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ショーン・マーティンを追悼するプレイリスト10。 Best works of Shaun Martin 

Shaun Martin(ショーン・マーティン)がこの8月に45歳の若さで亡くなった。Snarky Puppyの鍵盤奏者やプロデューサーとして活躍し、7度もグラミー賞を獲得した。ショーンを偲んで、知られざる彼の功績とベスト・プレイを紹介したい。


現存するグループにおいて自分が最も敬愛するグループと言っても差し支えないSnarky Puppy(スナーキー・パピー)
何と言っても、昨年の7月オランダNorth Sea Jazz Festivalまで、観に行ってしまったくらいだから。
しかし、そこにはあの身震いするようなTalk Boxを聴かせてくれるShaun Martin(ショーン・マーティン)の姿はなく、当時は長期療養中ということだった。
その彼がこの8月3日に45歳の若さで亡くなった。

Snarky Puppy
Shaun Martin(ショーン・マーティン)

ここでは追悼を兼ねて、彼のベストワーク&プレイを映像で紹介。
同時にプレイリストも作成してみた。

1.Sleeper

Snarky Puppyは知っていても、ショーン・マーティンの名前まで知る人は少ないだろう。
そんな人に是非観て欲しいのが、この超絶プレイだ。

2013年の10月にオランダでスタジオライブという形式で収録されたSnarky Puppyの『We Like It Here』からSleeper。
これぞショーンのベストプレイと言える、火を吹くようなTalk Boxのソロが満喫できる。Talk Boxトーキング・モジュレーターとも呼ばれるが、口にチューブを加えつつ演奏する。ロック界ではジョー・ウォルシュなんかが有名だが、現在ではショーンがNo. 1の使い手だろう。

Talk Boxの名手

Sleeperは既にYou Tubeでの再生回数は800万回を超え、Snarky Puppyの代表作でライブではラストやアンコールの定番。

この「We Like It Here」こそSnarky Puppyの存在を世に知らしめた、有観客ライブ・レコーディング(おまけにオーバーダブなし)の最高峰である。
つまり、スタジオのレコーディング(全て新曲)に観客を入れ、1発録りオーバーダブ一切なしでリリースするという試み。

そして映像はないが、2020年3月に発売されグラミー賞で最優秀コンテンポラリー・インストゥルメンタル・アルバムを受賞した「Live at the Royal Albert Hall」でのSleeperの音源も。
彼らの魅力は一つのジャンルの枠にこだわらない自由さ。基本はジャズフュージョンでありつつも、ある時はクリムゾンのようなプログレと化し、ある時はラテンアフリカのようなワールドミュージックとなる。
そこにショーンのようなゴスペル仕込みの本格的なブラックミュージックのテイストも振り掛けられる。

2.Skate U

さて、ここで彼の所属したSnarky Puppyの略歴についても紹介したい。
既に5度のグラミー獲得を誇るSnarky Puppyは、2003年ノース・テキサス大学の同窓生で結成され2005年にデビューした。
彼らの名前が世に知られるようになったのは2013年に初のグラミーを獲得し、翌年に前述の「We Like It Here」をリリースした辺りからだろう。それ以来、2022年の「Empire Central」までグラミーの獲得は5回と既に常連。
その実績とともに、グループというよりジャズ・コレクティブ(集団)と呼ばれる彼らの独自の運営形態も知られたところ。

現在所属メンバーは19名と大所帯。
ツアーには全員が参加せずに、常時流動的で9〜10人が選抜されて参加するので、観るたびにメンバーの組合せが違うという旨味で鮮度が保たれている。さらには自主レーベルGroundUPの運営。
また、メンバーに日本人がいるためグラミー獲得の度にニュースでも取り上げられて、存在は知られるようになった。

今年は9月に開催される「Blue Note JAZZ FESTIVAL in JAPAN」にも来日してくれる。

ショーン・マーティンがこのグループに参加したのが2010年の「Tell Your Friends」から。
Skate Uでは3:40の辺りからショーンのハモンド・オルガンよるソロが聴ける。

