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コーチに求められる知識③「対自己知識」
今回は、コーチに求められる知識のうちの3つ目になる「対自己知識」について紹介いたします。
対自己知識はその名の通り自分自身に対する知識ですが、あまりピンとこないキーワードかもしれません。これは、自己認識や自身の学び、省察に関するものです。
今回は3つの話題を提供し、対自己知識を深める重要性を知っていただければ幸いです。
まず、こちらのリンク(YouTube)から動画をご視聴ください。
いかがだったでしょうか?
動画内では、バスケットボールのパスの回数を数えるように指示されますが、そのせいで動画の途中に登場するゴリラに気づかないという錯覚が起きたはずです。
今回「パス」という指示によって視野が狭まりました。これを教育の場面で考えるならば、日常の中では「知識」や「こだわり」があることによって、本来であれば気づける教育的瞬間にも気づけないことが生じている可能性があります。学ぶからこそ、見えてくる部分がある反面、見えなくなっている部分もあるのではないか?と問い続けることが重要です。
2点目の話題です。天気のいい日に緑豊かな公園に足を運べば、人間は「のどか」や「気持ちがいい」といった捉え方をするはずですが、その公園に飛んでいる昆虫はきっと、「餌はどこか?」や「いつ天敵に襲われるか?」といった緊迫した景色に見えているはずです。
これを生物学者のユクスキュルは「環世界」と表現しました。この人間と昆虫が、全く同じものを見ていても、どのように捉えるかが異なる状況が、指導者と選手の間にも生じている可能性があります。同じものを見ている(同じように感じている、同じ目線である)という前提で指導をしがちですが、常にその前提を疑い続ける必要があります。
「伝わらない」のは、この環世界のように、全く違う感覚で選手が捉えている可能性があり、この認識のズレを埋めることから始めなくてはなりません。
3つ目は、感情に関する理論をご紹介します。感情一致効果と呼ぶ心理学の知見です。これは簡単に言うならば、その時のその時点の自分の感情によって、記憶される情報が無意識のうちに変わってしまうということです。
その時点でポジティブな気分だった時は、相手の良い面を多く記憶しており、ネガティブな気分の時は悪い面ばかりを多く記憶していることが確認されています(Bower, 1981)。
全く同じ相手を見ていたとしても、気分によって記憶される印象が変わるということは、常に機嫌が悪い状況であれば、選手のダメなところばかりに目がいってしまい、要求ばかりになってしまったり、叱責ばかりしてしまう状況になるかもしれません。指導にむかう際には、自分自身の心理状況もメタ認知的に、把握しておくことが大事です。
このように、人は常に”偏った”ものの見方をしてしまっている可能性があり、自分自身の見え方や考え方の偏りやこだわりに気づく必要があります。正しく見えていると思いがちな自身の視点を常に疑いつつ、自身のこだわりや、どのように考えがちかを把握して指導していくことを心掛けていきましょう。
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