競馬は馬と人と、タヌキとモグラでできている〜岩川隆「馬券学入門」を読んだ。
馬キチ作家・岩川隆さんのエッセイ。
十二篇のエッセイが収められており、どれも面白い。
読んでいるうちに、競馬場に行きたくてたまらなくなった。
いちばん好きだったのが、
「胃潰瘍特等席」
というタイトルのエッセイで、胃潰瘍になった競馬友達と連れ立って競馬場に行く話。
胃潰瘍の友達、相当重症。
しかしこの友達、馬券は上手で、「え?こんなの押さえているの?」という馬券をとる。
この胃潰瘍の友達は、「シニのM」の異名をもち、死んだと思ったら、どっこい元気。馬券も、とてもとれないような馬券を、しぶとく押さえているという。
これに似たようなことは、私も経験がある。
「これは取れないよ・・」と天を見上げると、隣の同行者が、「あれ?」などと呟きながら懐をゴソゴソ、「あ、100円だけ押さえてた」・・というような。
また、著者とMさんのあいだで、こんな会話が。
府中のコースにタヌキが出るというのだ。
そして、メスのタヌキが、調教中の馬の蹄に蹴られて、死んでしまい、丁重に葬られたそうだ。
そして、モグラも出てくる。
コースを整備しても整備しても、モグラが出てきて、あちこち勝手に”穴”をあけてしまう。
本命・対抗がとんで馬券が荒れると、
「もぐら馬券め!」と舌打ちする。
ふたりの定位置は、直線コースの柵のそば。
そこにたたずみ、
ーー競馬は、馬と人間だけの世界ではない
と胸の中で思う。
Mさんが言う。
蝿とは言わないけど、1995年の有馬記念で、ジェニュインは風にやる気をなくしたというし、西日を嫌う馬もいる。
これらを予想のファクターとして考え出すととてもじゃないけど情報収集が間に合わないし、処理しきれないけど、要は競馬場で「そんな気がする」とのんびりと感じるのが、なんかいい。
きっと、胃潰瘍にもいいのだろう。。
このエッセイは、つづけて、直線でどのタイミングで叫ぶか、馬の名を叫ぶか、騎手の名を叫ぶか、著者の考えが記されている。
その部分も大変面白いが、引用がすでに多すぎるので、やめておく。
他にも、新潟競馬にまた別の友達と遠征する「夏旅のわらじ銭」、無人島に読み物を一冊持っていくなら競馬新聞はどうだろう、という問いから始まる「赤鉛筆、七日の心得」もすごく面白かった。
この本、1980年代に雑誌「優駿」に連載されたものをまとめたもののようで、競馬歴40年ぐらいの人には有名かも?
ただ、若い方はまったく知らないのでは?
Amazonでも古本で売っているので、おすすめです。
(1/29夜追記)
神保町の三省堂4F古書館に「馬券学入門」が入荷された模様・・。