【新書が好き】宇宙人としての生き方
1.前書き
「学び」とは、あくなき探究のプロセスです。
単なる知識の習得でなく、新しい知識を生み出す「発見と創造」こそ、本質なのだと考えられます。
そこで、2024年6月から100日間連続で、生きた知識の学びについて考えるために、古い知識観(知識のドネルケバブ・モデル)を脱却し、自ら学ぶ力を呼び起こすために、新書を学びの玄関ホールと位置づけて、活用してみたいと思います。
2.新書はこんな本です
新書とは、新書判の本のことであり、縦約17cm・横約11cmです。
大きさに、厳密な決まりはなくて、新書のレーベル毎に、サイズが少し違っています。
なお、広い意味でとらえると、
「新書判の本はすべて新書」
なのですが、一般的に、
「新書」
という場合は、教養書や実用書を含めたノンフィクションのものを指しており、 新書判の小説は、
「ノベルズ」
と呼んで区別されていますので、今回は、ノンフィクションの新書を対象にしています。
また、新書は、専門書に比べて、入門的な内容だということです。
そのため、ある分野について学びたいときに、
「ネット記事の次に読む」
くらいのポジションとして、うってつけな本です。
3.新書を活用するメリット
「何を使って学びを始めるか」という部分から自分で考え、学びを組み立てないといけない場面が出てきた場合、自分で学ぶ力を身につける上で、新書は、手がかりの1つになります。
現代であれば、多くの人は、取り合えず、SNSを含めたインターネットで、軽く検索してみることでしょう。
よほどマイナーな内容でない限り、ニュースやブログの記事など、何かしらの情報は手に入るはずです。
その情報が質・量共に、十分なのであれば、そこでストップしても、特に、問題はありません。
しかし、もしそれらの情報では、物足りない場合、次のステージとして、新書を手がかりにするのは、理にかなっています。
内容が難しすぎず、その上で、一定の纏まった知識を得られるからです。
ネット記事が、あるトピックや分野への
「扉」
だとすると、新書は、
「玄関ホール」
に当たります。
建物の中の雰囲気を、ざっとつかむことができるイメージです。
つまり、そのトピックや分野では、
どんな内容を扱っているのか?
どんなことが課題になっているのか?
という基本知識を、大まかに把握することができます。
新書で土台固めをしたら、更なるレベルアップを目指して、専門書や論文を読む等して、建物の奥や上の階に進んでみてください。
4.何かを学ぶときには新書から入らないとダメなのか
結論をいうと、新書じゃなくても問題ありません。
むしろ、新書だけに拘るのは、選択肢や視野を狭め、かえってマイナスになる可能性があります。
新書は、前述の通り、
「学びの玄関ホール」
として、心強い味方になってくれます、万能ではありません。
例えば、様々な出版社が新書のレーベルを持っており、毎月のように、バラエティ豊かなラインナップが出ていますが、それでも、
「自分が学びたい内容をちょうどよく扱った新書がない」
という場合が殆どだと思われます。
そのため、新書は、あくまでも、
「入門的な学習材料」
の1つであり、ほかのアイテムとの組み合わせが必要です。
他のアイテムの例としては、新書ではない本の中にも、初学者向けに、優しい説明で書かれたものがあります。
マンガでも構いません。
5.新書選びで大切なこと
読書というのは、本を選ぶところから始まっています。
新書についても同様です。
これは重要なので、強調しておきます。
もちろん、使える時間が限られている以上、全ての本をチェックするわけにはいきませんが、それでも、最低限、次の2つの点をクリアする本を選んでみて下さい。
①興味を持てること
②内容がわかること
6.温故知新の考え方が学びに深みを与えてくれる
「温故知新」の意味を、広辞苑で改めて調べてみると、次のように書かれています。
「昔の物事を研究し吟味して、そこから新しい知識や見解を得ること」
「温故知新」は、もともとは、孔子の言葉であり、
「過去の歴史をしっかりと勉強して、物事の本質を知ることができるようになれば、師としてやっていける人物になる」
