#22.『競争力を高める電気系特許明細書の書き方 改訂版』
今日は初の試みです。自分が読んだ知財関連の書籍を紹介する記事を書きたいと思います。第1回目の今回は、特許業務法人 志賀国際特許事務所 知財実務シリーズ出版委員会編の『競争力を高める電気系特許明細書の書き方 改訂版』になります。初版は平成28年12月20日、私が購入したのは令和2年12月10日の第2版になります。
1.実務初心者から中級者向け
概論を含めて全5章の構成ですが、前半は明細書を書いたことがない人、明細書を書いた経験が少ない人を対象とした内容になっています。電気系の明細書を書くうえで必ず書かなくてはいけないことがきっちりと書かれています。ただしクレームのドラフトに関する記載は薄めですので、あくまで充実した"明細書"を書くために必要なことが書かれていると考えた方がいいです。
19人もの執筆者がオムニバス形式で、それぞれ文章を書いており、いい意味で完全に統一された内容になっていないのが面白いです。これが1人の執筆者だと、その人の書き方以外は認めないような書籍に読めたことでしょう。第2版は、AI関連の第5章が追加された点が初版とは異なるようです。
2.興味深かった第4章「外国特許実務を意識した日本語明細書等の作成方法」
本の中身について詳しく言及してしまうと、これから購入する人の邪魔になってしまうので、あまり詳しくは言及しないようにしたいのですが、少しだけ言及させてください。私が一番勉強になったのは第4章の「外国特許実務を意識した日本語明細書等の作成方法」です。
この章では英語で2国出願する明細書を意識して、日本語の出願原稿を作りましょうということが書かれています。日本人は読み手の責任が大きいが、英米人は書き手の責任が大きいなど、特許を超えた言語の性質から説明が始まっていて、具体的に単語の解釈の説明が記載されています。(このようなことは翻訳者向けの本や、米国出願特許関連の書籍でもよくあります。おすすめの2冊のリンクを張っておきます)
今回の本が特に勉強になったと思ったのは、具体例がいくつか書かれており、それが自分もよく使う言葉だったことが理由です。
たとえば、日本語で「Aに基づいて」と書くと、英訳時には8パターンの候補があるという話がありました。A以外のものを含むのか含まないのか、Aの全部なのか一部なのか、Aから導出したBを含むのか含まないのか、等々。その8パターンのうち、どこまでを射程とするかによって日本語出願明細書に記載する内容・量が変わってくるというものです。
また、日本語で「接触する」を「contact」と訳した場合に、indirectlyにcontactされているものも含まれると解釈される、という話もありました。これは私が数か月前にUSのOAで実際に審査官から指摘されたもので、そのときは「何言ってんだろ?この審査官は」と思っていたのですが、自分が無知であったことがわかりました。
よく「サポートをしっかり」とは口酸っぱく言われますが、自分が書いている明細書が、一語一語このような考えをもってサポートとなる文章を書けているかというとそうでないなぁと。。。明細書は単に長ければいいというわけではありませんが、こういうことをきっちりと書いていくことにより厚く強い明細書が書けるようになるんだろうなぁと思いました。
この第4章の内容は、実務初心者ではなく、1人で明細書を書けるようになったり、外国出願を担当し始めたりすることがあるような段階の人向けの内容に感じました。
3.一企業知財部員の感想
私は開発から知財に異動して5年目になります。
私が所属する企業では内製明細書を作成することがありますが、OJT→数をとにかく経験する、というスタイルで各人がスキルアップを図っています。そして、その指導者や直属の上司好みの出願明細書になっていく、と言われています。なので扱う技術分野が変わったりすると苦労する人もいます。
ベテランの人がこの本を読んでも、そんなの知ってるよ、とか、そんなのは経験すればわかること、という感想を持つ人もいると思いますが、明細書の書き方を系統だって説明する書籍はかなり珍しいと思います。
新人知財研修を受けずに、キャリアの途中で知財に来た私にとっては「こういう一冊が欲しかったんだ」というような本でした。知財に異動してきたときに、この本に出会っていればよかったな、と思いましたが、今読んでも十分に面白かったです。
①知っているうえで本に書かれているスキルを使わないのと、②知らないでスキルを使わない(使えない)では大違いですので、私も50件程度内製明細書を作成して自分なりに明細書の型ができてきている時期ですが、今の時期でも読めてよかったと思いました。自分なりの型が定まってきた人でも、一読する価値がある本だと思いました。
機械系の本も購入済みですので、次は機械系特許明細書の書き方の記事でも書こうと思います。本日も最後まで読んでいただきありがとうございました。なお、私はこの本を出版している事務所の回し者でも、この事務所と直接取引をしている人間ではありません。