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短編小説・ショートショート

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原稿用紙20枚以下の短編小説をまとめています。
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記事一覧

【ショートショート】滑落(1,358字)

滑落かつ‐らく〔クワツ‐〕【滑落】 [名](スル)登山の際に足を踏み外したりして、急斜面を滑り落ちること。「滑落事故」 (デジタル大辞泉より) ※ ある日、直角三角形の斜辺AB上に存在していた点Pは、斜辺から滑落してしまった。 そこは何もない、問題用紙の余白である。まずいことになったぞ、と点Pは考えた。これではどう動くこともままならない。何もない空間に存在する点Pが動いたところで、どんな数学的問題も組み立てられないからだ。 「あるところに点Pがいました。この点Pが点

【深夜の1時間創作】ビリヤード2【投げ銭】

【まえがき】 限られた1時間で好きなことを書くシリーズです。念のため述べておきますが、毒にも薬にもなりません。「ただの日記」としてお楽しみいただけましたら幸いです。では、ドウゾ。 ------------------------ 【前回の話】 「入んないっすねえ」 僕が盛大にショットを外したのに対し、ため息交じりにだいちゃんが言った。 「そろそろキメてくださいよー、だんだん眠たくなってきました」 「じゃあ、だいちゃんがキメたらいいじゃない」 苦笑しながら台を離

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【深夜の1時間創作】ビリヤード【投げ銭】

【まえがき】 最近、書きたいことがありすぎるのにうまく書く時間が捻出できないというか、もともと書きたいことを書こうと思うと「だーーーーーーーーー」っと長文で垂れ流してしまって、後々まとめるのに大変苦労するという困った性分です。 なので、これはもはや「内容をきちんとまとめよう」なんて考えはかなぐり捨てて、「限られた1時間の中で好きなことを書こう」と思い立った所存。というわけで「深夜の1時間創作」です。はじまりはじまりー。 (※ちなみに、この200字程度のまえがきを綴るだけ

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【創作】ドラえもんを嫌いになった理由(1,771字)【投げ銭】

山内君は、色々なアニメや漫画が好きなのに、ドラえもんだけはどうしても好きになれないらしく、女の子がケータイのストラップにドラえもんを付けているのを見ただけでも、ムッと険しい表情になってしまう。 どうしてなのかと理由を尋ねると、山内君は僕に、 「6月2日」 という答えをくれた。それ以上答えてくれなかったのは、あとは自分でグ-グルでも何でも使って調べろ、とのことらしい。 まったく、インターネットで何でも調べられると思ったら大間違いだぞ、そう言って抗議してやりたかったが、頑

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【創作】タヌジゾウ(1,907字)【投げ銭】

僕の幼いころ、家の裏の池のほとりにタヌジゾウと呼ばれる化け物が住んでいた。普段は地蔵の形をしているけれど、実はタヌジゾウが化けたもので、夜な夜な正体を現しては池の中に住むタニシや鯉やらを食べていた。 タヌキが地蔵に化けたものだからタヌジゾウという名が付けられたが、実際に動く姿を見ると、タヌキとは別物だった。確かに体は茶色く、毛深く、口は尖って獣の牙を生やしていたが、キンタマは銀杏ほどと呼ばれる実際のタヌキより大きく、スイカほど。でっぷり出た腹を時おり手で太鼓のようにポンポン

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【創作】ターニング・ポイント(2,732字)【投げ銭】

俺は滅多なことじゃあ大金を使わない主義だが、その時ばかりは危うく、硬く締まった財布の紐をハサミでチョキンとばかりに切り落としそうになった。 その店で売ってた靴が原因だ。おっ、半額セールやってるじゃねぇか? そう思って飛び込んじまったのがマズかった。いいのが安値で買えるかと思って期待してたのに、「いいもんはあるかい?」そう言って店のネエちゃんに頼んだところが、こりゃあ出されるもんが全部、高級品ばっか。 しかもそいつらときたら、ことごとく「セール対象外」だなんて書いてある。ま

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【佐賀弁小説】深淵(3,421字)【投げ銭】

※本編のセリフはすべて佐賀弁で書かれています。読みづらいところや意味のわからない箇所などございましたら、できるだけルビや注釈(※)を付けますので、ぜひコメント等でご指摘ください。 「さぁさ、食びゅう食びゅう(※食べよう食べよう)!」 母はいつもよりもテンション高めで、まるで歌うように言いながらエプロンをほどき、わざとドカッと音を立ててキッチンチェアーに腰かけた。夕飯は、山のように盛られた肉野菜炒めだ。 「オカン、何か嫌なことでもあったと?」 「え? 何(なん)が?」