という意味で、孔子は、この言葉を使ったようです。
但し、ここでの「温故知新」は、そんなに大袈裟なものではなくて、
「自分が昔読んだ本や書いた文章をもう一回読み直すと、新しい発見がありますよ。」
というぐらいの意味で、この言葉を使いたいと思います。
人間は、どんどん成長や変化をしていますから、時間が経つと、同じものに対してでも、以前とは、違う見方や、印象を抱くことがあるのです。
また、過去の本やnote(またはノート)を読み返すことを習慣化しておくことで、新しい「アイデア」や「気づき」が生まれることが、すごく多いんですね。
過去に考えていたこと(過去の情報)と、今考えていること(今の情報)が結びついて、化学反応を起こし、新たな発想が湧きあがってくる。
そんな感じになるのです。
昔読んだ本や書いた文章が、本棚や机の中で眠っているのは、とてももったいないことだと思います。
みなさんも、ぜひ「温故知新」を実践されてみてはいかがでしょうか。
7.小説を読むことと新書などの啓蒙書を読むことには違いはあるのか
以下に、示唆的な言葉を、2つ引用してみます。
◆「クールヘッドとウォームハート」
マクロ経済学の理論と実践、および各国政府の経済政策を根本的に変え、最も影響力のある経済学者の1人であったケインズを育てた英国ケンブリッジ大学の経済学者アルフレッド・マーシャルの言葉です。
彼は、こう言っていたそうです。
「ケンブリッジが、世界に送り出す人物は、冷静な頭脳(Cool Head)と温かい心(Warm Heart)をもって、自分の周りの社会的苦悩に立ち向かうために、その全力の少なくとも一部を喜んで捧げよう」
クールヘッドが「知性・知識」に、ウォームハートが「情緒」に相当すると考えられ、また、新書も小説も、どちらも大切なものですが、新書は、主に前者に、小説は、主に後者に作用するように推定できます。
◆「焦ってはならない。情が育まれれば、意は生まれ、知は集まる」
執行草舟氏著作の「生くる」という本にある言葉です。
「生くる」執行草舟(著)
まず、情緒を育てることが大切で、それを基礎として、意志や知性が育つ、ということを言っており、おそらく、その通りではないかと考えます。
以上のことから、例えば、読書が、新書に偏ってしまうと、情緒面の育成が不足するかもしれないと推定でき、クールヘッドは、磨かれるかもしれないけども、ウォームハートが、疎かになってしまうのではないかと考えられます。
もちろん、ウォームハート(情緒)の育成は、当然、読書だけの問題ではなく、各種の人間関係によって大きな影響を受けるのも事実だと思われます。
しかし、年齢に左右されずに、情緒を養うためにも、ぜひとも文芸作品(小説、詩歌や随筆等の名作)を、たっぷり味わって欲しいなって思います。
これらは、様々に心を揺さぶるという感情体験を通じて、豊かな情緒を、何時からでも育む糧になるのではないかと考えられると共に、文学の必要性を強調したロングセラーの新書である桑原武夫氏著作の「文学入門」には、
「文学入門」(岩波新書)桑原武夫(著)
「文学以上に人生に必要なものはない」
と主張し、何故そう言えるのか、第1章で、その根拠がいくつか述べられておりますので、興味が有れば確認してみて下さい。
また、巻末に「名作50選」のリストも有って、参考になるのではないかと考えます。
8.【乱読No.43】「宇宙人としての生き方―アストロバイオロジーへの招待―」(岩波新書)松井孝典(著)
[ 内容 ]
ビッグバン以来一五〇億年の時間スケール、一五〇億光年の空間スケールで地球と文明を考える―それがアストロバイオロジーだ。
環境、人口、食糧問題など、文明の成立基盤を揺るがす現代の深刻な課題を地球システムの問題ととらえ、宇宙の知的生命体の一つ、「宇宙人」として我々人類が目を向けた時、新たに見えてくるのは何だろうか。
[ 目次 ]
第1章 現代とはどのような時代か―宇宙人としての視点をもつ
第2章 地球とはどのような星か―地球をシステムとして見る
第3章 文明とはなにか―人間圏をつくって生きる
