『どくヤン!』第1話「どくヤン」振り返り
令和最初にしておそらく最後の読書×ヤンキーギャグマンガ『どくヤン!』の各話振り返りテキスト第一弾。「そもそもどういうマンガ?」というあなたは下記をご一読ください!
第1話、第2話、第3話はコミックDAYSで常時無料公開中です。スマートフォンアプリならチケット制で第18話まで無料でご覧いただけます!
血で血を洗うヤンキーでありながら……
物語は、舞台であるヤンキー高校「私立毘武輪凰高校」通称「ビブ高」の紹介から始まります。
ビブ高は大変なヤンキー高校である模様。釘バット、怖いですね。でも個人的に気になるのは一番左の彼。手に持っている何かの得物も気になりますが、一体何人を――それも立体的に積み重なる形で――倒したというのか。
そして、ビブ高のもう一つの特徴が……、
なんとなく右のコマの彼らの手付きを見ると、ガチャへの課金が“止まらねえ”ようにも見えますが、さにあらず。
彼らは、本をこよなく愛する「読書ヤンキー」でもあったのです。
ちなみに左下の住野よる『君の膵臓をたべたい』(双葉社刊。以下、本の著者名は敬称略とさせていただきます)を読んでいる彼は、
単行本第2巻の表紙に登場しています(講談社の公式ページではサムネイルの顔が切れるのでAmazonのページを貼っております)。「本の表紙で涙を流している人」と言うと、探せば結構あるのかもしれませんが、私がパッと思い浮かぶのはこの読書ヤンキーと、
音楽雑誌「ROCKIN'ON JAPAN」2001年4月号の浜崎あゆみさんくらいです。あゆか、どくヤンか。
主人公・野辺雷蔵、ビブ高に転入
ビブ高は、入学料も授業料もかからないという特殊な高校。ただし、その代わりにとにかく本を読むことが求められます。
この理事長、第1話の時点ではこのシルエットしか描かれていませんが、その名も「鬼積読独覇(おにつんどく・どくは)」。
一昔前には、どうしようもなくヤンチャな若者は相撲部屋に入門させられたものと聞いたことがありますが、お金がかからないとなると、家族も手を焼くような不良たちを通わせるにはうってつけなのか、ビブ高には近隣の高校も恐れおののくヤンキーたちが集っている模様。
しかし、お金をかけずに通える高校を必要とするのはヤンキーのいる家庭だけではありません。この学校に、そんな読書ヤンキー高校と知らずに入学してしまったのが、主人公(ないしは狂言回し)の「野辺雷蔵」。
ビブ高はリアル資“本”主義
野辺は見た目の通り、ヤンキーでもなければ読書を好む若者でもありません。そんな彼は、ビブ高の読書ヤンキーたちからすると、格好の獲物。
転入早々、“本”欠のヤンキーに絡まれてしまう野辺。
そう、読書上等のヤンキー高校において、本は通貨と同義。“本”本位制のリアル資“本”主義のビブ高では、恐怖の「ブッカツ」ことブックカツアゲが横行……!
そんな野辺の前に登場したのが、
インバネスに身を包む謎の男。
この男こそ、もう一人の主人公とも言える「獅翔雪太(ししょう・せつた)」。野辺を助けようとしたのかどうかはいざ知らず、ブッカツ現場に割って入った獅翔がこよなく愛する私小説をヤンキーたちがぞんざいに扱った結果、彼らは獅翔にぶっ飛ばされます。
私小説ヤンキー・獅翔雪太
この獅翔、いくら近隣校も恐れる不良と言っても、ちょっと聖闘士感すらある強烈すぎる攻撃でブッカツヤンキーを倒します。彼らがビビるだけあって、ちょっと特殊な読書ヤンキーである模様だがいきなりの吐血! 聞くと、病弱であったり、貧苦に喘いでいた作家も多い私小説を愛し、傾倒するあまりに自らも病弱になってしまったそう。
獅翔のような特殊能力を身につけるに至った読書ヤンキーが、「どくヤン」と言える存在のようです。
SF・歴史・探偵・官能
そのまま、野辺は獅翔のクラスに誘われます。そこにいたのは――
こんな面々。明らかに「読書ヤンキー」の括りに収まらない、謎の言葉としての「どくヤン」が相応しかろう男たち。
こんなやつら(+恐怖小説ヤンキー、ジュブナイルヤンキー、レシピ本ヤンキー)に囲まれた野辺は、読書家ではない自分は大変なことになるのではないかと恐れますが、かばんの中にあったある一冊の本で、クラスメイトに認められます。その本の正体については、ぜひ無料で読める本編にて! 野辺の楽しい(?)ビブ高ライフのはじまりはじまり。
そして単行本も第2巻まで発売中です!