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【創作】日曜の午後3時頃(1,298字)【投げ銭】

私は毒薬を飲んでしまったので、解毒剤が欲しかった。 先ほどから冷蔵庫やタンスやいろんなところを探しているが、一向に出てくる気配はない。 おかしいなぁ、確か、まだ捨ててはない筈なんだが。 そこへ愛犬ポチがやってきた。 「こら、ポチ。勝手に上がりこんできてはだめじゃないか」 「ポチじゃねぇ、おいらジョンだ。ジョンって名前に変わったんだよ。ポチなんてダッセー名前、とうに捨てちまった」 ほぉ、主人に向かってタメ口をきいている。しかも自分のことをジョンだと。 「おいお前、

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【創作】ねこだるま(4,852字)【投げ銭】

ねこだるまには手も足も無い。三角形の小さな耳がふたつ生えた頭に、ずんぐりした胴体、それにウサギのようなちょこんとした尻尾が付いている、それがすべてであった。 ねこだるまには手も足も無いから、獲物のねずみを捕らえることができない。目の前をちゅうちゅう鳴いて通り過ぎるのを見て、いっしょうけんめい飛び跳ねながら追いかけるけれども、それで追いつくはずが無い。だから、ねこだるまは昼間、いつもお腹を空かせている。 だけど夕方ぐらいになると、よく仕事帰りのOLなんかが、街角でねこだるま

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【創作】曼珠沙華(まんじゅしゃげ)(2,114字)【投げ銭】

彼女の細い腕からポタリと垂れたのは、紅い血だった。 反対側の手には、先端を同じ色に染めた、ぎとぎとした鈍い光沢を持つ剃刀(かみそり)が握られていた。 「……何をしているの?」 僕の第一声はそれだった。 放課後の教室の静けさの中で、その声はやけに響いた。まるで詰問(きつもん)のようだったが、他に何が言えたろう。 彼女は何も答えず、切った腕を庇(かば)うように、僕に背中を向け、嗚咽を始めた。 そして空間を切り裂くような鋭い音が起(た)つ。剃刀が彼女の手から落ちたのだ。

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【創作】タカラノアリカ(3,734字)【投げ銭】

「今や国内で全人口の約5%が頭に『包帯』を巻いている」 「四十代の男性が、妻39歳と娘17歳の二人の首をはね、殺害した容疑で逮捕。被害者二人の頭には、『包帯』が巻かれていた」 カズマは、新聞の二つの記事を複雑な心境で見比べていた。ふと目の前へ朝食後のコーヒーが差し出されたのに気付き、顔を上げる。目が合ったとき、妻ヨウコは一度だけ微笑んで、俯(うつむ)いた。壊れそうな儚い笑みだった。 妻の頭にも、『包帯』が巻かれている。 ※ この世には、俗に『宝持ち』と呼ばれる人々が

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【創作】30(サーティ)(1,680字)【投げ銭】

幸せが逃げて行く気がした。 逃げるとはつまり足や翼があって僕の元からいなくなることを意味しているのだけれど、「幸せ」なんて形すら無いものが、果たしてそう自ら意志を持って去っていくことがあろうか。 ある筈がない。 なのにわざわざ「逃げていく」と表現したのは、これは比喩だからに他ならない。 なのに君は 「えっ、幸せって逃げるの!」 なんて目を丸くしている。 「違うよ。実際には逃げないよ」 「えっ、逃げないの!だって今逃げていくって…嘘ついたの?」 「嘘じゃないよ

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【創作】「お前、玉ねぎ好きだよな」と男友達に言われ、マジでそのエロさに気付いた件(2,583字)【投げ銭】

【原題:玉ねぎ(2008.4.23.)】 「ケンジってさぁ、玉ねぎ好きだよな」 大学生で一人暮らしをしていた時代、ある友人を家に呼び、彼に味噌汁を作ってやっているときに言われた台詞である。 男が、男友達に味噌汁を作る……あまり普通では考えられないようなシチュエーションかもしれないが、当時私は、当たり前にそのようにしていたと思う。別に、私がホモ・セクシュアルだったというわけではない。私の家に呼んでいるのだから、家主が客人をもてなすのは当然である。ちょっとの間でもお茶ぐらい

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【創作】文字通り喉から手が出て店の高級革靴を盗んで食べた泥棒が、巨万の富を得た話(7,017字)【投げ銭】

【原題:To Have and Have Not(2009.10.27.)】 「喉(のど)から手が出る」という心理状態の人間が、具体的な行動を起こしたときの非常に極端な場面に、私は遭遇してしまったように思う。 その男は最初、物欲しそうな目で、駅に続く通りにあるショップのショーウィンドウを見ていた。それはオードリー・ヘプバーン主演の映画なんかにも出てきそうな、オシャレな感じのブランド店だ。飾られていたのは、つま先のとがった光沢のある黒いローファー。医者か弁護士か、自分を偉く

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