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「Union Stockyards」のデザイナー・ダイアリー(Union Stockyards Designer Diary)

本記事は、 Duane Wulf氏が、2022年3月15日から2022年5月2日までの間、BGG上に投稿した「Union Stockyards Designer Diary」のPart1からPart7の翻訳である。

Union Stockyards」は話題作である。数寄ゲームズから和訳付輸入版が発売されたが、即座に完売したとのことだ。現在、8/2まで予約を受け付けているとのことで、素晴らしいことに、買えなかった人は今の段階で入手の機会が確保されているようである。

他方、プレイした感想をみると、ミスマッチを原因として、やや評価が割れているように見受けられる。また、このような過熱ぶりの状況に関しては、良くも悪くも声の大きさを問題視する人もいた。過熱した状況というのは、出版社・販売元にとっても喜ばしいことともいい難い面もあるように思われる。もっとも、何がよろしくないかというのは、状況が落ち着いてから整理すべき話であろう。

ところで、こういう場合に、購入者はどうすれば良いのかを考えてみたい("合理的な一般人"の行動を想定することは、大方の社会科学系の学問分野では古くからのお約束である。)。1つは、プレイ感想をいくつも拾い上げて、どこが良かったか悪かったかの分かれ目を見極めるということが考えられる。しかし、かなりの労力がかかるし、ノイズは多い。そのようなノイズの内容に暗澹たる気持ちになることもままある。

次に、ルールブック、プレイ動画、海外のレビュー記事を読むことが考えられる。もっとも、翻訳するのは手間だ(とはいえ、素晴らしいことに、ルールはBGG上で有志の方の和訳が掲載されている。)。プレイ動画は数時間にも及ぶので見きれないだろう。海外のレビュー記事は、過熱さがないので最適かと思う一方で、この作品限りの個人的な話で一般化できないことも多い(そういう個人的な話は、それはそれで意味のあることではある。)。自分好みのぴったりと解像度が合ったレビューが見つからないかもしれない。

ということで、できることを考えてみると、いつものようにデザイナーがそのゲームの創作過程を記したデザイナー・ダイアリーを翻訳するのは1つの手段になり得るように思われる。一般化できることは少ないかもしれないが、過熱さに囚われた情報の偏りや不幸なミスマッチがわずかでも少なくなればいいなと思われる。

なお、「Union Stockyards」と表記する際はゲームを指しており、ユニオン・ストックヤードと表記する際はゲームの舞台となった食肉処理場を指している。

元記事は以下のリンク先を参照されたい。ヘッダー画像はBGGから引用している(クレジット: Duane Wulf)。

その1:構想

「Union Stockyards」をデザインし始めた際に、テーマが最初にあったか、それともメカニズムが最初にあったかなんて決めることはできない。テーマもメカニズムもどちらとも同時に成立したんだ。ユニオン・ストックヤードをテーマとするゲームが欲しかったし、ランダム性のない需要/供給システムが働く中央市場のあるゲームが欲しかった。そして、そのテーマとメカニクスは最初から調和していたんだ。

シカゴのユニオン・ストックヤードのことを初めて教わったのは、80年代後半に大学に所属していた時だった。私は、サウス・ダコタ州立大学で動物科学を専攻していた。アイオワ州立大学の食肉研究所(meat lab)を訪問したことを覚えてるし、そこでは、この巨大なフレームに入った"偉大なユニオン・ストックヤード"の航空写真が壁に掲げてあった。

クレジット: Duane Wulf

めちゃくちゃ心に刺さったよ! その写真をじっと見つめて、こんなにも広大な場所がかつて存在していたなんて想像だにできなかった。(2009年まで開業していた)スーフォールズ・ストックヤードには何回も行ったことがあるけど、このユニオン・ストックヤードは、少なくとも30倍も広大だ!