第1話余談①
ここからは長い余談になります。
このテキストを書いている私・仲真は『どくヤン!』の「協力」をしており、現在のバージョンに至るまでの変遷を見ているのですが、こちらのテキストに記したように、かつての『どくヤン!』はバトルマンガでした。
実はそのときの設定は、野辺が在校生、獅翔が転入生! 獅翔が他のどくヤンよりも目立つ位置にあるのは、その頃のシナリオの影響も大きいと思います。ちなみにバトル版『どくヤン!』の第1話の柱は、獅翔とレシピ本ヤンキー「橙併次(だいだい・ぺいじ)」のバトルでした。これがまた、左近さんのギャグとカミムラさんのバトル描写のマリアージュが凄いことになっていて、実に楽しい。機会があればご覧いただきたいものです……。
こちらは旧版ネームの野辺。強くはないとはいえ、ビブ高でそれなりに凌いできている分、そこまでなよなよしていません。また第1話の野辺と旧野辺の可愛らしいデザインを比較すると、現野辺は戯画的になっている。ギャグメインに舵を切ったことで、ギャップを際立たせるマイナーチェンジが施されたことが分かります。
でも、話が続いて野辺がイキイキと動き出したことで、今現在の野辺の絵柄は、第1話から旧版野辺に少し近づいた感もありますね。そんな変化を見られるのもマンガ連載の面白さなのだとつくづく思います。
一方獅翔は、現バージョンよりも細くひ弱なデザイン。喘鳴……! あるバージョンではお年寄りが乗る電動カート「シニアカー」に乗り、絡んできたヤンキーを撥ね飛ばしたことも。
第1話余談②
初期の『どくヤン!』がバトルメインの話だったのは、どこまでカミムラさんと詰めて話したかは記憶にありませんが、個人的には現実的な考えもあってのことでした。
話的にはギャグを入れたほうが絶対に面白いという確信はありつつも、ギャグマンガの作話カロリーはとてつもなく高いという認識が私にはありました。凄いギャグが一つあっても、それだけで1話を終えることはおそらくできないような。ストーリー漫画が引き伸ばしだと言いたいわけではありませんが、「別の柱で1話の形はあって、そこにギャグがトッピングされる形がいいのでは?」という考えがあったように思います。
ただ、それはそれとして、ギャグ成分は入れたいとカミムラさんと一致していたので、共通の友人であったルノアール兄弟の原作担当である左近さんにお手伝いいただくことになりました。
その後、バトルマンガ版のネーム3話分の持ち込みをカミムラさんが何度かしてくださったものの、「面白いと思うけど売り方が分からない」と言われるなど(笑)、掲載には至らず。僭越ながら、今のようにウェブやアプリの場が広がっている状況なら話は違っていた気もします。
その後も、空白期間があったりしつつ、3人で飲みながら「この話面白いと思いますけどねえ」と話し合ったりと『どくヤン!』を完全に葬り去ることはしない時期が続きました。
プロのマンガ家の作話論などで言うと、そうやって日の目を見ないアイデアは捨ててしまったほうがいい――となりがちな気がします。また、実際にそのほうが基本的にはよいだろうとも素人ながら感じます。ただ、私はそのネームが本当に面白いと思っていたので、どうにも諦めきれないものがありました。2人は私に合わせてくれていただけかもしれませんが、絶対にどこかで連載できる気がしていたのです。
そんな折、私がたまたま誌面で見つけたモーニングの賞に条件が合致しており、投稿することに。すると、受賞には至らなかったものの、これをブラッシュアップしたいと手を上げてくれた担当編集・鈴木さんの意見で、現在の『どくヤン!』が誕生しました。
しかしまあ、先述したように予想はしていたけど、ギャグメインだと大変ですね。単行本作業などの影響でお休みをいただいたことは何回かありますが、他の連載も抱えながら、それ以外では毎回2週間に1回エピソードを完成させるお二人はモンスターのように見えます。
あと、そもそも私はまったく読書家とは言えない人間です。私から見ればカミムラさんなど立派なSF読みですが、三人とも自分のことは読書家だとは口が裂けても言えないと思っているのは間違いありません。そのため、『どくヤン!』を応援してくださる読者様のツイートを見ると本当に嬉しくなるのですが、常に「本物の読書家に怒られないか、底の浅さを見透かされないか」という恐れを抱きつつやっているので、特に書店関係者様や作家・小説家の方々などにご覧いただくと、どう思われるものかと同時に怖くなったりもします。それなのに、真面目な本の話ならまだしも、ギャグをつくらなければいけないのですから、左近さんとカミムラさんのプレッシャーたるや大変なものがあるのだろうなと。
