面でも、モンスターは後ろ姿で顔は見せない。恫喝の言葉(本人の声)を発する彼をじっと見るMegan の目が、この長くハリウッドに君臨してきた男への彼女たちの態度を見事に表している。

世界的な"Me Too" を引き起こすことになる、これらの告発で、ワインスタインはニューヨーク市警に逮捕され、自分が創立した映画制作配給会社を解雇され、23年の刑を受け服役中(再審を上告)だが、その後ロスアンゼルスでも新たに3件の告発が加わり、最高24年が追加される可能性があるという。

ロスで証言したある被害女性の言葉 :

「ワインスタインは2013年のあの夜、私の一部を永遠に破壊した。決して取り戻すことは出来ない。刑事裁判は残酷なものだった。ワインスタインの弁護士は証言で私を地獄に突き落とした。それでもやり遂げなければならないと思い、そうした。」

日本でも映画人やジャーナリストの告発が続いたが、被害者が理不尽にも責められ、誹謗中傷を受ける状況をも見てきた。これもまた、この世界に存在する、加害側を擁護する広義の"システム" だろう。

まだ係争が続き、全容が明らかにされていないワインスタインの事件を、被害者側の視座に絞って、いち早く映像化し、世に出したのは、業界に蔓延る、性的搾取を容認する強固なシステムに風穴を開けて、更なる被害を食い止めなければという、映画人達の強い怒りがあったかと思われる。

記者達を励ますNYタイムズの編集局次長を演ずるのは
ヘレン・ミレン似のPatricia Clarkson
アフリカ系編集長A.Braugherは外の圧力から記者を守る
マリア・シュナイダー監督は俳優でもある
なんと凛々しい✨

ハリウッドとのしがらみを全く持たないドイツ人の監督は、この事件をワインスタインだけの、映画界だけの問題とは考えていない。

世界の何処にでも起こりうる…男性支配の世界で、女性として生まれ、育ち、仕事をすることがどんなことか。何処にいようと、女性であれば、同様の脅威に直面し得る。

オファーを受け、脚本を開いた瞬間にテーマがあった、と監督は語る。

証言する被害者達、二人の記者、NYタイムズの編集局次長、脚本、監督、スタッフ…と、関わる多くを女性が担うのは必然である。

また、説得を受け記者に資料を提供した、(かつて被害女性への示談金を手配した)ワインスタイン・カンパニーの元財務担当者の男性、守秘義務があると言い渋りながらも、示談に応じた被害者の概数を渋々認める弁護士…等、関わった男性達の良心にも目配りしている。

共に子供を持つworking mother の記者のプライベート…産後鬱や夫の協力、娘達への想いなど丁寧に描いていることは、「大統領の陰謀」と大きく異なる。仕事の姿しかなかったダスティン・ホフマンとロバート・レッドフォードの時代から半世紀、隔世の感がある。

おぞましい場面を映像にしなかったことについて、「世界にこれ以上レイプや暴力シーンの映像を増やすことは考えていなかった」と監督は語る。証言と、ホテルの廊下や室内の映像、そして記者がやって来た時の表情で、十二分に伝わってくる。

映画は、編集局次長が朝まで一人で最終チェックしたPC上の記事を皆で確認し、デスクトップの[リリース]をクリックしたところで画面が暗転。その後世界に波及した"Me Too" の動きや、ワインスタインの判決が短くクレジットされる。

何を語りたかったかがシンプルに伝わる、秀逸なエンディングである。

             📖

記者のひとりMegan Twohey は、原作の謝辞をこう結んでいる。

「わたしたちの娘たち、そうして皆さんのお嬢さんたちへ。
あなた方が職場やそのほかの場で、必ずや敬意を払われますように。」

             🥤🍿

映画館一人占めというレア体験をした😅この回だけ何故か、ドリンク付3000円のGran Theaterなのは、行って初めて知る。出直すのもナンだし、リクライニングの椅子も一度体験してみるかと、チケットを買った。

誰も入ってこないので、マスクを外し、椅子を調節してドリンクを啜る…とても快適❣️お高い料金だったけれど、観ごたえある映画だったのに救われた。映画館の経営は少し心配。

シアタス調布   1.  19


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