その日から、私は、ユニオン・ストックヤード(1865年から1971年まで)の歴史に魅了されたんだ。シカゴにあるその跡地に3回訪れたことがある。このボードゲームをデザインしている間、アプトン・シンクレアの「ジャングル」(1906年)をはじめとして、「ユニオン・ストックヤードに関する9つの本とレポートを読んでしまった。

2017年8月8日、ツーソンからダラスへのフライトの間に、このボードゲームの当初のコンセプトを自分の携帯電話に書き留めたんだ。ゲームの最終版は、ワーカープレイスメントゲームであることと、ゲームプレイに影響する歴史的なイベントがあることを除けば、この最初に書き留めたメモとあまり似通ったものではない。

最初に書き留めたメモは以下のとおり。

クレジット: Duane Wulf

本当に経済的なユーロゲームが大好きなんだ。特に、需要/供給システムが働く市場が好きだね。多くの傑作ゲームから着想を得た。市場が機能する有り様については「クランズ・オブ・カレドニア」が本当に好きだし、「電力会社」や「ブラス:バーミンガム」で用いられた単純な市場も好きだ。けれども、これらの市場メカニズムは、ゲームプレイの中心ではない。こういったゲームにおいては、プレイヤーは市場に注意を払って、それに従って意思決定を合わせる必要がある。しかし、これらには市場よりも重要な他の要素がある。「Stockpile」や「Panic on Wall Street!」のように、市場が主要な焦点となっているゲームがあるが、市場の変化はランダムに決まってしまう。これに対して、私は、ランダム性が低いゲームをデザインしようとしていた。プレイヤーアクションによって価格が上下するようにしたかったし、市場がゲームプレイの中心となって欲しかった。「Raccoon Tycoon」と「Excavation Earth」はどちらも、プレイヤーによって決定されてゲームプレイの中心となる洗練された市場メカニズムが導入されている。だけど、私は、自分のゲームでは、直接的な市場操作を少なくしたかったし、自分のアクションのタイミングに左右されにくいようにもしたかった。こういった全ての傑作ゲームやその他のゲームが「Union Stockyards」の最終版に影響を与えたんだ。

そういうことで、4年前の当初から、「Union Stockyards」における私の目標は、以下のとおりである。

  1. ゲームプレイの中心となる、ランダム性のない需要/供給システムが働く市場であること。

  2. シカゴの偉大なユニオン・ストックヤードに基づいた歴史的なテーマであること。

  3. 私がプレイするのが大好きであり、飽きてしまう前に数え切れないほどのプレイをする必要があるゲームであること。

その2:市場のメカニズム

「Union Stockyards」において、完成に至るまでに最も時間がかかり、幾度とないやり直しを繰り返した要素は、市場のメカニズムだった。私は、プレイヤーの意思決定によって価格の上下の変動が決まる、ランダム性のない需要/供給システムが働く市場を求めていた。それに、この市場がゲームプレイと戦略の中心的な焦点になって欲しかったんだ。最終的な市場のメカニズムに至るまでに約4年ものテストプレイが必要となった。

「Union Stockyards」においては、プレイヤーは食肉加工業者となる。それゆえに、家畜の値段が低い時はより多くの利益を得られるし、家畜の値段が高い時は少ない利益しか得られない。3種類の家畜(牛、豚、羊)のそれぞれに値段があり、それぞれの値段は別個に上下する。そうすると、ゲーム中に時々、牛が低い値段となり(高収益)、豚が高い値段となる(低収益)可能性があるし、その逆もある。当初、私は、動物が値下がりしていくトラック上に置かれるといった「電力会社」や「ブラス:バーミンガム」と似た市場のメカニクスを試した。けど、ゲームの焦点となるはずのものにしては、そんなにわくわくするようなものではなかった。加えて、先手番が極めて有利となってしまったんだ、私が望んでいた以上にね。

クレジット: Duane Wulf

そして、各ラウンドの最初に、3種類の家畜(牛、豚、羊)に対して、プレイヤーが秘密裏に食肉処理の最大量(需要)を決定し、その後、同時にその計画を明らかにするというメカニクスを試した。そして、それぞれの需要の合計が、各家畜の価格を上下に変動させる。1年間に及ぶテストプレイの間、このメカニクスのバリエーションを数多く試したが、最終的には、あまりにもランダムに見えてしまうので、その案を破棄したよ。プレイヤーは、この重要な食肉処理の最大量に関する意思決定を非常に少ない情報下でしなければならなかった。時には、プレイヤーは、利益を得たり、他のプレイヤーを害したりするために、予想していたのとは全く異なる計画を明らかにし、狂ったような市場の乱高下を引き起こすだろう。時間がかからない単純なゲームであれば、面白いのかもしれないけれど、運要素が低い経済的なユーロゲームとして私が望んでいたものではなかった。