この「Tell Your Friends」から彼らの誇る有観客ライブ・レコーディングが始まった。
そのためにも大学の同窓生が集まった学生グループのSnarkyには、即興演奏にも熟練したプレーヤーであったショーンの存在が必要だったのだ。

今となってはTalk Boxの専門家のようだが、むしろ彼のルーツはゴスペル。 
故にハモンドオルガンは得意中の得意ではある。
ダラスフレンドシップ・ウエスト・バプテスト教会の元音楽牧師でもあった。

3.カーク・フランクリンとの仕事

そして、ショーンにはもう一つ、プロデューサーとしての顔がある。
2007年、ショーンはゴスペル界のスーパースターKirk Franklin(カーク・フランクリン)の『Hero』のプロデューサーとして、グラミー賞最優秀コンテンポラリーR&Bゴスペルアルバム賞を受賞。

彼は常にフランクリンの作品ではキーボードを弾き、ステージの音楽監督でもあり、Snarky Puppyと二足の草鞋で活躍するのだ。
2017年には「Losing My Religion」において、フランクリンとの共同プロデュースで3度目のグラミー賞獲得。このアルバムはビルボード200で初登場10位となるヒット作でもある。

2019年には「Long Live Love」によりグラミー賞最優秀ゴスペルアルバム賞に選ばれ、フランクリンとの作品で4度目のグラミーをプロデューサーとして獲得した。
シングルLove Theoryも最優秀ゴスペルソング賞を受賞した。

フランクリンのTiny Deskから。ショーンの姿も見ることができる。

4.若き日のショーン・マーティン

ショーン・マーティンは1978年8月テキサス州ダラスで生まれた。
ダラスのブッカー・T・ワシントン高校に通い、その後ノーステキサス大学に進学した。ブッカー・T・ワシントン高校と言うと、エリカ・バドゥロイ・ハーグローヴが通っていたことで有名だが、ショーンはあのノラ・ジョーンズと同時期に在学していたようだ。
そしてノーステキサス大学在学中には、エリカ・バドゥの名作アルバム『Mama's Gun』の制作、作曲に貢献し、キーボードも弾いている。

ノーステキサス大学の後輩としては、6歳下にSnarky Puppyのリーダーでベーシストのマイケル・リーグがいる。数年後にはそのマイケルのグループに加入するのである。

MICHAEL LEAGUE(マイケル・リーグ)

4.Thing of Gold

ショーンは2012年のSnarkyの「groundUP 」にも引き続き参加。Thing of Gold では4分過ぎからMoogのソロが聴ける。この作品からは名手Cory HenryがSnarkyに参加。さらに日本人のパーカッションプレイヤーの小川慶太も参加している。

5.リアクションの名手

Snarkyはインストルメンタルグループなので皆寡黙だが、中では一際明るくライブの盛り上げ役だったのがショーン。
ライブビデオではその多彩な表情が被写体として撮影する側も喜ばせた。
中でも『We Like It Here』に収録され、Snarky Puppyの人気曲でもあるLingusにおける盟友Cory Henry(コリー・ヘンリー)のソロが素晴らし過ぎて、それを見た彼のリアクションは印象的で有名だ。

LingusをプレイするCory Henryを見守るShaun Martin

ショーンは同じチャーチ(教会)出身で後輩のコリーを可愛がっていて、ボーカリスト転身のためコリーがSnarkyを脱退した後も交流は続いていた。

何せその表情の変化を集めただけの映像が28万回の再生を誇る。

ショーンの追悼をするコリー。

6.Bet

そしてショーンがSnarky Puppyとして最後に録音に参加したのが『Empire Central』。2023年のグラミーの最優秀コンテンポラリー・インストゥルメンタル・アルバム賞を受賞している。
これの収録が2022年の3月で、まだ元気だったショーンのプレイが楽しめる。Betでの3:30辺りから始まるショーンの神がかり的なTalk Boxのソロは素晴らしく、プレイする表情や渾身の仕草にも注目したい。
収録は有観客ライブ・レコーディングで、彼らとショーンの原点の地でもあるダラスで行われた。19人ものメンバーが一糸乱れず、演奏する様を目に焼き付けたい。

