
西村賢太「崩折れるにはまだ早い」
2022年7月の読書
西村賢太「崩折れるにはまだ早い」(『瓦礫の死角』所収2019)
文庫本をディスってはいません。単行本の装幀が余りに良すぎたのです。
ネタバレは、ないように気を付けてはいます。
『瓦礫の死角』(2019年11月、講談社)は持っていなかった。付き合っていた頃は新刊が出るといつも、サインしたのを持ってきてくれていたのだが、これは会わなくなってから出た本だし、新作はいつもちょっと腹いせのつもりも兼ねて図書館の文芸誌で読んでいた。
ヤフオク!で見ると彼の没後、多少高くなってはいたが手の届かない値ではなかったし、どうしても欲しかったというのは、当初図書館で借りて読んで、所収の「崩折れるにはまだ早い」と「あとがき」がとても良かったからだ。
「崩折れるにはまだ早い」は、イヤミスの女王、真梨幸子をして「『あ!』と叫んでしまうほど騙された」と書かしめたミステリー風の短編で、小学生の頃から大の横溝正史ファンで、いずれミステリーを書くよう石原慎太郎に勧められてもいた西村賢太の新しい看板であり、だからこその、このタイトルなのだ。
2019年11月3日
『瓦礫の死角』のあとがきを三枚書いて、ファクシミリで送稿。
あまりその類は付さぬようにしているが、集中の「崩折れるにはまだ早い」については、初出の「乃東枯」から改題した経緯に加えて、その思い入れを少しく記しておきたくなった。
自分で云うのも何んだが、該作は拙作の中では同人誌発表の処女作「墓前生活」や「芝公園六角堂跡」他の二、三の短編と共に、自分の本然の資質がよくあらわれているものと思っている。
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