クレジット: Duane Wulf

"残った家畜(leftover)"を市場の調整の軸とし始めた時から打開策が見えてきた。各ラウンドの開始時、家畜場(yards, ※stockyardのyardであり、囲いとか置き場といった意味があり、ここでの意味は屠殺場に近いかもしれない。)には一定数の動物がいる。プレイヤーはラウンド中に動物を屠殺し、ラウンド終了時に家畜場に残っている動物の数によって次のラウンドの価格が決定される。もし、もっと多くの動物が残っていたら、その価格は下がっていただろう。もし、残った家畜がわずかであるか全くない状態であれば、その価格は上がるだろう。例えば、プレイヤーらがより多くの牛を屠殺することを選択した場合には、次のラウンドでは牛の値段は高くなる。私は、モンテカルロ法のアルゴリズム(Monte Carlo algorithms)を開発して、価格調整がまさしく適切にされるために数千回に及ぶゲームプレイをシミュレートした。しかし、テストプレイヤーは、必ずしもコンピュータのシミュレーションのようには行動してくれるわけではない。もし、プレイヤーがあまり屠殺をしなかったならば、このメカニズムは全ての価格が下がるように働き、ゲームが非常にゆるいものになってしまうだろう。要は、大儲けするのが簡単すぎてしまうわけだ。良いメカニクスだったけど、時々、ゲームが壊れてしまうんだよね。

クレジット: Duane Wulf

最後の打開策がもたらされたのは、残った家畜の絶対数(絶対値)ではなく、相対数(相対値)に従って価格を調整した時だった。残っている動物の正確な数に基づいて価格調整をするのではなく、残っている動物の数が相互に比較される。最終版では、残っている動物の数が最も多い家畜の種類(複数も同じ)については2ドル価格が下がり、残っている動物の数が最も少ない家畜の種類(複数も同じ)については3ドル価格が上がる。もし、3つ全ての家畜(牛、豚、羊)の残っている数が同数である場合には、価格調整は一切行われない。この市場メカニクスは、プレイヤーらが屠殺をすることを選択した家畜の全体的な多寡に左右されないが、どの家畜を屠殺することを選択したかに左右される。また、この市場メカニクスは、本当に巧妙な市場操作に係る意思決定もできるようになる。特に、手番順の後のプレイヤーによってだ。例えば、現在、家畜場に3種類の家畜(牛、豚、羊)がそれぞれ2頭いて、自分がラウンドの最終手番を行うとする。もし、羊を屠殺することを選択したのであれば、次のラウンドで羊の価格の上昇を引き起こしているだけでなく、牛と豚の価格の下落も引き起こしている。その結果、残った家畜は、牛/豚/羊が2/2/1頭となる。要するに、牛と豚が最も多い動物となって2ドル価格が下落するが、羊は最も少ない動物となって3ドル価格が上昇する。最終的に、私がずっと探し求めていた市場メカニクスを見つけたんだ。単純で、ランダム性がなく、プレイヤーによる操作が可能で、商品市場とテーマ性が合致し、私の知る限り、数あるボードゲームの中でも独自性のあるものとなった。

クレジット: Duane Wulf

その3:建物

ユニオン・ストックヤードの初期の頃、多くの血、はらわた、髪の毛、その他の廃棄物は、シカゴ川の南部支流に投棄された。その水は、メタンと硫化水素のガスが泡となって湧き立ち、"バブリー・クリーク(Bubbly Creek, ※泡の川)"として知られるようになった。スウィフト社の創設者であるグスタヴァス・スフィフト(Gustavus Swift)は、しばしばバブリー・クリークに行き、どれほど多くの原料が無駄となっているか嘆いていた。彼は、自身の化学者とエンジニアに対して、この廃棄物から利益を生み出す方法を見つけるように申し入れた。実のところ、動物のあらゆる部位から価値を得るために長年かけて多くの新しい製品や製造方法が開発されていた。シカゴの食肉加工業社者は、"悲鳴を除いた豚の全ての部位を使った"と言われていた。

クレジット: Duane Wulf

ゲームデザインの初期の段階から、「Union Stockyards」には、牛、豚、羊の利ざや(profit margins)を増加させる建物カードが含まれていた。例えば、ラード精製所は、豚から得られる価値を3ドル増加させる。