第4章 我々とはなにか―地球学的人間論へ
第5章 我々はどこから来たのか―生命の起源と進化
第6章 我々は宇宙で孤独な存在か―地球外知的生命体の可能性
第7章 歴史とはなにか―宇宙・地球・生命・人類のスケールで考える
第8章 我々はどこへ行くのか―人間圏の現状と未来
[ 発見(気づき) ]
人間はどのような環境に置かれているかを知ることができる本である。
地球は、大気・海洋・大陸・生物圏・人間圏などから構成される1つのシステムである。
そして、現代は「地球システムの中に新しく人間圏が出現し、地球システムの構成要素が変わった」時代だ。
システムの特徴はシステムの「構成要素が互いに関係性を持って相互作用を及ぼしている」ことである。
地球システムの構成要素には、磁気圏・プラズマ圏・大気圏・海洋・大陸地殻・生物圏・人間圏・海洋地殻・上部マントル・下部マントル・外核・内核がある。
これらの構成要素の間で物質やエネルギーの出入りがある。
そして、この出入りの駆動力となっているのが、「地球の外側にある太陽からの放射エネルギーと、地球の内部にある熱」だ。
約1万年前に、気候が安定化し農耕牧畜にとって良好な環境になった。
一方、生殖年齢を過ぎたメス(おばあさん)が生き延びることで現生人類のメスの出産と子育てが比較的楽になった結果、人口が増加した。
さらに、現生人類には言語を明瞭に話す能力があるので、「共同幻想」を抱くことができる。これら3つの要因により、人類は農耕牧畜を開始して、生物圏から独立した人間圏を形成するようになった。
人間圏の発達段階には2つの段階がある。
まず、「地球システムの、もともとの物質・エネルギーの流れ(フロー)を利用するだけ」の段階であるフロー依存型の農業文明の段階。
次に、人類が「人間圏の内部に駆動力を獲得し、それによって地球システムの物質・エネルギーの流れが誘起され、したがって地球システムに影響を及ぼすような」ストック依存型の工業文明の段階。
産業革命以後、化石燃料のようなそれまで地球にストックされていた物質が人間圏の駆動力として利用されている。
我々現生人類は言語を明瞭に話すことができるので、自分の経験を他の人に伝えることができる。
経験を共有する能力、いいかえればイメージを共有する能力は多くの人間の間で抽象的な概念を共有することも可能にする。
このような抽象的概念を「共同幻想」という。
現生人類はこの「共同幻想」(宗教はこの1例)に基づいて共同体を形成している。
地球は今からおよそ40億3000万年前に誕生し、地球上には38億年くらい前から生命が存在する。
生命の材料物質は宇宙から隕石に乗ってやってきた可能性があるが、「細胞レベルの生命になると原始地球で生まれたというのが一般的な考え方」である。
地球が誕生した時から海は存在していて、この海で生命が誕生した。
生命の材料物質はタンパク質と核酸である。
タンパク質を構成している単位のアミノ酸、および核酸を構成している単位のヌクレオチドのそのまた基本的な分子である核酸塩基が、どのようにして形成されるかという点については研究が進んでいる。
これに対して、タンパク質と核酸がどのようにして細胞という構造を形成するのかという点についての研究はほとんど進展がない。
生物は細胞の内部に核を持たない単細胞生物から細胞内部に核を持つ多細胞生物へと変化し、環境に適応して進化してきた。
太陽系の中で地球以外に生命が存在する可能性のある天体は、火星、木星の衛星エウロパ、土星の衛星タイタンの3つである。
この3つには海が存在する、またはかつて存在していたという共通点があるが、今のところ生物は発見されていない。
太陽系の外については、現在の観測技術では地球のような惑星を見つけるのは困難だ。
150億年前に始まった宇宙の歴史は、均質な状態から異質なものが生まれてきた過程といえる。
いいかえれば、宇宙も地球も生命もこれまで分化という方向に進んできた。
そして、これは将来も変わらないだろう。
人間圏の拡大率と地球の成長率を比較すると、人間圏の1年が地球の1万年に相当する。
