○○ザキの○○○ソフト
「お母さん、私もあのパンが食べたい」
小学生だった頃の一時期、テレビCMで○○ザキの○○○ソフトをよく見た。CMでは焼き立てのパンを子どもが2つに割いて、そこから湯気がでて最後に食べる様子が映され、本当においしそうだった。
「だめよ、あれはね、変な添加物がいっぱい入っているの。身体に毒よ」
いつもの「身体に悪いからダメ」説で一蹴された。
家で朝食にパンを食べることはあったが、国産小麦にこだわった生協のパンだったり、パン屋で買った耳まで固いイギリスパンであることが多かった。
大量生産のパンに比べそれは値段が高いし、そりゃあ身体にだって良かったと思う。でも私はテレビの中でみる、あのパンに憧れたのだ。こんがり焼いたそれを自分の手で2つに割いて、食べてみたい。
願い虚しく口にすることができずにいたが、毒扱いされたパンを食べる機会は、思いがけずやってきた。4年生の秋にあった社会科見学が○○ザキのパン工場で、しゃがんで説明を待っていた私達一人一人に、係りの人が焼き立ての○○○ソフトを配ってくれたのだ。全く予想をしていなかった出来事に皆喜ぶが、人知れず1番歓喜していたのは私だったと思う。
そう、テレビでみた、あのパン!
ふかふかあつあつで、左右に引っ張ると本当に2つに分かれた、あの時の感動といったら!!
その柔らかいパンは甘くて、柔らかくてあっという間に食べ終えてしまった。ふと隣をみると、丸山君は、一口も食べず手に持ったままでいた。「どうして食べないの」不思議に思い聞いた答えは
「食べるのがもったいないから」
そっちか!!
私は、食べたい欲で我慢できず、あっという間に食べ終えてしまったのに!
丸山君も「食べたことがない」と言い、それを聞いて自分だけではなかった、と意外に思ったような、曖昧な記憶が何となく残っている。
工場の人にも声をかけられた後、丸山君はそのパンを少しづつ味わって食べていた。
時は流れ大人になり、財布を持ち、いつだって好きなパンが買えるようになった。
そんな私は添加物の少ない、しかし安く買えるパ○○の超○をよく買う。