ゲーム内の全ての建物カードは、シカゴのユニオン・ストックヤードに存在した実際の工場に基づいたものである。牛の利ざやを向上させる建物の中には、皮なめし工場、オレオ油製造工場、氷貯蔵施設(ice house)、缶詰製造工場、にかわ工場(glue works)、牛骨加工場(bone house)、それに石鹸工場がある。豚の利益を増加させるために、塩漬け加工場(curing room)、ソーセージ製造場(sausage kitchen)、燻製場、ラード精製場、ソーセージ乾燥室、肥料工場、毛髪工場(hair factory, ※屠殺した動物から(人工の)髪の毛を製造する工場があったとのこと)、ペプシン剤製造場(pepsin laboratory, ※消化薬)を建設することとなる。羊の利ざやは、羊の毛刈り場(wool pullery, ※どちらかというと、皮剥ぎのほうが意味合いが近い。)やヴァイオリン弦の製造工場を建設することによって効率化するかもしれない。建物の中には、他の建物よりも強力なものがあるが、それは建設コストも高くなる。

単純な計算で建物の効果のバランスをとるのはそこそこ容易なことだった。けれども、建物を獲得するためのメカニクスを決めるのは、多くのやり直しとテストプレイが必要となった。単純にカードタブローを用いるというのは選択肢の1つだったが、ゲームボード場でエリアコントロールの要素があるというアイディアが本当に気に入っていた。エリアコントロールにより追加されるプレイヤーの意思決定と共に、ゲーム全体を通じてパッキングタウン(Packingtown)が"発展する(growing)"という視覚的な効果を気に入ってたんだ。

様々なバージョンを試してみて、最終的に、グリッド状に配置されるサイズと形が異なる建物というアイディアに落ち着いた。グリッドのマス目1つ1つが、1ドルのコストがかかる土地である。したがって、建物が大きくなればなるほど、コストは高くなっていく。建物は長方形又はL字型をしていて、サイズ的には2マスから8マスまでのものとなっている。製造されたゲームには、高さが異なる木製の建物が含まれていて、発展するパッキングタウンという視覚的効果を実現しているだろう。

建物については他にゲーム的な要素がある。同じ色の建物を隣接させると得られる"効率性"ボーナス、アイコンと合致した建物を所有しているともらえる専門家ボーナス、それに、ゲーム終了時の得点となるかもしれない鉄道を接続させる機会が含まれている。

クレジット: Duane Wulf
建物のプロトタイプ
クレジット: Duane Wulf

その4:労働組合

ユニオン・ストックヤードの歴史の大部分は、労働組合、労働争議、労働者のストライキが関係していた。精肉合同連合組合(The Amalgamated Meat Cutters union, ※多くの人にとって馴染みのあるbutcherという単語は1頭の牛から部位ごとに切り出す食肉解体業を意味し、meat cutterは部位ごとに切り出された塊の肉を小売できるように切る精肉業を意味するとのこと)は1897年に結成され、今日でも全米食品商業労働組合(United Food and Commercial Workers)として存在している。労働環境を含めた労働条件(Worker conditions)は劣悪なことが多かった。ユニオン・ストックヤードが開設して間もない頃は、特にそうだった。そして、いくつかの重要な意義のある労働者のストライキが発生した。労働条件はゆっくりと改善していき、1日8時間労働といった労働の進歩が実現した。

1904年の食肉処理業の労働者のストライキ
クレジット: Duane Wulf

テーマ的な理由から、労働組合がプレイ中に何らかの役割を果たしてくれることを望んでいた。けれども、興味深い意思決定を生み出す形で労働組合を実装する方法が分からなかったため、このゲームの初期バージョンではこの要素が含まれてはいなかった。最終的に、労働組合の勢力トラック(a Union Spirit track)を思いついた。もし、労働組合の勢力トラックが一定のレベルに達したら、ストライキが発生する。(イベントカードである)年カード(The Year Card)により、労働組合の勢力がどの程度変動するかが決定される。そして、これによって、全プレイヤーが平等に影響を受けることとなる。

元々は、各プレイヤーが独自の労働組合の勢力トラックを有していた。もし、プレイヤーが労働者の満足し続けるアクションを選択すれば、別のプレイヤーがストライキに対応しなければならないかもしれないところで、自分はストライキを避けることができる。もし、ストライキが発生すると、プレイヤーは、"賃上げ"(一定額のお金を支払って、自分の労働組合の勢力トラックを2つ減らす)か、"労働組合の解散"(1ラウンドに2つのワーカーを減らすが、自分の労働組合の勢力トラックを0にする)のどちらかを選択しなければならない。最善の選択肢が現在の市場の状況、現在の自分の利ざや、このラウンドでどのアクションを行いたいと思っているかによって異なるので、これは面白い意思決定になった。幸いなことに、生涯にわたって労働組合のメンバーであったテストプレイヤーに出会った。彼は、"労働組合の解散"を喜んでプレイできなかったんだ。たとえ、その特定のラウンドにおける最善の意思決定であったから、それを行ったとしてもね。このことは私にとって大きな教訓となったし、そのメカニクスを取り除くこととした。

