本だより(2)「子どもの脳を傷つける親たち」友田明美
今回ご紹介するのは、小児精神科医の友田明美氏による「子どもの脳を傷つける親たち」です。
「親が子どもの脳を傷つける」という、なかなか刺激的なタイトルですが、虐待や不適切な養育(=本の中ではマルトリートメントと呼んでいます)が脳にどのようなダメージを与えるかを、脳科学的に解説しています。
児童相談所への相談件数も増え続ける昨今、アダルトチルドレン、面前DV(直接暴力を受けるのではなく、目の前で暴力を目撃する、耳にすること)、愛着障害などのことばを耳にする機会は多いのではないでしょうか。子ども時代の養育環境や親との関わりがその後の心理的発達に影響を及ぼすことは広く知られています。
感覚的にも
・人格を傷つける言葉をかけられ続ける
→自分を大切に思えなくなる
・性被害を受けたり、不適切な性的刺激に晒される
→性逸脱しやすい、"メンヘラ"や"病んでる人"になりやすい
といったイメージはあるのではないのでしょうか。
でもそれがなぜか、と言われると、なかなか答えづらいですよね。(縦断的な研究などによって、発達を妨げるリスク要因として証明されてはいますが)
その根拠の一つになりうるのが、マルトリートメントによって脳が変形する(!!)という事実です。
しかもマルトリートメントの内容によって、変形する脳の部位も変わるという…実際に脳の容量や機能そのものにも影響してしまうなんて恐ろしいですね。漠然と「良くないこと」と言われるより危機感が湧いてきませんか?
脳が萎縮して刺激に鈍感になってしまったり、逆に一部分が肥大化して過敏に反応するようになってしまったり。
フラッシュバックやパニックなど、トラウマの対象から離れた後も症状に悩まされるメカニズムが、この結果を見てすっきりと腑に落ちた感覚を受けました。
今までは
身体的虐待=目に見える虐待
心理的虐待=目に見えない虐待
などと言われていましたが、現代の技術を持ってすれば心理的ダメージも可視化されるということです。
逆にポジティブなことばをかけられつづけると、脳細胞が増える、みたいな研究についても学びたいですね。
さらに本書では、愛着障害と発達障害との鑑別についても触れており、「愛着障害は認知や言語習得の遅れを併発するため、発達障害と区別がつきにくい」とされています。
彼らが発達障害を持って生まれたことが育てにくさの一因であり、虐待を受けるリスクを高めてしまったのか、それとも虐待を受けたことの影響として発達障害に似た症状が出ているのか、子どもたちと対峙した際に判断に迷うこともあります。実際には複合的な困難さを抱えるケースもあるでしょう。
愛着障害を抱えた子どもは、特徴としては発達障害に似ていても、発達障害向けのアプローチだけだと改善が見られにくいようです。また治療にも時間がかかると。
大人から見て関わり方がわからない、こちらが一生懸命関わっても反応が見られにくいという子どもに対してこそ、根気強く関わらなくてはいけないなと考えさせられました。効果が見えづらくても無駄ではない…と医師に言われると安心できますよね(単純ですみません)。
個人的にこの本でよいなあと思ったことは、虐待を含む不適切な養育のことを「マルトリートメント」と呼んでいること。
自分のしている養育がもし「虐待」と言われてしまったら、「そんなことはない」「そこまでひどいことはしていない」と否定したくなりますよね。
ことばのマジックかもしれませんが、「虐待」ではなく「マルトリートメント」と言われると、「虐待をする悪い親」VS「ちゃんと養育している良い親」というどちらかの評価とはならず、どの家庭においても状況によっては多かれ少なかれ起きうること、と捉えやすいのではないでしょうか。
不適切な養育をする「親」を否定するのでなく、不適切な養育「行動」を見直そうという視点につながると感じました。
マルトリートメントの考え方は家庭内に限らず、学校やその他の場面でも応用できるものです。子どもに関わる全ての大人が自分事として、子どもへの接し方を振り返ることが必要だと思います。
また、親自身がマルトリートメントを受けて育っているケースでは、自己肯定感を感じにくく育児に自信がもてなかったり、支援者のことばに敏感に反応しやすいことも考えられます。
子どもと一番長く接する親が共感され、認められる経験を積むことができれば、子どもにもよい影響をもたらし一石二鳥の支援効果となるでしょう!
親を非難することは簡単ですが、できている部分を肯定しつつ、マルトリートメントを減らすためにはどうすれば良いか、協働しながら考える姿勢が求められるのではないでしょうか。そんなことを考えさせられる一冊でした。
【プロフィール】
臨床心理士、公認心理師、ときどきNPO理事。
読んだ本の蓄積とoutputの練習を兼ねてnoteを書いています。
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