そして、「1年間に人間圏に流入する物質の移動量は、地球システムの物の流れに換算すると10万年分くらいの移動量に相当」する。
つまり、地球システムの物の移動率で考えれば、人間圏の1万年の歴史は地球10億年の歴史に相当する。
したがって、人間圏は既に地球システム全体の物とエネルギーの流れを変えるには十分な程度に長く存在しているといえる。
一方、インターネットの発達により、従来共同体を構成要素としていた人間圏が次第に個人を構成要素にしようとしている。
ところが、個人、いいかえれば個体としての人間はこれ以上分けることのできない究極の構成要素である。
究極の構成要素によって構成されるシステムというものはビッグバンの時の宇宙と同じような状態で、混沌と無秩序の状態だ。
このような状態は分化という歴史の趨勢に反する。
個人と人間圏全体との中間に様々な階層レベルの共同体を構成要素とし、文明の寿命を伸ばす新たな「共同幻想」を生み出すのが人類の課題である。
また、宇宙人といってもホピだとかバシャールだとかキャトルミューティレーションを行っているだとか人間を攫って脳に怪しいチップを埋め込んでいるとかピラミッドやナスカの地上絵に関与したたとかいう類の与太話とは違う。
宇宙まで進出した人間社会を、まさに宇宙的な規模で見直そうという壮大な本である。
そのような視点に立って世界を捉えることをアストロバイオロジーと著者は命名している。
[ 問題提起 ]
本書で語られているのはまず宇宙人としての視点を持つこと。
そこからシステムとしての地球、人間圏という考え方、生命の起源、地球外生命体の可能性、歴史や文明のあり方についてとと幅広い話題が展開されている。
宇宙的な規模で見ているので、当然のことながら話は壮大である。
たとえば歴史といえば、いいくにつくろう鎌倉幕府、のようなことが想起されるかもしれないが、そんなレベルのことは語られない。
数百万年をほんの数ページで述べるというすさまじいスピードである。
驚くのは、そのスピードで歴史を振り返ることでどれだけ現在が特異な時代なのかがはっきりすることだろうか。
というのは、移動と資源の消費の速度(、そして量)が近代に入ってから明らかに大きな変動をしているからである。
著者の言葉を借りればフロー型からストック型に変わった。
つまり、地下資源として蓄えられていたエネルギーを猛烈な勢いで消費することで今が成り立っている。
これが特異である、と。
歴史についてもこの調子なので、生命については太陽系内の生物の可能性から、太陽系外の生物に至るまでの話題がある。
火星探査が進んでいるので、火星にかつて水があり、それどころか近い過去にも地表に水が流れた証拠があるとの記事がだされたことは記憶に新しい。
他にも太陽系には二つ、生命の可能性が指摘されているところがあるが、それがどこかは本書をあたってみて欲しい。
とにかく、地上からの視点、現在を生きているという視点を離れて、あたかも宇宙人のような視点で世界を眺めると、今まで見えなかったことが見えてくることが面白い。
宇宙、生命、文明といった、壮大でなかなか身近に感じられないことが一つの流れとして自分の上にも流れているのだと実感できる。
そんな新たな地平を見せてくれたことに感謝。
[ 教訓 ]
人類は最も繁栄している生物ではない?
宇宙人が地球を探査したとき、「この惑星を支配しているのは昆虫である」と結論する可能性があると何かの本で読んだことがある。
動物種の中では昆虫の個体数が一番多く、生命として最も繁栄しているのは人間ではないからである。
ダーウィンの進化論以降、私たちは適者生存という考え方に支配されがちだが、何十億年間、ほとんど進化も絶滅もしていない生物もいる。
バクテリアのような単細胞の原核生物は、30億年以上そのままの形を保持するものもいるらしい。
生存環境の幅が広いため、とにかく生き残りやすい。
生物としての繁栄という視点で見ると、高度に組織化、複雑化した高等動物が必ずしも、競争の勝者というわけではないことになる。
人類は増えて生き残るために生きているのではない、と考えた方がよいとこの本は言う。
人類とはそれではいったい何者で、どこへ向かおうとしているのだろうか?