「Union Stockyards」の最終版は、全プレイヤーのための労働組合の勢力トラックを設けた。これによって付加された協力的な要素が好きだし、テーマ性も増したんだ(歴史上のユニオン・ストックヤードのストライキでは、食肉加工業の労働者が一斉にストライキを起こした。)。もし、ストライキが発生したら、全てのプレイヤーは、ピケライン(the Picket Line, ※ストライキなどの際、妨害者の通行を阻止するためにつくった横隊。労働者は、使用者に比べると、基本的に弱い立場に置かれていることから集団(全員)で行動することが重要とされる。そのために、スト破り等の妨害者が出ることを防止するために監視する者(ピケ)を置くことが多い。)にワーカーを1つ失ってしまうとともに、士気低下トークンを1つ得る。ゲーム終了時の得点は、プレイヤーが士気低下トークンを保有している数に応じてマイナス点をくらうという結果になる。ゲーム中に、プレイヤーは、"8時間労働制"か"賃上げ"というアクションを実行して、士気低下トークンを1つ破棄し(自分のみが得をする)、労働組合の勢力トラックを下げることができる(全プレイヤーが得をする)。

追記(2022年5月4日):最終版がどういう"感想"を抱くかについて全く説明してないことに気づいたよ。そこで、もう少しだけ話をさせてほしい。私たちは、何回も修正を繰り返した。そして、テストプレイヤーは、間違いなく、共通の労働組合の勢力トラックが最も気に入っていた。これによって、自分のアクションを通じて多くのことを達成したいという気持ちと、士気が低下しすぎないようにしたいという気持ちとの間で素晴らしい緊張感が生み出される。新規プレイヤーは、労働者の士気を蔑ろにして破滅することが多い。幸せな労働者を望むのであれば、ビジネスの成長を犠牲にしなければならない。それは、プレイヤーの中には非常に困難と思う人もいるだろう。何回か、経験豊富なプレイヤーが新規プレイヤーに"労働者の士気を蔑ろにするなよ!"ってアドバイスをしていたことがある。

クレジット: Duane Wulf
クレジット: Duane Wulf

その5:年カード

2017年に作成した最初のメモによれば、「Union Stockyards」には、年カードという形で"イベント"が含まれていた。私は、「オルレアン」や「マラカイボ」のような全てのプレイヤーに平等に影響を与えるゲーム内のイベントがあると楽しんでしまう。年カードを含めることで、実際の歴史上の出来事を用いることを通じて、テーマ性も豊かさを増す。1893年のシカゴ万国博覧会や第一次世界大戦といった、いくつかの出来事は採用することが明らかだった。1875年から1930年までのシカゴ、アメリカ、世界の歴史を調査して、シカゴ又はユニオン・ストックヤードと何らかの関連性のある41個の歴史的な出来事のリストをまとめ上げた。このゲームの最終バージョンでは、24枚の年カードに選りすぐったよ。

初期のプロトタイプでは、年カードは家畜の入荷数を決定し、時々、肉の価格に影響を与えるものだった。しかし、私は、市場をゲームの中心的な要素にしたかったし、プレイヤーのアクションによって市場の変動が決定されるようにしたかったわけだ。年カードにはテーマ性はあるけれども、市場に対して過分なランダム性を加えてしまうものでもあった。

クレジット: Duane Wulf

このゲームに後から追加された要素であって、私が特に気に入っているのは、年カード上にワーカーを配置するアクションスペースがあることだ。これらによって、その年限り利用できる追加のアクションがもたらされる。このアクションは、通常、ゲームボード上の通常のアクションスペースよりも、わずかに強力となる。最終版の24枚の年カードのうち、14枚はアクションスペースを有していて、10枚は即座にゲームの状況に対して全体的な影響を与えるものとなっている。

