【深夜の1時間創作】ビリヤード【投げ銭】
【まえがき】
最近、書きたいことがありすぎるのにうまく書く時間が捻出できないというか、もともと書きたいことを書こうと思うと「だーーーーーーーーー」っと長文で垂れ流してしまって、後々まとめるのに大変苦労するという困った性分です。
なので、これはもはや「内容をきちんとまとめよう」なんて考えはかなぐり捨てて、「限られた1時間の中で好きなことを書こう」と思い立った所存。というわけで「深夜の1時間創作」です。はじまりはじまりー。
(※ちなみに、この200字程度のまえがきを綴るだけで、すでに4分かかっています。今後はコピペしていくのでノーカンとさせてください)
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大学時代、アメリカに43日間、語学研修に行っていたことがある。
ビリヤードはそのとき、よくやっていた。滞在していた先の大学寮にビリヤードルームがあり、生徒は24時間、いつでも好きなときに利用できた。そこで同じ日本の大学の出身で、ルームメイトだった、1学年下の「だいちゃん」という男子と、毎晩一緒に遊んだ。
ときどき他のルームメイトが混じったり、韓国の大学出身の生徒が混じることもあったが、だいたい僕とだいちゃんと二人きりだった。
正直、僕もだいちゃんもビリヤードはヘタクソだった。ナインボールをよくやったが、1つの数字の球を落とすのに5分以上かかるのは当たり前、最後の球を落とすのにも時間がかかって、10分以上ひたすら代わり映えの無い光景が続くこともあった。
あの日も、僕とだいちゃんは二人でビリヤードを楽しんでいた。楽しんでいると言っても、下手クソ同士、なかなか狙った球は落ちない。あちこち跳ね返って、またボードの中央に戻る、といった動作を繰り返していた。ハタから見ると、ぜんぜん楽しそうではない。
いい加減落とさないと。僕がヤキモキしながら、自分の番に球を突こうとしていたときだ。「プリーズ」なんて声がして、見ると、例の韓国の大学出身の女子生徒が立っていた。
スラッとした細身の、高身長。肌の色は白く、整った端正な顔立ち。唇はいつも染めているのか真っ赤で、白い肌によく映えた。長い髪をパーマでチリチリにしていた以外は、本当、僕好みの美人だった。僕は黒髪のストレートが好きだったのだ。まぁ、僕の好みなど、ここではどうでもいい。
「プリーズ」と言われるまま、僕は手にしていたキューを彼女に渡した。彼女がそれを持ち、いかにも慣れた構えを取って球を突く。「カッ」と快い音を立てて弾かれた球は、狙い通りの数字の球に「コンッ」と当たった。球は真っすぐ転がり、スッとポケットへ吸い込まれる。
「オー!」
僕もだいちゃんも声を上げた。ふつうにうまいな、と思ったが、続けて彼女が突くと、「ふつうにうまい」どころじゃないのがわかった。続く数字も、またその次の数字も、どんどん数字の球がポケットに吸い込まれていく。
2個同時に吸い込まれたときなんか、思わずテンションが上がって、拍手してしまったほどだ。
そして残すは、最後の9番目の球だけになったとき。彼女が突いた球で弾かれた9番目の球は、一番近いポケットのそばの壁で跳ね返った。「ミスったか?」と思ったが、勢いよく転がり続ける球はもう2回反射を繰り返して、最後は別のポケットに吸い込まれていった。
合計3回の反射で入れるなんて、ヘタクソな僕らからしてみれば、ほぼ奇跡のようなものである。魔法でもみせられているのかと思った。僕もだいちゃんも目を丸くし、口をポカンと空けたアホヅラで、ただただ突っ立っているだけだった。拍手さえ忘れていた。
彼女は「サンクス」と言い、僕にキューを戻すと、ビリヤードルームを去って行った。彼女が僕らのビリヤードに加わったのは、その日が最初で最後だった。
なぜその日、彼女が唐突に僕らのビリヤードに加わったのか、深い意図はわからない。少なくとも、一人ですべての球を落とすという行動から、「僕らと仲良くしたかった」というわけではないのだけはわかる。単に、個人のストレス発散だったのかもしれない。
余計な想像を働かせれば、彼女はよく、とある男子生徒とつるんでいた。確か、僕らと同じ出身大学の日本人生徒で、僕らとは違い、1年間の留学で滞在していた生徒だ。しかし彼は、ときどき違う女子生徒とも一緒にいた。見方によっては、「いろんな生徒に手を出してるプレイボーイ」に見えないこともなかった。
その彼と何かトラブルでもあったのだろうか。そんなのは、僕の勝手な妄想だ。他人の恋路なんて興味なかった。だってそうだろう、いろいろ詮索して、何が楽しいのやら。なんて、余計な妄想を働かせた直後に言うものではないか。
「まぁ、仕切り直すか」僕は言った。
「そうすね」だいちゃんは答えた。
そうして、ビリヤード下手クソ同士の夜はまたふけていった。
(つづく)
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