柴崎竜人『三軒茶屋星座館』(講談社文庫)1~4の感想
三軒茶屋の雑居ビルにある「星座館」。そこは上階の床の抜けた天井の高さを生かしてプラネタリウムが見られるバーである。ろくに金を使わない常連客しか寄りつかないこの店のオーナー大坪和真のもとに、外国で学者をしている弟がとつぜん訪れる。「月子」という名前の娘を連れて。
各巻のタイトルは「冬のオリオン」「夏のキグナス」「春のカリスト」「秋のアンドロメダ」。星座が物語にリンクする。ただし題の美しい響きとはウラハラにそこで語られる物語がおもしろい。なぜか和真は星座のギリシア神話を語るときスイッチが入ったようにブロークンになるのだ。
和真が星座をブロークンに語る以外にもこの連作には約束がある。だれかの物語を「言っちゃいなよ」と聞くこと。月子が和真と弟の両方を「お父さん」と呼ぶこと。イヤでキケンな事件も起きる。それだからだろうか。「星座館」に集う人たちは普段の世界よりも言葉と互いの心を近づけている。
そして何より本作は「家族」の物語だ。彼らのお互いを思うこころの方途を知りたくて、1巻を読めば2巻を、2巻を読めば4巻まで一気に読み通したくなる。そんな感動のありかたを、代弁というかぎゅっとまとめてくれたようなオカマパブの「リリー」の言葉を引用して感想を終えよう。
「ほら、カズちゃんもはじめは『お父さん』て月子に呼ばれるの嫌がってたじゃない。ソーちゃんのことも追い出そうとしてたし。でもいろんな大変なことがあって、全員傷ついて、それでもいまちゃんと家族になっているでしょう? 私ね、家族ができていくところを、その生の瞬間を目撃した気分だったの。(略)」『三軒茶屋星座館3 春のカリスト』p65
追記:本作をシリーズ全部を読むと、「太陽」の描き方がとてもすぐれていると感じます。月子やここにいるものたちから離れてある「太陽」を物語に重厚さをあたえるやり方で描き、生きているものたちが家族としてある意味を倍加しています。シリーズのそこここに記されてきた記述が改めてかがやいてきます。ネタバレにならないように書いていますので、読了後にご確認いただければさいわいです<(_ _)>