このゲームは、6年(ラウンド)にわたってプレイされる。各年に4枚の年カードが出現する可能性がある(例:1年目のカードが4枚、2年目のカードが4枚などなど)。ゲームのセットアップ中に、プレイヤーは、公開しないままで、4枚で構成されるカードデックからランダムにそれぞれ1枚の年カードを選ぶ。そして、6枚の年カードのデックを作成する。各年の最初に、次の年カードを公開し、記載された出来事を読み、労働組合の勢力トラックを調整する(カードの右上の数値)。ランダムなセットアップと、"良い"イベントと"悪い"イベントがあることによって、同じゲームは二度とないんだ。

クレジット: Duane Wulf

その6:ブランチ・ハウス

"ブランチ・ハウス(branch house, ※支店と言った意味)"というのは、基本的には、食肉加工業者が人口の多い地域に建設する倉庫と営業所を兼ねたものだった。こういったブランチ・ハウスは、ほぼ毎日、鉄道で屠殺場から輸送された肉を受け取った。ブランチ・ハウスの中には、ハムやベーコンの燻製といった更なる加工を行うところもあった。今日では、サウスダコタ州のデッドウッドにあるホテルに改修されたブランチ・ハウスに宿泊することができる。

クレジット: Duane Wulf

「Union Stockyards」のプロトタイプの第4版にブランチ・ハウスを追加した。プレイヤーは、市場にブランチ・ハウスを配置し、基本的には、即時に得られる利益とゲーム終了時に得られる利益の両方を受け取る。即時に得られる利益は、最初のバージョンからあまり変更なかった。つまり、プレイヤーは、ブランドの評判か、肉の高い利ざやのどちらかを受け取る。例えば、ニューヨーク市にある区のユダヤ人居住地域(the Jewish boroughs of New York City)にブランチ・ハウスを建設すると、羊の利ざやが増加する。ゲーム終了時に得られる利益は、多くの修正過程の中で消え去った。以下に示す画像の初期バージョンにおいては、各市場に最も多くのブランチ・ハウスをもつプレイヤーが、ゲーム終了時にボーナスを受け取ることとなっていた。

クレジット: Duane Wulf

以下に示す画像のバージョンの時は、ブランチ・ハウスが左から右に配置されて、淡い茶色(tan-colored)の場所の数によって制限される。ゲーム終了時に明らかとなった最高値が、その市場におけるブランチ・ハウスの価値となる。これは、当該市場における市場シェアの"分割"をシミュレートしたものだった。

クレジット: Duane Wulf

最終版においては、ブランチ・ハウスのゲーム終了時の価値は、その市場に対してどのくらい多くの"鉄道の接続"がされているかによって決定する。ゲームのセットアップ中、鉄道接続トークンは、パッキングタウンの鉄道側にランダムに置かれる。プレイヤーが鉄道接続トークンに隣接して建物を配置すると、そのトークンを裏返して対応する市場に配置する(つまり、プレイヤーはその市場に対して鉄道をつなげたこととなる。)。"ワイルド"の鉄道接続トークンが2つある。このトークンを用いる場合には、プレイヤーはどの市場に鉄道を接続するか決めることができる。ゲーム終了時に、それぞれのブランチ・ハウスは、その市場に存在する鉄道接続ごとに2ドルの価値がある。こうすることで、ブランチ・ハウスと建物の両方を配置する際に面白い意思決定が生み出される。ブランチ・ハウスを配置する場合には、即時に得られる利益とゲーム終了時に得られる可能性のある利益を考慮する必要がある。建物を配置する場合には、その市場にブランチ・ハウスが存在するかどうかによって、鉄道の接続をしようとするか、鉄道の接続を"邪魔"しようとするかが可能となる。また、"ワイルド"の鉄道接続に向けて建設をする競争もあるが、まだブランチ・ハウスを全く設立してないのであれば、あまり早い段階で鉄道を接続したくないと思うだろう。