それを天文学、地質学、物理学、歴史学、社会学などを総合して、大きなスケールから語ってみようというのがこの本の試み。
ビッグバンによる宇宙の始まりからの150億年というスケールで、宇宙や地球、そして人類とは何か、を考えようとするのがこの本のメインテーマ「アスロトバイオロジー」であり、著者の言葉では知求学である。
ビッグバン、地球の誕生、生物、人類の登場、そしてこらからをひとつのダイアグラムに描いてみせる。
なぜ人類は人口が増えて繁栄したのか?
大きな理由として、言語の存在と共に「おばあさん仮説」を著者は提唱している。
生殖年齢を超えて生きる雌の個体、つまり、おばあさんは、自然状態の哺乳類では存在していない。
人間にはこのおばあさんがいることで、お産の知識や育児の支援が可能になり、お産の回数や生存確率が飛躍的に高まった、とする説。
しかし増えたことで人間は自然のままにいきることはできなくなった。
20世紀の人口増加率を続けると、2千数百年で地球の重さと人間の体重の総和が同じになってしまうそうだ。
「生物圏」としてみた場合、10億人程度が地球の養える人類の数。
それ以上は地球に何らかの影響(=汚染)を及ぼさずには生きることができない。
既に約80億人いる人口を支えるには、自らが環境自体を農耕に始まる技術と知恵で作り出す「人間圏」にしか、人間が生きていく場所はない。
「自然にやさしい」「環境にやさしい」は、とんでもない誤解であると著者は述べている。
そうではなく「人間にやさしい」を目指すしか選択の余地はないのだ。
この人間圏の本質は時間の加速にあると著者は考えているようだ。
例えば移動手段の発達により、鉱物資源は世界中にいきわたる。
地殻変動による移動とは比較にならない速度である。
遺伝子操作の技術は生命進化さえも加速する。
地球環境に与える影響という観点で見ると、20世紀の質量変化は、およそ地球の歴史の10万年分に相当すると見積もられている。
人類は1万年生きてきたが、さらに1万年生きるとすると環境には10億年分の影響を与えてしまう。
この加速の根本には「右肩上がり」の進歩、拡大という共同幻想が存在しているのだという。
人類は人間圏は成長していると現状を認識している。
だが、宇宙人の視点で、人間圏をとらえなおした場合、この幻想では行き止まりが近いことが分かる。
著者はいくつか面白い提案をしている。
人間圏が環境に求めているのは「物」ではなく「機能」なのだから、所有するのではなく自然から借りる、レンタル思想というコンセプト。
長寿命型文明と短寿命型文明という選択肢。
未来に理想を求めるユートピア思想と、過去に求めるアルカディア思想。
知的生命は環境を認識することができると同時に破壊もするという文明のパラドクス論。均質な世界から分化していく過程が歴史の本質とする分化論など。
この大きな視野で考えるための素材を提供してくれる。
著者は決して明確な答えを書いてくれるわけではない。
語られる内容も厳密に検証した科学でも、統合された哲学でもない。
ただ、我々の生きる世界がより大きな階層システムに何重にも取り囲まれていて、本当の問題は上のスケールから考えないといけないという事実に気づかされる。
政治や宗教で対立するよりも、世界全体で宇宙人としての行き方、行く末を考えるべきだというメッセージのような気がする。
詳細がもっと読みたいと思った。
[ 結論 ]
誕生から百五十億年になる壮大な宇宙の歴史や空間を俯瞰しながら地球の行く末を探っている著者は、宇宙に飛び出せるほどの高度な文明を手に入れたのに、環境破壊、人口・食糧問題など足元の課題に手を打てないでいる人類に、宇宙人として生きる視点が必要だと説く。
地球人だけが絶対の存在と考えていいのだろうか。
地球の外から地球や人間の姿を眺めたら、答えが見つかるのではないか。
鳥瞰、虫瞰ならぬ“宙瞰”の勧めだ。
母には物事を生み出す「根源」の意味もある。
そう、「女」に点を二つ足すと「母」。
二つの点は、子を抱きかかえる両手とも乳房とも言われる。
地球上に原始の生命を生み、はぐくんでくれた母は「海」。
