【ブックレビュー】100万回生きたねこの、100万分の一回のお話
1977年刊行、佐野洋子さんの絵本『100万回生きたねこ』
説明不要、絵本の金字塔です。
その『100万回生きたねこ』へのトリビュート短篇集
『100万分の一回のねこ』を今回は紹介します。
参加している13名の作家はこちら、
なんとも豪華ですね。
このnote内でも同じテーマで作品を集う個人企画などが存在しており、私もたまに参加しています。
もちろん、参加して自分で書くのも楽しいのですが、他の参加者の作品を読むのが好きなんですよね。
なるほど、そんな視点があったとか、あの人らしい文体だなぁとか、とにかく感心することが多く、そんな楽しみ方があります。
そもそも、こういうトリビュート企画は小説に限らず好きなんです。
音楽のトリビュートアルバムとか。
根底に愛とか敬意が溢れていて最高なんですよね。
本書はその作家バージョンでこの面子、そして元ネタが『100万回生きたねこ』なんですから、読む前から面白いことが保証されています。
なので未読の方がいらっしゃれば私の感想など必要もなく、ただ読んでくださればそれで良いのですが、今回一作品だけ感想を書かせてください(私だって愛を伝えたい!)
正直好きな作品だらけなので迷いますが、冒頭を飾る江國香織さんの作品レビューにします。
『生きる気まんまんだった女の子の話』
主人公の女の子は幼い頃両親を亡くし、叔母さん夫婦にひきとられた。
昔話なら、継母や継父は意地悪だったり欲の皮がつっぱっているものだが、そんなことはなく愛情深く二人に育てられた。
叔母からは、たくさんの花の名前を教えてもらい、トラック運転手の叔父にはたくさんの土地に連れていってもらった。
なので、女の子は幸せだった。それにも関わらず女の子は叔母夫婦のことをあまり好きにはなれなくて、そのことを猫にだけは打ち明けていました。
そんな、生きる気まんまんな女の子。
唯一打ち明け話ができる猫に対しても「あんたのこともあまり好きじゃないわ」と言います。
そんな女の子もやがて大人になります。
結婚相手を決めるのも、絶対に好きにならない相手を探し結婚することにしました。
これであたしの孤独は安泰だわ。
この先はネタバレになってしまうので書きませんが、読後はなんとも温かい気持ちになりました。
こんな短い話の中で、しっかり女の子の一生を描き、尚且つ心に残る作品を書けるプロってやっぱりすごいなぁ、と。
全13篇、色々な世界を見せてくれます。
おすすめの一冊です。