クレジット: Duane Wulf

その7:テーマ対メカニクス

4年前の当初から、「Union Stockyards」における私の目標は、以下のとおりである。

  1. ゲームプレイの中心となる、ランダム性のない需要/供給システムが働く市場であること。

  2. シカゴのユニオン・ストックヤードに基づいた歴史的なテーマであること。

  3. 私がプレイするのが大好きであり、飽きてしまう前に数え切れないほどのプレイをする必要があるゲームであること。

私は、ユニオン・ストックヤードの歴史が魅力的であることがわかり、ユニオン・ストックヤードに基づいたゲームをデザインしたかった。他方、テーマを無視したときであっても、楽しくプレイできるような素晴らしい経済ゲームも欲しかった。テーマ対メカニクスの問題が生じたときは、私は常にメカニクスが最善となるような選択をした。もっとも、おそらく、デザインの過程の中で最も楽しかったことは、テーマと噛み合う楽しいメカニクスを見つけるために自分の脳を酷使することだった。小さな金塊を見つけるのと同じく、最終的に、テーマ的にも筋の通った、非の打ち所がない楽しいメカニクスを特定できたときは、非常に満足感が得られたよ。労働組合の勢力/ストライキのメカニクスとブランチ・ハウスのゲーム終了時の価値は、その完璧なメカニクスを発見するまでの数えきれないほどの修正を経た2つの例だった。

クレジット: Duane Wulf

建物は全てテーマに沿ったものとなっている。牛皮は牛の副産物の中でも最も価値の高いものなので、皮なめし工場は自分の牛肉の価値を4ドル増加させる。豚の小腸は最も一般的な天然のソーセージの皮に用いられることから、ソーセージの皮製造場(The Casing House)は、自分の豚肉の価値を2ドル増加させる。ソーセージの乾燥室は、自分の豚肉の価値を1ドルしか増加させないが、ブランドの評判には星が2つ追加される。その理由は、サラミやペパロニのような高級乾燥ソーセージを製造してパッケージに自分の名前を冠するからだ。

クレジット: Duane Wulf

年カードは全てテーマに沿ったものとなっている。プレイヤーは、1893年の万国博覧会の出店料を支払うことで自分のブランドの評判を上げることができるし、牛肉トラストを形成することによって、自分の牛肉の価値と、他の全プレイヤーの牛肉の価値を上げることができる。アプトン・シンクレアは告発小説である「ジャングル」を発売した際には、すべてのプレイヤーはブランドの評判を失うこととなる。

クレジット: Duane Wulf

ほかにも詳細なテーマ的な部分を盛り込んだ。お金トークンについては、1ドル/3ドル/10ドルとしたかった。 というのは、1ドル/5ドル/10ドルとするよりも両替が楽だし、調査をしていたら、1800年代後半にアメリカ合衆国が3ドルの金貨を製造していたことを知ったからね。3種類のお金トークンの額面は、全て当時のものに由来している。

クレジット: Duane Wulf

シカゴにあったユニオン・ストックヤードは、ちょうど1辺が1マイルの正方形だったので、直感的に正方形のゲームボードになった。ボード上のパッキングタウン、家畜場(yard)、それに鉄道との接続は、実際の歴史上の場所に対応している。

クレジット: Duane Wulf

建物カード、年カード、そしてプレイヤーマットの全てには、歴史を学ぶことを面白いと思うプレイヤーに向けて歴史的なフレーバーテキストを書き入れている。全てのプレイヤーがテーマに興味を抱くとは限らないことはわかっているさ。中にはテーマに嫌悪感を抱く人もいるのは間違いない。しかし、私にとってみれば、私たちの歴史の魅力的な一部をなしている。結局のところ、私は、テーマとは関係なく、素晴らしいゲームをデザインしようとした。テーマを完全に無視していたけど、このゲームを徹底的に楽しみつくしてくれた真剣なボードゲーマーたちと膨大な数のテストプレイをしてきた。そういったことによって、私はとても満足している。

クレジット: Duane Wulf

「Union Stockyards」を数えきれないほど繰り返してプレイしてくれた多くのテストプレイヤーの一人ひとりにマジで感謝したい。このゲームを美しくて直感的にわかる形にしてくれたアーティストのAndrew Bosley、グラフィックデザイナーのJoe WeberとJason Vulkにも感謝するよ。次に掲げる「Union Stockyards」に影響を与えた傑作ゲームのデザイナーと出版社にも感謝だ。私は、これらのいかなるゲームを「Union Stockyards」になぞらえるつもりはないが、個々のゲームは、このゲームのデザインの一面に何かしらの影響を与えたんだ。「Champions of Midgard」、「クランズ・オブ・カレドニア」、「Excavation Earth」、「マラカイボ」、「オルレアン」、「電力会社」、「Raccoon Tycoon」、「Stockpile」、「ワイナリーの四季 拡張 トスカーナ

以上

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