水をたっぷりたたえるその海が、米国の探査車によって、かつて火星の表面にも大量の水で覆われていたことを確かめた。
海があれば、生命の痕跡が見つかるかもしれない。
火星の表面は零下50度と冷たいけれど、地下は温かいだろうから水が今も流れ、生物が生きていても不思議でない。
本書によると、木星の衛星の一つのエウロパ、土星の衛星タイタンにも海の存在が考えられる。
これらの星に、原始的な生命だけでなく知的生命体、異星人が住んでいたら・・・。
想像を一気に膨らませたくなるし、火星の海確認のニュースも、独善に陥りがちな考え方を根っこから見直しては、と促しているのかもしれない。
アストロバイオトロジーとは、150億光年(現在の最新のデータでは137億光年)の空間スケールで地球と文明を考えると言う事。
環境、人口、食糧問題等、文明の成立基盤を揺るがす現代の深刻な問題を地球システムの問題としてとらえ、私達を宇宙の知的生命体のひとつ「宇宙人」として諸問題について書かれている。
「地球にやさしく」と呪文のように繰り返す中途半端なエコ論者に著者は鉄槌を下す。
環境問題の本質とは何か?
この問いかけに、長い時間スケールから、物の道理(物理)から、考えてみる。
まずは、問題の立て方を間違ってはいけない
地球が危ないのではなく、人間圏が危ない。
「『地球にやさしい』とか『地球が危ない』という認識がまずおかしい。
地球自体が危ないということは全然ない。
『人間圏が危ない』『人間も含めた生命圏に大きな影響を与える』という問題の設定がまず必要である。
地球の気候が安定期に入った約1万年前に人間は狩猟採取時代から農耕牧畜時代に入り、そこから文明が始まったのだという。
つまり『生物圏』の外に『人間圏』を作り始めた。
狩猟採取という生き方は、生物圏の中の物質やエネルギーの流れを利用する生き方、つまり、生物圏の食物連鎖に連なって生きる生き方。
一方、農耕牧畜は森林を伐採して畑に変えたりすることによって、地球システムの物質・エネルギーの流れを変えてしまうという生き方、なのだという。
フロー依存型からストック依存型の人間圏への物質循環のスピードという問題もある。
さらに、人間圏の発展段階は2段階に分けられる。
第1段階は「フロー依存型」(=農業文明)で、例えば江戸時代の日本がそれにあたる。
「フロー依存」というのは、もともとの物質・エネルギーの流れ(フロー)を利用する、という意味。
江戸時代でいえば、1年間に降る雨と太陽の日射を利用して、いろいろな植物を栽培し、あるものは食糧に、あるものはエネルギー源に使う。
このフロー依存型の段階であれば、「地球システムを巡る1年間のエネルギーや物質の流量は一定のままで、その一部分を人間圏にバイパスさせて人間圏を維持させるという生き方」というレベルであって、生物圏に閉じていた時代と大きく変わらない。
しかし、第2段階の「ストック依存型」(=工業文明)では、エネルギー革命や動力革命によって、地球システムの中の物質(ストック)を取り出し、人間圏に大量かつ非常に早く運んでくることが可能になった、という。
あまりに短期間にダイナミックな物理的変化が起きてしまっている、という『変化のスピード』が問題の本質である。
ストック依存型の人間圏が存在するようになったことで、地球の物質循環のスピードがどんどん加速していく。
そうやって物質循環を早めることが今の我々の豊かさにつながっている、というわけだ。
20世紀は石油資源に大きく依存したエネルギー革命の時代だった。
エネルギー革命が大量の生産活動を可能にし、大量の消費を可能にしてきた。
そして、今なお大量生産・大量消費のスピードは緩みそうもない。
そしてもう一つ、20世紀的な豊かさの重要な側面が人口の急速な拡大だ。
現在の世界人口約80億という規模は既にまともな人間圏を維持するのが困難な飽和状態らしい。
また、著者は次のように指摘する。
「我々が生物圏の中の種の一つとして生きるという場合、生物圏の中の物質循環を考えて生きられる人の数を計算すると、500万人程度にしかなりません。
今、世界の人口は60億人を超えますが、1000分の1くらいに減らさなければいけないということです。