Snarky Puppy

またショーンのTalk Boxが見ものとなっているTyny Deskコンサートの映像も貼っておこう。

さらには、マイケル・マクドナルドとの共演。I Keep Forgettingを彼のオルガンで見事にゴスペルライクに仕上げている。

7.ソロ作品

最後に彼のソロの作品をいくつか。2015年の初ソロアルバム「7Summers」から代表曲Yellow Jacket。Snarkyでは聴くことの出来ない彼のピアノプレイが堪能できる。

2020年の「Three-O」より。

またローズを使って演奏する企画ものの映像で、70'sポップクラシックをショーンが演奏するビデオ。
曲はJust the Two of Us〜Just the Way You Are

そして生前から企画されていたショーンの功績に敬意を示すために開催されるライブだが、追悼コンサートとなりそうだ。
ダラスにて9月14日に開催され、エリカ・バドゥノラ・ジョーンズなどのブッカー・T・ワシントン高校の同窓生やロバート・グラスパーSnarky Puppy、元Snarkyのコリー・ヘンリーなど豪華なゲストたちが出演する。

また、ショーンと彼の原点であるダラスと言う街については、柳樂光隆氏の以下の記事が理解を深めるのに役立つ。

R.I.P. Shaun Martin

最後に長文ではあるが、Snarky Puppyのバンド仲間であるJustin Stantonによる追悼文で締めくくりたい。

ショーンは大きな光でした。彼は私が尊敬するだけでなく、憧れるような生き方をしていました。非常に忠実で、楽しい時間を過ごす方法を知っていて(そして、他の人に伝説的な時間を演出する方法も知っていました。私にはそれを証明する傷があります(笑)。信じられないほど時間、お金、愛に寛大で、完璧なアーティスト、パフォーマー、エンターテイナーでした。
Snarky Puppyの「van days」(2009年頃)に、ショーンはどこかのツアーで、バンド全員をPappadeaux’sでご馳走してくれました。誰も200セントも持っていなかったからです。彼は何も言わず、ただ勘定を払っていました。彼は常にメンバーの面倒を見ていました。彼(特にスプートとボビー)は、アーティスト、プロデューサー、そしてあらゆる面で凄い人としてすでに世界的に有名な評判を獲得した後、Snarkyと一緒にツアーに出ました。当初、私たちと一緒にツアーに出ても得るものはありませんでした。ただ、彼らは自分が信じているものを見て、参加することで支援しようとしたのです。そのことには感謝してもしきれません。彼らは私たち全員の人生を変えてくれました。
ショーンは圧倒的なエネルギーを持っていて、簡単に注目の的になることができましたが、そのエネルギーを友人たちにも広げ、彼らに光を当てて、彼が導くことができる同じエネルギーを感じてもらうこともできました。輝いて人々を楽しませる能力は、彼が演奏したグループや、ステージで彼と並んで立つ特権を得たミュージシャンに間違いなく利益をもたらしましたが、時には彼のアーティストとしての奥深さを覆い隠すこともありました。彼は本当に何でもできる男で、その結果、彼の領域に入る文字通り誰にでもインスピレーションを与えることができました。
人々が彼について投稿しているすべての話は、彼の愛の能力の大きな証です。Visaの手紙、ソロプロジェクトを支援するテキストスレッド、ショーンが人々のために行った多くのこと、彼が決して公表しないようなこと。ショーンは私にとてつもなく大きな影響を与えました。私の人生に彼がいなければ、私は今のミュージシャンの半分にもなれなかったでしょう。ダラスのコミュニティにいる彼の家族と親しい友人たちに心からお見舞い申し上げます。今は感謝の気持ちを抱くのが本当に難しいですが、ショーンと過ごした時間には本当に感謝しています。

Justin Stanton Instagram

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