ただ、結果的にはこのバージョンの『どくヤン!』が読めて、一読者としては嬉しい思いが強いです。鈴木さんの提案に感謝しています。
そう、ギャグと言えば、この第1話のオチの本のチョイス凄いですよね……。ビブ高に転入するのが野辺になったことで、どうやってクラスに馴染ませればいいのか、結構みんなで話し合った気がするのですが、どんなタイミングでこれが出てきたのか思い出せない。とにかく、さすが左近さん。本が面白すぎて、野辺の父親の職場の話とか、冷静に考えればツッコミどころな気もするけど、(少なくとも私は)どうでもよくなってしまいます。ちなみに、本編には登場していないけど結構ちゃんと考えている設定はいくつかあるものの(とはいえギャグ優先でそれが不可侵のものとは思っていませんが)、野辺の父親の職業については特に話していない(笑)。「○○○○」の店員さんでいいのかなあ。
ただ、旧バーションも私は本当に大好きで、『どくヤン!』が売れたらスピンオフでやってもらえないかなと思っていたくらいなのですが(苦笑)、現バージョンがそんなことを言っていられる状況ではないので頑張らなければ……!
頑張らなければいけない理由その①
頑張らなければいけない理由その②
noteで新しく本作に出会ってくださる方が一人でも増えるように努めますので、引き続き夜露死苦!
note版「今週の一冊」その1
『ROCKIN'ON JAPAN』2001年4月号
この第1話については、書名そのものがオチのようなところがあるので伏せていますが(気になる方はこちらから。無料で読めます)、『どくヤン!』にはほぼ毎回「今週の一冊」という本の紹介コーナーがあります。
それに合わせて、noteの振り返りでも、今週の一冊をやってみることにしました。本編で登場する本について取り上げるべきなのかもしれませんが、今回はこの雑誌ということで。
『ROCKIN'ON JAPAN』(以下『JAPAN』と表記)は日本の音楽雑誌。音楽評論家の渋谷陽一が個人事業として1972年に創刊した『rockin'on』の日本版として1986年に創刊。「2万字インタビュー」などの企画で知られる。
1982年に株式会社化し、ロック評論において独自の立ち位置を確立していたロッキング・オン社の刊行物に――100万人単位のリスナーの心をロックしつつも、音楽としてはJ-POPシーンで天下を取っていた――浜崎あゆみが登場したことは、「その起用自体がロックじゃなくね?」といった反対意見はもちろん、「この時代においては浜崎あゆみこそロックと言えるのでは?」といった賛成・擁護まで、それなりに物議をかもした。
とはいえ、現在は「ロック・イン・ジャパン・フェスティバル」や「カウントダウン・ジャパン」といったイベント事業が(少なくとも収益的には)主役となっているだろう同社のフェスティバルに、ゴールデンボンバーやモーニング娘。といったアクトが出演し、おそらくオーディエンスからの支持も多いに集めているだろうことを想像すると、このような出来事はどこかで必ず起こっていたような気もしないでもない&いつかやるなら、2001年4月の浜崎あゆみ、というのは非常にアリなチョイスだったのかも……と個人的には思ったりもします。2010年代から現在にかけて、『JAPAN』にPerfumeやBiSHが登場している現象の源流が、浜崎あゆみにあったりするのではないでしょうか。
ちなみに、数年前にあるサッカー雑誌でエアインタビュー問題(海外クラブの人物のインタビュー記事が、実際に話を聞いたものではないのでは? という疑惑)がありましたが、初期の『rockin'on』には「架空インタビュー」という名物記事がありました。実際にインタビューをした体で記事を載せるのではなく、堂々と架空であると銘打ち、自分の聞きたいことをぶつけ、自分の聞きたい答えを書くというパワフルすぎる企画です。「浜崎あゆみ本人2万字インタビュー」と「浜崎あゆみ架空2万字インタビュー」の同時掲載とか、そんな誌面がもしも可能なら私は見てみたいです。