人口を減らさないかぎり「地球にやさしい」生き方などはできないのです。
あるいは1歩譲って、人間圏をつくって生きる生き方まで否定しない場合でも、少なくとも地球システムには大きな影響を及ぼさないフロー依存型の人間圏でないと、「地球にやさしく」はありません。
これでも今の人口の6分の1くらいしか生きられません。
フロー依存型人間圏としては10億人くらいの人口が上限です」
考えるということと分かるということを考えた場合、知を伝えることの難しさを痛感する。
閉鎖的になりがちなアカデミズムの世界にあって、「社会へ開いていこう」という意識を強く持っていることは本書の内容からも窺える。
しかし、最近では人に教える、伝えることがすごく難しくなっている。
例えば、150億年のスケールで物事を考えることが大事だ、と言ってもピンとくる人はごく少数の人だけである。
世の中の考える力、分かる力はすごく落ちている。
それは大学院でも同じことで、特に環境系の学生に意外と『考える力』がないことが気になる。
『分かる』ということ、人間がものを考えるというのは、そんな簡単なことじゃない。
いつも何かを日々考えつづけているからこそ、ある日「分かる」という状態がおきるわけである。
何も考えない人が、急に考えられるようになることはない。
最近では、分かる人に分かればいい、と割り切りも必要なのかもしれない。
でも、一方で「分からない人」にも、なるべく分かりやすい言葉を使って、きっかけをつくることも大切だと感じる。
『言ってることが分かる』ということじゃなくて、『自分で何か勉強してみよう』と思ってもらえればいい。
『ほんとに分かってみよう』という出発点になればいいと。
実際、『こういう見方もあるのか。だったらもっと勉強してみよう』という人は多い。
あるレベル以上においては、そもそも知識を教えるというようなことは意味ない。
ものの考え方を教えるべきである。
歴史が分からなきゃ、未来のことも考えられないはずであるから。
要は、ディシプリンがないことが大きな問題である。
今の親がダメなのは、人間としてどう生きていけばいいかというディシプリンがないこと。
私も含めて戦後教育を受けた人間はディシプリンがない。
だから子供なんてメチャメチャ。
それが問題。
人間というのは「他」との関係の中で成長していくわけである。
他との関係で自己というものができるような環境をつくってあげる、ということが重要だと思う。
最初に「自己」があるなんていうのは間違いで、「自己」はつくるもの。
「自己」ができなければ「考える」ことはできない。
ディシプリンがあって、他と関わって、自己ができてくれば、考えることはできるようになる。
でも、今の世の中、つまり日本の戦後は最初から前提が間違っている。
だから今の親がおかしくなる、そして当然子供がおかしくなる。」
また、一点突破からしか全体は見えてこない。
『総合』という名のつくものほどいかがわしいものはない。
1回は要素還元主義を極めないと。
一つのことを極めることで高みにのぼっていく。
そこで初めて全体を見渡すことができるようになる。
エネルギーに関していえば、私はもう『足るを知る』しかないと思っている。
それは理屈で考えてもわからないこと。
そう思いこむしかないということでもある。
受け継いできたものは、そのまま受け継いでいかなきゃいけないことが一杯あるわけである。
幻想は幻想でいい。
それがこの人間圏を運営していく上で役に立つならば。
しょせん脳の中は、幻想にすぎないんだからそこに理屈をつけたってしょうがない。
それぞれの意図でやるしかない。
実験やってるようなものなんだから、生きるということ自体が。
自然という古文書を解読することで、自然を読み解いて、それをフィードバックすることで人間圏に貢献する考え方も大切だと思う。
人間圏をつくるという生き方は単に実験にすぎない。
そういうスタンスをとっていけば、暗い話ばかりの昨今にあって、何かとても気が楽になってくるような気がする。
また、環境問題への取り組み方の話になると、よくヨーロッパの国々(特にドイツ、北欧)がモデルケースとして取り上げられるが、こうした国々と日本とは、人口規模、都市の規模等の国の成り立ちが全く異なることは十分理解しておく必要があるだろう。
ドイツが環境問題で先進国になっている理由は大きな都市がないから。
東京のような、人がこれだけ集まった場所で環境問題に取り組むのは困難。
集中した都市というのは本来はありえない。
マネージできてない。
国をブロックに分割すべきだ。
都市も企業もメガ化の限界にきている。
メガなものに変わる新しい共同体をつくっていくことが緊急の課題だと思う。
情報って何なのかということをもう1回考えないといけない。
我々が考える情報というのは、構造ができる媒介物。
そういう構造をつくりだすことができれば、広告会社も多少は存在理由が出てくると思う。
それがどういう新しい共同体が生まれるかということにも関わってくる。
人間圏がどういう方向にいくかということにも関わってくる。
[ コメント ]
情報を媒介物にしてAとBを結びつけるということが構造を生み出すわけである。
情報というのは、あるものとあるものを結びつけるような作用がある。
情報を共有することによって、ある構造が生まれてくるわけである。
そこが重要なんであって、別の構造をつくっていかなきゃならない。
これからは、環境問題だってなんだって、意味のない構造は崩れてい。
どういう共同体が生まれるかということも、それに対応しているわけである。
それと、今の広告がもっと世の中で機能するためには、単に製品の宣伝をすればいいということではなく、『環境問題の本質は何か』という問いかけをしたっていいわけである。
文明って何かとか。
どういう生き方があるのかとか。
それが日本の広告の場合あまりにも少ない。
もっとそういうところで提案しないとダメだと思う。
わかる企業の場合、絶対そういうことに乗ると思うのだが
情報ではなくて構造をつくること。
情報と情報を衝突させることで立ちあがってくる構造体。
例えば、「提案」や「メッセージ」というのは、広告というコミュニケーションの場における「構造体」の一種なのかもしれない。
要は、人間が作り上げた“人間圏”を悪い方向に持っていかないようにするにはどうすればよいか、という課題に対して、レンタルの思想という考え方が大切なのだろう。
人間の欲望を満たす為に人間圏を拡大してきたのが文明の歴史であるが、今後、生活の豊かさということを考える上で、物の所有について考え直す必要があると提言している。
つまり、豊かさを実現していく上では、実際には物(の所有)を必要としているのでなく、物の機能を必要としているのでないか。
それならば、レンタルという格好で機能を使い、物としては返すという思想で人間圏を考えていけばどうか、というものであるが、このレンタルの思想の提言の中に、人間のからだについて味わい深い文章がありますので以下に紹介しておく。
「我々の存在そのものも実はレンタルです。
我々は自分のからだを自分の所有物だと思っています。
しかし、これは物としては地球から借りているにすぎません。
死ねば地球に返るだけのことです。
借りたものから、各種の臓器をつくり、臓器の機能を使って我々は生きている。その機能を使うということが、生きるためには重要なことであって、からだそのものが物として意味があるわけではありません。地球から材料をレンタルして我々は自分のからだをつくり、その機能を使って生きているだけのことです。」
9.参考記事
<書評を書く5つのポイント>
1)その本を手にしたことのない人でもわかるように書く。
2)作者の他の作品との比較や、刊行された時代背景(災害や社会的な出来事など)について考えてみる。
3)その本の魅力的な点だけでなく、批判的な点も書いてよい。ただし、かならず客観的で論理的な理由を書く。好き嫌いという感情だけで書かない。
4)ポイントを絞って深く書く。
5)「本の概要→今回の書評で取り上げるポイント→そのポイントを取り上げ、評価する理由→まとめ」という流れがおすすめ。
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